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反転形DC/DCコンバーターの設計(1)基本回路と動作原理、動作解析たった2つの式で始めるDC/DCコンバーターの設計(15)(1/4 ページ)

今回から反転形DC/DCコンバーターについて説明します。今回は基本回路と動作原理を紹介するとともに、そしてコンバーターの動作を解析していきます。

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 今回から反転形DC/DCコンバーターについて説明します。説明に必要な最低限度の知識については今までのステップダウン(降圧)形DC/DCコンバーターやステップアップ(昇圧)形DC/DCコンバーターの内容を読み返す必要がないように本稿でも重複を含めて改めて触れていきます。前回と同様に文中では回路記号に合わせてFETスイッチをFET-SW、ダイオードスイッチをDi-SWと表記します。
 特に本稿では頻繁に負電位を扱いますので単なる“高い”“低い”では絶対値は大きいが負電位なので低いのか、あるいは絶対値が0Vに近いので低いのか、の誤解を招きます。
 このような誤解を避けるため、今回は+/−の極性に関係なく0Vとの差分で“大きい”“小さい”と表現します。“増加”“減少”の用語もこの絶対値を意味しています。同様に計算に使用する回路記号も大きさのみに注目し、式の要求から+/−の極性が必要な場合は表記します。

 特に注釈がなければ本稿でも次の用語をコンバーターの状態を表す用語として共通的に使用します。
  f:DC/DCコンバーターの動作周波数
  ts:1周期の時間(=fの逆数)ts=ton+toffです。
  ton:FET-SW(S1)が導通している時間
  toff:FET-SW(S1)が遮断している時間
  δ:tonがtsに占める割合(オン時比率)
    したがってton=ts×δ、あるいはδ=ton/tsです。

※本連載ではインダクターとチョークの用語を厳密には区別していません。

反転形コンバーターとは

 反転形コンバーターとはチョークに蓄積された磁気エネルギーの取り出し方を工夫して電源電圧の極性とは異なる極性の出力電圧を生成するDC/DCコンバーターです。バッテリー駆動機器やUSB駆動の機器内で回路の構成上「電源電圧の1/2を中点とした交流カップリング回路構成」 を取ることができず、どうしても正負(+/−)電源を必要とするDCアンプ回路などで使用されます。

基本回路と動作原理

 図1(a)に今回取り上げる反転形DC/DCコンバーターの基本回路を示します。動作解析のため、この回路をFET-SW(S1)とDi-SW(S2)を用いて図1(b)のようにモデル化します。
 さらに回路図をFET-SW(S1)のオン時とオフ時に分け、図2図3のように回路を分けて考えますが、FET-SWには主にPチャネル型MOSFETを使うハイサイドスイッチを用います。


図1:反転形DC/DCコンバーターの回路構成[クリックで拡大]

FET-SW(S1) オン時の動作(図2)

 FET-SW(S1)のオン期間中は図2に示すような電流経路で電源VccからFET-SW(S1)を介してチョークL1に電流を流し、L1に磁気エネルギーを蓄積します。
 この状態ではDi-SW(S2)の両端に逆方向電圧が印加されるのでDi-SWは遮断(カットオフ)状態になり、キャパシターC1は負荷抵抗R1によって放電します。つまり負荷抵抗R1にはキャパシターC1からエネルギーが供給されます。


図2:FET-SW(S1)オン時の電流経路

 この動作原理に基づいて動作を表す式を考えます。ここで電源電圧をVccとします。
電源から供給されるチョーク電流は時間とともに増加しますがその増分ΔI(ON)はLの式(ΔI=(E/L)Δt)を適用すると1式になります。

 1式でVLはチョークL1の両端電圧であり、電源電圧Vccと見なしています。
この電流増加によってチョークL1の蓄積エネルギーは増加していきます。

FET-SW(S1) オフ時の動作(図3)

 所定のオン時間(ton)経過後にFET-SW(S1)がオフしてチョークL1への電圧印加が遮断されてもチョークL1は疑似定電流性によって直前の電流を流そうとします。図2図3の例では〇印端子からインダクタンスへ電流が流れ込み続けます。
その結果チョークL1の両端電圧VL図2の状態から反転して図3に示すように電流を吸い込むようにout端子に−(負)電圧を発生させます。
この−電圧がキャパシターC1の充電電圧ーVoを超えるとDi-SW(S2)は導通し、チョークL1に蓄積されたエネルギーは図3の電流ループでキャパシターC1に放出されます。図3で分かるようにこの電流ループはout端子の電圧を負の電位に充電します。


図3:FET-SW(S1)オフ時の電流経路

 この電流によってチョークL1のエネルギーはキャパシターC1へ移るので時間と共にチョークL1のエネルギーは減少し、このエネルギーの減少に従ってチョーク電流は減少します。
 この時に発生する電圧VLの大きさはキャパシターの疑似定電圧性によって出力電圧(Vo)に固定されます。

 このようにオン時とオフ時では電流の流れが切り替わり、FET-SW(S1)やDi-SW(S2)に流れる電流は断続的になります。この電流の切り替わりや前述したチョークL1の両端電圧の反転は今まで取り上げてきた各種DC/DCコンバーターと同じくノイズ発生の源になります。
 電流の変化幅はLの式(ΔI=(E/L)Δt)を適用すると

です。

*)チョークは疑似定電流性ですからL1の発生電圧は疑似定電圧性を持つキャパシターの電圧に左右されます。VLの極性は図2を基準にしているので2式の負記号はVLの極性が反転していることを示しています(図3)。

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