電気自動車(EV)の充電や太陽光発電などの高電圧システムでは、システムの小面積化や効率的な保護/監視/制御を実現する電流センシングのニーズが高まっている。そうしたニーズに応え、Texas Instruments(TI)は新たなホール効果型電流センサーを発表した。日本テキサス・インスツルメンツが、新製品の特徴や使用例を解説する。
電気自動車(EV)の充電や太陽光発電などをはじめとした高電圧分野において、システムの小面積化と同時に効率的な保護、監視、制御を実現する電流センシングのニーズが高まっている。Texas Instruments(TI)の日本法人である日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は2024年12月にウェビナーを開催し、東日本エリアアプリケーションエンジニア永田 俊輔氏が、市場の要望やそれに対応する同社の新たなホール効果型電流センサーの詳細および、使用例などを紹介した。
近年、EVをはじめとしたモビリティの電動化や工場の自動化、再生可能エネルギーの活用は、世界的なトレンドとなっていて、市場が拡大している。それに伴い、こうした高電圧システムにおける絶縁電流計測の需要も高まり続けている。車載では、DCDCや車載用充電器(OBC)において正確な電力制御/管理が必要となり、それに伴い電流計測の高精度化が求められている。ファクトリーオートメーションでは、例えばロボットアームの動作は関節に用いられるサーボモーターの位置制御の速度と正確性が肝になるが、これは電流センシングの計測速度と精度にかかっている。再生可能エネルギーの分野においても、ソーラーパネルから家庭用蓄電池への充電システムなどにおいて電流計測がカギとなる。
ただ、永田氏は「高電圧システムは、いまだ電流計測に対して課題がある」と指摘する。ソーラーパネルのアプリケーションを例に挙げれば、出荷時はキャリブレーションを実施し誤差/エラーは少ない状態であるものの、経年劣化や温度ドリフトなどにより、次第に精度が低下していく。対策には劣化用パラメータを持たせ、ソフトウェアで補正などが考えられるが処理が複雑になり、場合に寄っては高価なMCUを選定する必要も出て来る。結果としてコストがかさむと言った課題がある。
永田氏は「精度と信頼性を担保しつつ、低コスト化を図りたいというのが市場の要求だ」と説明。この要求に応える製品として、高精度かつ温度ドリフト、経年劣化などが少ない低コストのホール効果型電流センサー「TMCSシリーズ」を紹介した。
TIのホール効果型電流センサーICの基本動作の概要を示したのが下図だ。電流は高電圧(HV)側のリードフレームに流れ、低電圧(LV)側とは電気的に絶縁されている。HV側のリードフレームは一部磁界が強くなるようカーブを持たせていて、この近傍にホールセンサーを置くことで2倍の磁界を受け、高い精度を実現しているという。
TMCSシリーズは、基礎絶縁タイプの既存品に加え、高電圧システムに対応する強化絶縁タイプの新製品「TMCS112x/3x」を展開する。
TMCS1123シリーズは、経年劣化や温度変化が起こった場合でも最大感度誤差は±1.40%と「最高精度」(同社)を実現しているのが大きな特長だ。センサーを導体の近傍に配置したことと、ドリフト補償を内蔵したシグナルコンディショニング(信号調整)回路によって、この精度を実現した。また、差動型のホール効果センシングを採用していて、磁界による干渉やクロストークも大幅に低減できる。伝搬遅延も110ナノ秒(ns)と短く、高電圧システムで高速かつ正確な制御が実現可能になる。
強化絶縁動作電圧は1300VDCで、80Armsの連続電流能力(25℃において)を有する他、内部過電流検出機能、センサー部分や発熱の自己診断機能も搭載している点も特徴だ。
新製品ラインアップは、合計誤差や帯域幅(250kHz〜1MHz)、搭載機能の有無などが異なる5シリーズを用意。インバーターやモーター制御、OBCなどは高周波数帯が求められるため、1MHz対応のTMCS1133シリーズを、太陽光やテレコム、サーバなど価格要求が高いアプリケーションには廉価版のTMCS1127シリーズを、といった形で「対象アプリケーションや要求仕様によって最適なデバイスを選択できるように複数のオプションを設けている」(永田氏)
ウェビナーでは、複数の代表的な使用例を紹介した。本稿では、そのうちの1つであるEV充電システムにおける電流計測を示す(下図)。AC-DC PFC(力率改善回路)、DCバス、DC-DCタンク、DC-DC出力の各ブロックで、求められるセンサーの仕様などが異なることが分かる。EV充電システムでは、要求仕様によりDCバス〜DC-DC出力を1個のモジュールとし、複数個を並列につなげる必要があるが、永田氏は「各モジュールでばらつきがあると、全体のシステムとして精度が低下することになる。そのため、ばらつきの小さい方法で電流センシングが求められる」とも説明。同社は、この他の使用例も含め、TMCSシリーズであれば各高電圧システムの要求に応えられるとしている。
永田氏はさらに、他社の類似品との比較を示しながら、TMCSシリーズの精度、応答速度の優位性について言及。精度に関する評価結果の比較(左下図。縦軸がエラー、横軸が電流)では、競合製も含めキャリブレーション前でもエラーは±1%以内に収まっていることから、「ホール効果型というセンシング方式が、ある程度精度が高いものだと見てとれる」としつつ、TMCS1123シリーズではキャリブレーション前後でも50Aから−20Aまでの間でほぼ差分が無く、「この範囲で使うアプリケーションならキャリブレーションは不要といえる特性だ」とした。
伝搬遅延に関する評価結果の比較(右下図)では、競合の類似品の伝搬遅延が1.1マイクロ秒(μs)なのに対し、TMCS1123シリーズの伝搬遅延は0.6μsと倍近く短いことを示すとともに、競合製ではグリッチが生じている点も指摘。TMCS1123シリーズの過渡電圧耐性(CMTI)についても強調した。
モビリティの電動化や工場の自動化、再生可能エネルギー活用といったメガトレンドの加速に伴い、高電圧システムでの電流計測に対する要求レベルはますます高まっている。システムの小面積化に有効で、高いコスト効率や精度、信頼性を備えたTMCSシリーズは、エンジニアにとって魅力的な選択肢となるだろう。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年2月16日