光の飛行時間を基に距離を測定するToF(Time of Flight)測距センサー。小型で低コスト、画像を使わないのでプライバシー保護が容易といった特徴から、さまざまな分野で採用が進み始めている。STマイクロエレクトロニクスは、ToF測距センサーを手軽に試してみたいというニーズに適した、豊富なラインアップと使いやすい開発環境を用意している。
民生機器や産業用機器において、自身の周囲に存在する「人」や「物」および、その「位置情報」などを非接触で検知し、システムを適切に制御するための手法はいくつかある。カメラやレーダーを用いたセンサー・システムはよく知られているが、より低コストで手軽に非接触検知や距離測定を実現できる手法がある。ToF(Time of Flight)方式を用いた測距センサーだ。
ToF測距センサーは、発光素子(エミッター)から放出された波長940nmの近赤外光が、対象物で反射し戻ってきた光子を、受光素子(レシーバー)で検知する。光子が1cmを往復する時間は67ピコ秒で、この数値を基に、実際に戻ってきた時間から対象物までの距離を高精度に割り出す。
ToF測距センサーは、映像を撮らないのでプライバシーを保護できるという大きな特徴を持つ。さらに、安価で低消費電力、小型なので実装するプリント基板の占有面積も小さくできるなどのメリットもあり、高いコスト効率で測距システムを実現できる。
ToF測距センサーを手掛けるSTマイクロエレクトロニクス(以下、ST)は、充実したToF測距センサーのラインアップを用意し、使いやすい開発/評価ツールを提供している。
STのイメージング製品部アナログ・MEMS・センサ製品&スマートフォン コンピテンスセンター シニアマネージャーを務めるミクニ久美子氏は、ToF測距センサーは、既に身近な機器に数多く搭載されていると語る。その代表例がスマートフォンで、オートフォーカスをアシストする機能に用いられている。カメラと被写体の距離を直接測り、そのデータを基にレンズを高速に制御することで、ピントが合った写真を撮影できるようになる。
セキュリティ機器では、認証したい「顔」や「手のひら」「カード」などの対象物が、適切な距離にあるかどうかを確認するために用いられている。PCに内蔵すれば、手の動きによるジェスチャーを認識できる他、作業者の離席をセンサーが自動で感知し、速やかにPCをロックすることで、他者による不正な操作を防止できる。その際、形や動きなどから「作業者」と「椅子や壁」の違いをセンサー自体が判別して、誤動作を防ぐことも可能だという。
この他、ロボット掃除機や自律走行搬送ロボット(AMR)における障害物検知、部屋の出入口や自販機周辺を通る人物の検知、プロジェクターの表示画面補正など、さまざまな用途に利用されている。ユニークな使い方としては、タンク内の液体残量を非接触で検出する液面レベル測定などにも活用されている。液面との距離をToFセンサーで計測し、短くなっていれば液量が増えた、長くなっていれば液量が減った、などのように判定している。
このように、ToF測距センサーを応用したシステムの市場は着実に広がりを見せているが、「その知名度はまだ十分とはいえないのが現状だ」とミクニ氏は話す。そのためSTは近年、日本語の資料の用意やサポート体制の強化などを加速させてきた。
STは、2014年から独自の「FlightSense」技術を用いたToF測距センサー事業を展開してきた。発光素子と受光素子、プロセッサを集積したオールインワンの製品だ。パッケージの小型化を図るなど、コスト効率に優れた使いやすい製品の開発に力を入れ、ラインアップを拡充してきた。
*)「FlightSense」は、STMicroelectronicsの登録商標です。
「STはこれまで、累計20億個以上のToF測距センサー製品を出荷してきた。応用システムに対する知識を蓄積し、顧客に対するサポート力も向上させている」(ミクニ氏)
特に、豊富なラインアップが特徴だ。STは現在、最大測距距離が1.3〜8mの範囲で10種類以上をそろえている。最新世代では、最大64エリア(8×8)のマルチゾーンで複数の対象物を同時に測距できる製品もある。これによって、単に距離を測定するだけでなく、人物を検知し、その人物が「近づいてきた」「遠ざかった」「通過した」など行動を認識するスマート人感検出システムも容易に構築できるようになる。
システム設計者にとって、STが提供する豊富な製品群の中から、用途に最適な特性を持つ製品を選択できるメリットは大きい。ToF測距センサーは検出範囲も数メートルまで延びるなど、大きく進化している。また、マイクロレンズの工夫や独自の信号処理アルゴリズムを開発することによって、測定精度も±数ミリメートルと高い。「当社のToF測距センサーを使っていただいたお客さまからは、測距の精度が高いと評価していただくことが多い」(ミクニ氏)
現在、シングルゾーン対応製品としては最大測定距離が8mで、複数物体を検出できる「VL53L1CB」など7製品を用意している。VL53L1CBの消費電力は最小45mWで、パッケージの外形寸法は4.9×2.5×1.56mm。中長距離測距用の「VL53L4CX」であれば4.4×2.4×1.0mmという小型のパッケージが用意されている。
マルチゾーン対応製品としては、最大64ゾーンでそれぞれ測距でき、最大測定距離は4m、消費電力が215mWという「VL53L8CX」など6製品をそろえる。これらのバリエーションとしてAI対応製品も用意している。マシンラーニングに適したデータを出力できる機能を備えた「VL53L7CH」と「VL53L8CH」だ。さらに「解像度を高めた製品も開発中」(ミクニ氏)だ。これにより、ジェスチャー認識やスマート人感検出といった用途における認識率を一層高めていく。
強力なサポート体制も整えた。システム設計者は、開発の期間短縮やコスト削減などを常に求められている。新たな技術の導入には、ハードウェアやソフトウェア開発に必要な技術を事前に学習したり、開発したシステムを検証する技術を習得したりする必要があるので、高い障壁を感じてしまう開発者も多い。
設計者のこうした課題を解決すべく、STは評価ボードやソフトウェアを用意。「ToF測距センサーをすぐに試すことが可能だ」とミクニ氏は強調する。データシートやマニュアルは日本語版を入手できる。ハンドジェスチャー認識や、立ち止まり検知や近接検知など複数の人感検知を行える「スマート人感検出」、前述した液面レベル検出など、活用事例ごとに評価方法をまとめたハンドブックもそろえた。ハードウェアとソフトウェアの準備がそれぞれ写真で解説されているので、すぐに始められる。
評価に必要な各種ソフトウェアはSTのWebサイトで提供していて、「myST」ユーザーに登録すれば、さまざまなアプリケーションのサンプルコードを無償でダウンロードできる。マイコン側のファームウェアは「STM32」向けだけでなく、主要な他社製マイコン向けライブラリも含まれる。このため、ST製ではないマイコンを活用してすぐに評価することも、もちろん可能だ。
ミクニ氏は「とにかく気軽に使ってみてほしい」と強調する。「小型なので、さまざまな機器に搭載しやすく、画像流出などのリスクもない。非接触検知システムを構築する際、サイズ、コスト、消費電力、プライバシー保護など、あらゆる点において最も使い勝手が良いアプローチの一つがToF測距センサーではないか」(ミクニ氏)
コロナ禍をへて、衛生面などからも非接触検知システムへのニーズはますます高まっている。シンプルな人感検知から、液面レベル検出のようなユニークな用途まで対応できるToF測距センサー。「まずは手軽に評価してみたい」という設計者にとって、STが提供する豊富な製品と開発環境は、最適な選択肢の一つになるはずだ。
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