2025年の半導体市場はAIブームが成長をけん引する一方で、非AI領域との“2極化”が際立った。だがMicrochip Technologyは2026年、AI/データセンターの伸長に加え、アナログやマイクロコントローラーなど成熟技術の領域を含め、業界全体で幅広く成長に向かうと見ている。もっとも、輸出規制や関税に代表される地政学リスクがサプライチェーンの不確実性を高め、人材不足など業界の構造課題も重なる。こうした環境下で同社は何を優先し、どう備えるのか。今回、同社CEO兼社長のSteve Sanghi氏に、2026年の市場見通しと成長機会、そして課題への対応策を聞いた。
――2026年の半導体業界の見通しについて教えてください。どのような成長機会や課題が予想されますか。
Steve Sanghi氏 2026年の半導体業界の見通しは極めて良好です。2025年はAIとデータセンターが成長をけん引しましたが、アナログやマイクロコントローラーなど成熟技術の分野でも在庫調整が完了に近づいており、力強い回復が期待されます。これらのセグメントは、2026年に向けてより高い業績目標を狙える環境が整いつつあります。また、メモリ、特にAIサーバで使われる広帯域メモリ(HBM)の需要は引き続き高水準を維持すると予測しています。
2026年の成長機会は、データセンターだけにとどまりません。車載と産業分野では、顕著な回復が見られています。関税の影響を受けていたコンシューマー市場も、コストが経済の中で織り込まれるにつれて、徐々に安定化してきました。業界全体で幅広い成長が見込まれる中、Microchip社は、進化する市場ニーズに対応する革新的なソリューションを提供できる、万全のサポート体制を整えています。
――半導体サプライチェーンは地政学的な緊張や供給不足の影響を受け続けています。安全で信頼性が高く、安定したサプライチェーンを構築するためには何が必要でしょうか。
Sanghi氏 現在のサプライチェーンの課題は、主に米中関係の変化に起因しています。輸出規制や関税は、グローバルな貿易や重要材料へのアクセスに影響を及ぼしています。
Microchip社は、サプライチェーンのレジリエンスを高め、顧客により地理的多様性を持った調達オプションを提供できるよう積極的に取り組んでおり、特定地域への依存度の低減を図っています。これには、日本における生産能力の増強や、自社製造能力の強化等が含まれます。
――各国の政府が進める半導体の自給自足を推進する動きに対して、どのようにお考えですか。
Sanghi氏 半導体が国家安全保障上、極めて重要な位置を占めるようになった事で、政府レベルのみならず、主要な地政学的ブロックが半導体供給の自給率向上を目指しています。
ただし、各ブロックが完全に独立した半導体サプライチェーンを構築するのは、莫大なコスト、製造能力の限界、高度なテクノロジーを複製する複雑性などから現実的ではありません。むしろ、中国を中心とするサプライチェーンと、中国以外を中心とするサプライチェーンという2つの主要な供給網の形成が進んでいる、というのが実態です。
各国政府は自国内調達を奨励するかもしれませんが、大多数の顧客は依然として製品の品質と安定供給を優先しています。地域限定製造に対する需要が広がっているという兆候は、ほとんど確認されていません。国内調達比率を高めようとする顧客も一部にはいるでしょうが、全てのブロックで完全に独立したサプライチェーンは現時点では存在せず、近い将来に実現する可能性も低いでしょう。
――ESG要件、炭素規制、サプライチェーンの透明性は依然として重要なテーマです。これらの非技術的な要因は、2026年の半導体業界の意思決定にどのような影響を与えるでしょうか。
Sanghi氏 2026年に向けて、ESG要件、炭素規制、サプライチェーンの透明性といった非技術的な要因が、米国の業界の意思決定に与える影響は、過去数年間より小さくなると予想しています。Microchip社を含む多くの企業は、国際的な期待に応えるため長期的な持続可能性目標の設定やESG報告を継続しています。一方で昨今の規制改正を受けて、米国においてはこれらの項目の影響力が弱まりつつあります。
――半導体業界は慢性的な人材不足に直面しています。半導体人材をグローバルに確保し、育成していくには、長期的にどのような戦略が必須となるでしょうか。
Sanghi氏 半導体人材の確保と育成は世界的な課題ですが、米国では特に深刻です。米国ではSTEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)への関心と習熟度が他の地域に後れを取っています。いまも多くの国々で多数のエンジニアが育っていますが、米国には特有の文化的、教育的な課題があります。中でも大きいのは、ポップカルチャーやハリウッド、プロスポーツのような華やかな世界と注目を奪い合わなければならない状況で、数学や科学の分野に進みたくなるように学生を刺激する事の難しさです。
この課題に対処するには、FIRST RoboticsやVEX Roboticsのようなプログラムを通じた早期からの働きかけが必要です。これらはSTEM学習を実践的で競争的、協働的な体験に変え、学生にインスピレーションを与えます。これらの取り組みの普及を拡大し、STEM分野での成果がスポーツや芸術と並んで称賛されるような環境を築く事が極めて重要です。教育機関、産業界パートナー、地域コミュニティーとの連携を強化し、メンターシップとリソースに投資する事で、米国は半導体業界が求めるエンジニアのパイプラインを強化できます。
FIRST Roboticsのようなプログラムがもたらすプラスの影響は認められているものの、その普及範囲はまだ限定的で、参加する学校と生徒は全体のごく一部にとどまっています。全ての学校がスポーツチームを持つのと同じように、国内全ての高校にSTEMチームを設置する事を目指し、参加機会を広げる事が、次世代のエンジニアを育成するために欠かせません。
これらのプログラムは技術的な専門技術を培うだけでなく、チームワーク、コミュニケーション、リーダーシップといったスキルも育み、学生たちが多角的に社会に貢献できる人材へと成長する土台を作ります。Microchip社は、22年以上FIRST Roboticsを支援しており、今後も未来のエンジニアの育成に尽力し続けます。
――AIブームと、それがバブルにすぎないのではないかという懸念について、どうお考えですか。
Sanghi氏 AIブームを巡る熱狂は理解できますし、「バブルではないか」という懸念も一理あります。ただ、歴史的に、革新的な技術は急激な成長期とそれに続く市場調整という過程を経て定着してきました。インターネットのような技術革新も同じサイクルをたどりました。最初の熱狂、市場の調整、そしてその後10年間にわたる着実で実用的な日常生活への定着という流れです。AIが真価を発揮するのは、実質的な生産性の向上と持続可能なビジネス結果を生み出した時です。
Microchip社では、AIを効率と顧客価値の向上に役立つ強力なツールとして活用しています。同時に、20の事業部門及び多様な技術ポートフォリオへの注力も変わらず維持しています。AIと既存技術の両方に投資する事で、レジリエンスと継続的なイノベーションを確保し、顧客とパートナーに長期的な価値を提供できる態勢を整えています。
※本稿は、マイクロチップ・テクノロジー・ジャパン株式会社より寄稿された記事を再構成したものです。
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