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電流出力型DACの消費電力を抑える設計手法電源電圧の動的制御がカギ(1/4 ページ)

本稿では、電流出力型のD-Aコンバーター(IDAC)の消費電力をできるだけ抑えるための設計手法を解説します。

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 本稿では、電流出力型のD-Aコンバーター(以下、IDAC)を使用する際、その消費電力を少なく抑える方法を紹介します。ここでいうIDACには、電流のソースだけでなく、電流のシンクに対応可能なタイプの製品も含まれます。IDAC製品の中には複数のチャンネルを備えるものも数多く存在します。各チャンネルから負荷に電流が供給されると、各チャンネルの電源電圧(PVDD)と負荷電圧の差であるヘッドルーム電圧が小さくなります。IDACの正常な動作を維持するためには、十分なヘッドルーム電圧を維持しなければなりません。一方で、このヘッドルーム電圧が大きすぎると消費電力に関する問題が生じます。IDACのチップ内部では、ヘッドルーム電圧に依存して電力が消費されるからです。その消費量が増大すると、システム全体の電力効率が低下します。それによってダイの温度が過剰に上昇すると、信頼性に影響が及ぶ可能性もあります。

 このような懸念を解消する方法として、IDACのPVDDの値を動的に制御する手法を紹介します。PVDDの値を必要十分なレベルに抑えれば、出力電流と負荷電圧の値に依存することなくIDACのチャンネルの動作を維持できます。その上、IDACの消費電力を最小限に抑えることが可能になります。

IDACに関する基礎知識

 まずは、IDACの基礎理論をおさえておきましょう。

IDACの出力段

 図1は、IDACの出力部を簡略化して示したものです。この部分では、PMOS(NMOS)トランジスタを使用して電流のソース(シンク)を実現します。このMOS段のソースは負荷に接続されます。MOS段から負荷に電流が供給されることにより、負荷電圧VOUTの値が決まります。この回路では、MOS段を飽和状態に維持し、出力インピーダンスを高く保つ必要があります。また、定められた正確な値の電流によって負荷を駆動しなければなりません。そのためには、負荷電圧を十分に低く維持する(シンク動作の場合は十分に高く維持する)必要があります。

図1 IDACの出力段
図1 IDACの出力段[クリックで拡大] 出所:Analog Devices

熱に関する制約

 図1から分かるように、IDACの出力部から電流が供給されると、ヘッドルーム電圧(電源電圧PVDDと負荷電圧VOUTの差)が小さくなります。上述したように、IDACの正常な動作を維持するためには、このヘッドルーム電圧を十分な大きさに維持しなければなりません。一方、IDACの消費電力の観点からは、このヘッドルーム電圧が過大にならないよう配慮する必要があります。IDACのチップ内部(出力部)で消費される電力は、ヘッドルーム電圧と出力電流の積によって決まるからです。この消費電力の量が増大すると、IDACのチップの温度が上昇します。チップ内で多くの電力が消費されるということは、ダイのジャンクション温度が動作限界を超えるレベルまで上昇する可能性があることを意味します。これは、チャンネル密度が高いシステムや周囲温度が高いシステムでは大きな懸念点になり得ます。

 ここで、図1に示したIDACのチャンネルが次のような条件に基づいて構成されていると仮定します。すなわち、PVDDが3.5V、負荷が10Ωで、その負荷に対して300mAの最大出力電流を供給する(ソース)とします。その場合、負荷電圧VOUTの値は3V、ヘッドルーム電圧の値は0.5Vです。チップ内では約0.15W(= 0.5V × 300mA)の電力が消費されることになります。

 では、IDACのチャンネルがフルスケールよりも少ない電流をソースする場合や、負荷インピーダンスが低い場合にはどのようになるでしょうか。その場合、負荷電圧が低下し、出力用のMOS段には過大なヘッドルーム電圧が存在する状態になります。そうすると、多くの消費電力によって多くの熱が生成されます。それらの熱は、チップから放散されることになります。

 以下の式に示すように、IDACのジャンクション温度は消費電力に依存します。

式

ここで、各変数/定数の意味は以下のとおりです。

TJ:ジャンクション温度
PDISS:チップの消費電力
θJA:ジャンクションの熱抵抗(通常はデータシートに値が記載されている)
TA:周囲温度

 式(1)を別の観点から見ると、所定の消費電力の値に対し、IDACが許容できる最高周囲温度の値がわかります。すなわち、以下の式が成り立ちます。

数式

 ここで、あるIDACのパッケージが49ボールのWLCSPだと仮定します。このパッケージの熱抵抗θJAは30℃/Wです。また、このパッケージが許容できる最高ジャンクション温度TJ(MAX)は115℃です。先ほどの例のように、IDACの1つのチャンネルが内部で0.15Wの電力を消費するとします。その場合、温度は4.5℃(= 0.15W × 30℃/W)上昇することになります。このことから、安全を確保できる最高周囲温度TA(MAX)は110.5℃まで低下します。

 続いて、1つのパッケージ内に4つのチャンネルを内蔵するIDACを考えます。その場合、各チャンネルが内部で0.15Wの電力を消費するとしたら、チップ内で計0.6Wの電力が消費されることになります。その結果、4つのチャンネルによってPDISS × θJA = 0.6W × 30℃/W = 18℃の温度上昇が生じます。従って、安全を確保できる最高周囲温度は97℃まで低下してしまいます。

 今日の光通信システムでは、チャンネル密度に対する要求がより厳しくなっています。そうしたなか、最終的なアプリケーションにおいてTA(MAX)が97℃に制限されるのは好ましいことではありません。実際、これは懸念事項になり得ることが明確になりつつあります。光通信システムの場合、IDACの負荷としては、レーザーダイオード、シリコンベースの光増幅器、シリコンフォトマルチプライヤーといった光デバイスが想定されます。それらを駆動するマルチチャンネルのIDACは、一般的に単一の基板や単一のシステムに実装されます。高密度の実装を行う場合、システムの温度が大幅に上昇する可能性があります。

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