CEマーキングの亡霊 懸念されるPFC電源の焼損事故:Wired, Weird(3/3 ページ)
知人からPFC電源の焼損の相談があった。半導体工場で装置の電源部品の焼損事故が発生して、装置内に煙が充満したようだ。今回、その原因や対策を紹介する。
焼損事故を防ぐには? ヒントは電源ユニットの銘板に
なぜ、ヒューズがもっと早く切れなかったのかということが一番の注目点だ。写真からチョークコイルの巻線の太さと、ヒューズの電流値を考えれば、この理由がよく分かる。ヒューズホルダーに取り付けられていたヒューズは10Aだ。20A程度の電流が流れれば、ヒューズは確実に切れるだろう。しかし、チョークコイルの細い巻線は5A程度で過熱し、チョークコイルの内部の温度は200℃くらいに上がってしまう。内部コアが温度上昇し、接着剤や充填剤が溶けて、燃え始める。さらに時間が経過するとチョークコイルのケーブルの被覆が破れチョークコイルの配線が短絡することで、ヒューズが切れたと推定された。
この構成の電源ユニットでは同じ焼損事故が多発するだろう。どのような対策をとれば焼損防止が可能なのかを考えてみた。一番安全な方法は、ヒューズの電流容量を最小限にすることだ。電源の電流については電源ユニットの銘板にヒントがあった。図4に示す。
図4からこの電源ユニットではAC115Vで8A、AC230Vでは4Aの最大電流が流れると理解できる。半導体工場では一般的にAC200Vが使用されていて、500Wの最大電力では10Aのヒューズを使用する必要はなく3A程度でも十分だ。電源の接続電圧を確認したところ、電圧をAC200Vに変更して、ヒューズを3Aにすれば電源ユニットの焼損の被害は避けられると考えられた。もちろんヒューズとチョークコイルの負荷試験は必要だ。
『2度あることは3度ある』 早急にとるべきアクションは?
筆者は30年以上前だが、半導体製造装置の事故防止に15年ほど取り組んでいた。今回のような焼損事故を引き起こす可能性がある回路がまだIC製造の現場に残っていることを知ってびっくりした。
さて読者への質問だ。図2で紹介したPFC回路の参考図も焼損の対策は行われていない。図2で昇圧用のFETが短絡破損したらどのような部品が焼損するか考えてほしい。そして、このようなPFC電源が機器の中で何台も使用されていることを理解して、早急に取るべきアクションを考えてほしい。『2度あることは3度ある』この格言を思い出してほしい。
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