センサー内でAI処理――STの新たなアプローチが「真のエッジAI」時代を切り開くマイコンの負荷を下げ、省電力化や低コスト化を実現

MEMSセンサーを25年以上にわたり手掛けているSTマイクロエレクトロニクス。近年は、機械学習コアを搭載したMEMSセンサーのラインアップを拡大している。センサー内でAI処理を実行できるこうした製品群は、エッジAIの設計の幅を大きく広げることになるだろう。

PR/EDN Japan
» 2025年11月25日 10時00分 公開
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AIをセンサーに搭載、「真のエッジAI」が可能に

 ここ何年も、メガトレンドとなっているエッジAI。組み込み機器などのエンドポイント端末に搭載した各種センサーから情報を収集し、端末内でAI演算を実行するエッジAIは、クラウドでAI演算を行う場合に比べ、応答速度やプライバシー、セキュリティ、消費電力、通信量(バンド幅)といった面でメリットがある。

 エッジAIのさらなる低消費電力化のため、センサー自体にAI処理機能を搭載する取り組みを進めているのがSTマイクロエレクトロニクス(以下、ST)だ。STはこの5〜6年で、機械学習などを実行できる、インテリジェント機能を搭載したMEMSセンサー群を拡充している。

ST アナログ・MEMS・センサ製品&スマートフォン コンピテンスセンター マネージャー 平間郁朗氏 ST アナログ・MEMS・センサ製品&スマートフォン コンピテンスセンター マネージャー 平間郁朗氏。手に持っているのは、インテリジェント機能搭載MEMSセンサーのプロトタイプ

 MEMSセンサーを25年にわたり手掛けるSTは、ジャイロセンサー、加速度センサー、地磁気センサーなど幅広いMEMSセンサーを展開し、その累計出荷数は280億個を超える。STのMEMSセンサーは、MEMSセンサーダイと、信号処理用のCMOSロジック(ASIC)を1パッケージに集積したものだ。センサーダイそのものの性能向上に加え、CMOSロジックにさまざまな機能を追加して、MEMSセンサーの機能を向上させている。特に力を入れているソリューションの一つが、機械学習コアを搭載したセンサーだ。

 STのアナログ・MEMS・センサ製品&スマートフォン コンピテンスセンター マネージャーを務める平間郁朗氏は「ジャイロセンサーや加速度センサーなどのモーションセンサーのデータは基本的に物理量を表すデータなので、機械学習にかけやすい。エッジAIを使いやすくするためには、センサー側でもっとできることがあるはずだという発想から、機械学習コア搭載MEMSセンサーの開発が始まった」と語る。「センサー内でAI処理を行うというのは、“システムの最も末端のデバイス”でAIを実行するということだ。ディープエッジAI、真のエッジAIと呼ばれるソリューションを開発できるようになる」

マイコンの負荷を下げ、超低消費電力化を可能に

 STのMEMSセンサーに内蔵された機械学習コアは、教師あり機械学習の一つであるディシジョンツリー(二分木)を実行する。ディシジョンツリーは、ある入力に対して真偽を判定するノードをいくつも連結させて構成するものだ。「モーションセンサーからのデータを用いて正常/異常などの状態を判定する用途に適している。AIモデルとしてはシンプルだが、アセットトラッキングをはじめ、たいていの状態判定アプリケーションをカバーできる」(平間氏)

 機械学習コアでは、モーションセンサーからのデータをフィルタリングし、定義済みの特徴量を抽出。それをディシジョンツリーにかけて結果を出し、後段に接続されたマイコンなどのメインプロセッサに送信するまでを担う。センサーで状態判定を行うので、メインプロセッサの負荷を大幅に軽減できるようになる。

センサーに内蔵された機械学習コアの概要 提供:ST センサーに内蔵された機械学習コアの概要 提供:ST

 実際にどれほど負荷を軽減できるのか、アクティビティ検出(行動識別)の例でみてみよう。行動識別アルゴリズムをマイコンやSoC(System on Chip)で実行した場合と、センサー内で実行した場合、システムの消費電流は66μAから21μAに大幅に削減できる。マイコンの消費電流に限ってみれば、51μAからわずか0.65μAに抑えられる。「これまで60ミリ秒ごとに起動して状態を確認するサイクルを組んでいた場合、30秒ごとや1分ごとのサイクルで済むようになる。マイコンの起動回数が減るので、消費電流削減に大きく貢献する」と平間氏は説明する。

マイコンとセンサーで行動識別アルゴリズムを実行した場合の消費電流の比較 マイコンとセンサーで行動識別アルゴリズムを実行した場合の消費電流の比較 提供:ST

 マイコンの負荷をここまで下げることができれば、安価な8ビットマイコンを使うといった選択肢も出てくる。「センサー側で機械学習を実行することの価値が、ようやく認知されるようになってきた。機器メーカー側も、低消費電力化を実現しなければ商品として成り立たない、という思考に変わりつつある」(平間氏)

 ここ何年も関心度が高いエッジAIだが、実際のアプリケーションで活用するという動き自体は、まだ初期段階にあるといってよい。「エッジAIを導入する場合、まずはマイコンで推論を実行するという考え方が多いが、実はその中のかなりの処理を、機械学習コア搭載MEMSセンサーで担えると考えている」と平間氏は述べる。「エッジAIはようやく実用化のフェーズに入ってきたところだ。今後は『センサーで推論を実行すれば、より低消費電力、低コストのエッジAIシステムを実現できる』という、マインドセットの変化を促すことを目指したい」

