70〜80年代を駆け抜けたCPU、AMD「Am2900」:マイクロプロセッサ懐古録(4)(4/4 ページ)
今回は、1975年にAMDが開発した「Am2900」シリーズを紹介する。ビットスライス方式の同シリーズを採用して多くのミニコンが構築されたが、NMOS/CMOS化やプロセス微細化により、1980年代にはマーケットがほぼ消えていった。
多くのミニコン構築を支えたAm2900シリーズ
こういうコンセプトのMSI(Middle Scale Integration:LSIとTTL ICの中間規模のもの)はありそうでなかったため、多くのメーカーがこれを利用して自社のミニコンを構築した。同種のものでは本連載の1回目「ホビー用途ではまだ現役!? 懐かしのDECご長寿コンピュータ「PDP-11」」に紹介したWDの「MCP-1600」があるが、こちらはマイクロコードの書き換えが自由にできて、自分のカスタム命令こそつくれるものの、データバスは8/16/18bitのみで、構成の自由度も低かった。Bit Slicingそのものを実装したプロセッサは多かったが、それを任意の数組み合わせて好きなバス幅のCPUを作れる(というか当初からそういう設計にしている)となると事実上Am2900一択となり、それもあって広く利用されることになった。有名なところでは
- Apollo Domain DN460/660/DSP160。なんとMotorolaのMC68010のエミュレーションを行ったという。
- Data General Nova 4
- DECのPDP-11/34及び11/44用のFPUであるFP-11A/FP-11F
- DECのPDP-10の最終版に利用されたKS10
- DECのVAX-11/730に利用されたKA730
- AT&Tの3B20DのCPUの一部
- HP 1000 Model A600のCPUの一部
といった辺りが並ぶが、他にも組み込み向けとか業務用機器などにも広く利用された。それもあってAm2900シリーズはMotorola/Thomson-CSF(現在のSTMicroelectronicsのご先祖様)/Raytheon/National Semiconductor/Fairchild Semiconductor/Signetics/NEC/OKI/Cypress/Vitesseといった多くの半導体メーカーにSecond Sourceとしてライセンス供与されたほか、ソ連時代にSM-1240というPDP-11の非合法クローンがソ連邦で製造されたが、これに使われていたВЗПП-C(英語読みだとVZPP-C)というメーカーのチップも当然Am2900シリーズの非合法クローンだった。
1980年代に急速に売り上げが減少
このAm2900シリーズ、1975年の発売以来割と良く売れたという評判ではあったが、1980年代に入ると急速に売り上げが落ちていった。理由の一つは製造がBipolarであったことで、動作周波数はそれほど高くできず、その割に消費電力が多かった。加えて、1980年代後半に入るとNMOS/CMOS化に加えてプロセスの微細化が進んだことで、より大規模な回路を一つのチップ内に収めることが可能になり、1990年代に入るとボード1枚を要していたCPUが1チップに収まるようになる。こうなってくると、Bit Slicingにより任意のアーキテクチャを実装できるというAm2900のメリットは、逆に特定のアーキテクチャを実装するために、大きなCPUボードが必要になるというデメリットとして働くようになってしまったのはまぁ致し方ないところである。
AMD自身は1998年までAm2900シリーズの出荷を続けていたが、これは一部の組み込み向けなどで要望があったからという話で、マーケットそのものは80年代後半にはほぼ消えて無くなっていた。とはいえ70年代のCPUを語る際には欠かせない立役者の一人がAm2900だったことは間違いない。
⇒「マイクロプロセッサ懐古録」連載バックナンバー一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
MCUの「礎」的存在、Microchip「PIC16」
今回は、MCUを語る上で欠かせない存在であり、出荷数は累計数百個に上るであろう「PIC」シリーズを語る。とりわけ「PIC16」は、アーキテクチャどころか製品としてもまだまだ現役である。
Intel「EMIB-T」で先進パッケージング促進へ
Intelが2025年4月に開催したイベント「Intel Foundry Direct Connect 2025」で注目度が高かったのが「EMIB-T」だ。チップ間をより効率的に接続できるようになるとする。
組み込みセキュリティ規格「IEC 62443-4-2」とは?
マイコンユーザーのさまざまな疑問に対し、マイコンメーカーのエンジニアがお答えしていく本連載。今回は、初心〜中級者の方からよく質問される組み込みセキュリティ規格「IEC 62443-4-2」についてです。
今なお現役、1000種以上が存在するIntel空前の長寿MCU「8051」
昔懐かしのプロセッサを取り上げ、その歴史をたどる本連載。今回は、20年近く前に生産が終了しているにもかかわらず、今なお使われている「Intel 8051」を取り上げる。
ホビー用途ではまだ現役!? 懐かしのDECご長寿コンピュータ「PDP-11」
最新の電子機器には載らないものの、昔懐かしのプロセッサはホビー用途などでひそかに息づき、エンジニアたちの「遊び心」をくすぐっている。本連載では、そんな「いにしえ」のプロセッサを取り上げ、紹介していく。まずはDEC(Digital Equipment Corporation)が開発し、28年もの長きにわたり生産された「PDP-11」を取り上げる。
いまさら聞けないMCU入門
私たちの身の回りにある、あらゆる装置に搭載されている「MCU」について、その概念をあらためて解説します。