3. EMI規格
EMIには、規格に沿った測定方法や、定められた「超えてはいけない値」が存在します。また、規格上は問題が無くとも、特性の劣化があると問題になりますので、注意が必要です。
EMI規格に関する国際機関としては、国際規格を標準化する「IEC(国際電気標準会議)」と、その特別委員会である「CISPR(国際無線障害特別委員会)」があります。また、実際に準拠しなければならない規格として、「VCCI」「FCC」「CE」「CCC」等の、各国や各地域で定められたEMI適合規格があります。
この他にも日本国内では守らなければいけない法規として、「電気用品安全法」があります。これは電気用品の障害等の発生を防止して、安全性を確保するための規制で、一部EMCに関する内容も含んでいます。
4. EMIの測定(機器)
EMIの測定には様々な手法がありますが、代表的な方法として、下記の2つがあります。
- 雑音端子電圧試験:電源、GND、入出力端子に伝導するノイズを測定
- 不要輻射試験:実際に機器から出ている放射ノイズ(放射されている電磁波)を測定
1. 雑音端子電圧試験(伝導ノイズの測定)
機器の電源ラインや通信ラインの伝導ノイズの測定を行う試験です。試験対象へは疑似電源回路網(Line Impedance Stabilization Network または Artificial Mains Network)を経由して電源を供給し、ここで観測されたノイズを、EMIレシーバで測定します。
ノイズ測定の正確性と再現性を高めるためには、電源線のインピーダンスを一定にする必要があります。この疑似電源回路網を経ることで、試験対象から見た電源線のインピーダンスを一定に出来るので、電源線から流出する高周波電圧を測定器(EMIレシーバ)に伝えられます。測定可能周波数は数百kHz~数十MHzです。
2. 不要輻射試験(放射ノイズの測定)
アンテナを使用して、試験対象から空中に放出された電磁波の強度を測定する試験です。周囲からの影響を防ぐために電波暗室を利用し、試験対象を回転させてアンテナの高さや位置を調整しながら、各周波数で最も強い強度の電磁波を測定します。受信アンテナと試験対象との距離は、規格で3m又は10mと定められています。測定可能周波数は数十MHz~数GHzです。
5. EMIの測定(半導体デバイス)
半導体デバイスでのEMI測定方法には、機器の測定と同様、下記の2通りが存在します。
- 電流ノイズの測定(電源/GNDの電流を測定)
- 放射ノイズの測定(デバイスが出す電磁波を測定)
デバイス単体の測定に関する法的な規定としてはJEITA ED-5008などがありますが、測定対象のノイズの周波数・強度を測定しておくことで、機器設計で参照出来ます。
1. 電流ノイズの測定
電流ノイズの測定方法には、デバイスのGNDに1Ω抵抗を挿入して流れる電流を測定する「VDE法」と、電源に流れる電流を測定する「MP法」があります。「VDE法」には、抵抗の定格電力の許容値や、高周波電流測定に対する精度の問題があるので、高周波を取り扱われる方は、ご注意ください。
- VDE法
- デバイスのGNDと周辺のGNDの間に1Ωを挿入し、その1Ωに流れた電流により生じる電圧を測定
- 測定可能周波数としては数十MHzまで
- MP法
- 電源に現れる磁界を磁界プローブ(Magnetic Probe)にて取得
- 取得したデータに対し、パターンの太さや基板の構造で決まる構成係数を掛ける事で、電流値に変換
- 測定可能周波数は数MHz~数GHz
2. 放射ノイズの測定
デバイスから放射されるノイズだけを測定するため、デバイスを専用のケースに入れ、スペクトラムアナライザを用いて放射ノイズを測定します。
- TEMセル法
- TEMセル測定用の専用ケースの穴に試験基板をはめ込み、基板のGNDとケースを接続
- ケース内にはデバイスのみが露出した状態で、放射する電磁波を測定
- 測定可能周波数は数MHz~数GHz
6. まとめ
今回は電磁波に関する基本的な内容、EMIの規格、代表的な測定方法について説明しました。
EMIとは、電子機器から出る電磁波が他の電子機器に影響を及ぼす現象であり、電磁波とは、電流による磁界や電圧による電界の総称です。EMIは周囲に影響を及ぼすため、様々な形で規格化されており、様々な手法や試験によって、放射される電磁波強度の測定が取り決められています。
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