 STは、機械学習コア搭載MEMSセンサーとして、加速度センサーと、6軸(3軸加速度+3軸ジャイロ)IMU(慣性計測装置)のラインアップをそろえる。現在は民生向けの品種が最も多いが、産業用グレード、オートモーティブグレード製品の拡充も強化していく。

機械学習コア搭載MEMSセンサーのラインアップ 提供:ST 機械学習コア搭載MEMSセンサーのラインアップ 提供:ST

インテリジェント機能搭載MEMSセンサーを1ストップで開発

 エッジAIでは、開発環境も重要になる。機械学習コア搭載MEMSセンサーの開発には、1)データ収集、2)集めたデータのラベル付けと特徴量の選択、3)ディシジョンツリーの生成、4)ディシジョンツリーのセンサーへの実装、5)動作確認という5つのフローがある。STは2024年、これまで各フロー向けに提供していた「Unico-GUI」「Unicleo-GUI」などのツールを一元化した「MEMS Studio」をリリース。このツールでは、1〜5までのフローをワンストップでできるようになっている。

 アプリケーション例としては、アセットトラッキング、ヨガのポーズの検出、ウェアラブル機器を使った行動検知、電動ドリルなどの安全動作、車両の状態検知、駐車中の車室内における赤ちゃんの泣き声検知などが挙げられる。STはそれぞれのユースケース向けに、学習済みのサンプル設定ファイルや評価基板も提供する。

より高度なエッジAI開発も可能

 STはインテリジェント機能搭載MEMSセンサーとして、機械学習コア搭載以外に、ステートマシンとISPU(Intelligent Signal Processor Unit)も用意している。ステートマシンは、分岐しないシンプルなプログラムで、衝突などの瞬間的なイベントを即座に捉える用途に向く。機械学習コア搭載MEMSセンサーはすべて、ステートマシンも内蔵している。「顧客のアプリケーション、つまり判定したい内容によって、機械学習コアではなくステートマシンをおすすめすることもある」(平間氏)。ステートマシンの生成/実装も、MEMS Studioで行える。

 ISPUは、DSPとMEMSセンサーを1チップに統合した製品だ。マイコンでなければ実行できないようなニューラルネットワークを動かせる。ただし、入力はモーションセンサーのみで、画像や音声データなど、規模の大きいデータの処理には向かない。加速度センサーやジャイロセンサーからのデータに対して、ニューラルネットワークで何らかの判定をする際の専用ロジックのような位置付けになる。ISPUのメモリは40Kバイト(プログラムサイズが32Kバイト+実行領域で8Kバイト)。入力がモーションデータに限られるので、十分なメモリサイズだ。

 平間氏はISPUの利点について「AIモデルが固定されていないので、幅広いユースケースに対応できるようになる」と説明する。「近年は組み込みマイコンでも、NPU(Neural Processing Unit)を搭載するなどリッチな仕様の製品が投入されている。一方で、それほど高いスペックが必要ではないアプリケーションも多い。ISPUは、そのような“隙間”を埋めるセンサーとして、将来的なニーズを見据え、先行して市場投入している製品だ」

 ただし、ISPUを使いこなすためには、MEMS Studio以外に、外部の機械学習モデル作成ツールを使う必要がある。MEMS Studioでは、作成したモデルをISPU用バイナリニューラルネットワークに変換する、もしくは作成したモデルがISPUで動作するかを検証することが可能だ。

STが提供する3つのインテリジェント機能搭載MEMSセンサー 提供:ST STが提供する3つのインテリジェント機能搭載MEMSセンサー 提供:ST

 STは、AIの知見がまだ少ない場合でも使用できるステートマシン/機械学習コア搭載MEMSセンサーから、AIに慣れていて、より柔軟かつ高度なエッジAIシステムを設計したい場合に適したISPUまでそろえているわけだ。

 さらに、エッジAIアプリケーションの開発や実装に役立つソフトウェア&ツール統合セット「ST Edge AI Suite」も提供している。同ツールには、STの32ビットArmマイコン「STM32」からマイクロプロセッサ、インテリジェント機能搭載MEMSセンサーまで、幅広いST製品に対応する開発ツールが含まれている。

 「STM32の開発エコシステムの中でも、インテリジェント機能搭載MEMSセンサーを周辺用デバイスとして選択できるようになっている。同センサーの存在を知らなかったとしても、STM32マイコンからたどり着ける。ST Edge AI Suiteは、センサーで処理できるレベルのAIは、どんどんセンサーに集約させ、より低消費電力、より安価なエッジAIアプリケーションの実現に貢献できるのではないか」(平間氏)

 エッジAIは、実装面積やコスト、消費電力に厳しい制約が求められる世界だ。機械学習コアMEMSセンサーは、設計の出発点で「推論をマイコンやSoCで実行する必要があるのか」という点を考えるきっかけになるだろう。エッジAIの設計に新たな選択肢をもたらし、より柔軟な発想を与えてくれるデバイスになるはずだ。

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提供:STマイクロエレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年12月24日