NPU内蔵マイコンが「X-in-1 ECU」設計の新たな最適解に――ST「Stellar P3E」リアルタイムエッジAIの実装も容易

STマイクロエレクトロニクスは、NPU(Neural Processing Unit)を搭載した32ビット車載マイコン「Stellar P3E」を開発した。ECUの機能統合(X-in-1化)を簡素化するとともに、異常検出や予知保全、仮想センサーといったリアルタイム・エッジAI機能を自動車に実装しやすくなる。

PR/EDN Japan
» 2026年05月29日 10時00分 公開
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「前例のないトランスフォーメーション」が進む自動車業界

 STマイクロエレクトロニクス(以下、ST)が車載マイコン「Stellar」ファミリーの新製品「Stellar P3E」を開発した。最大の特徴が、同社独自のNPU(Neural Processing Unit)「ST Neural-ARTアクセラレータ」をハードIP(Intellectual Property)として搭載している点だ。これにより、リアルタイム・エッジAIの実装を簡素化して、車両性能の予知保全や仮想センサーによるスマート・センシングといった新しいアプリケーションを通じて先進的な機能を実現できる。

 Stellar P3E開発の背景にあるのが、自動車業界で起きているさまざまな変化だ。自動車の進化の中核となっている電動化や自動運転、コネクテッドカーにより、システムはますます複雑になり、ソフトウェアコンテンツも増加の一途をたどる。より厳格な機能安全やサイバーセキュリティ規格への対応も不可欠だ。さらに、とりわけ電気自動車(EV)や自動運転の分野では、後発の新規プレイヤーが増えるとともに、サプライチェーンはよりグローバルに広がった。STでオートモーティブ プロセッシング・RF製品部 部長を務める宮川正博氏は「自動車業界では前例のないトランスフォーメーションが進んでいる」と語る。

機能統合が進むECU

STマイクロエレクトロニクス オートモーティブ プロセッシング・RF製品部 部長 宮川正博氏 STマイクロエレクトロニクス オートモーティブ プロセッシング・RF製品部 部長 宮川正博氏

 特に電動化では、高圧配電ユニットやDC-DCコンバーター、OBC(オンボードチャージャー)など複数の機能やユニットを統合する「X-in-1」化が進む。同時に、それらのユニットを制御するECUを統合する動き(X-in-1 ECU)も始まっている。X-in-1 ECUの大きなメリットは、ECUや部品、ハーネスの数を削減できることだ。これによりコストを削減しつつ、車両の生産を効率化できる。さらに、冷却システムやバッテリー管理、充電といった機能の管理を集約できるため、より効率的に制御できるようになる。一方で、機能が統合される分、設計は複雑になる。「従来はユニット/機能ごとにマイコンが制御していた。機能を統合してもマイコンの数が減らなければ、コスト面や設計面でのメリットが出ない。そのため、マイコンにもさまざまな機能を統合して、1つで済むようにしたいという要望も強くなっている。さらに、制御を効率化するためにAIを活用したいという声も高まっている」と宮川氏は語る。

 それに加え、モーターをより効率的に駆動する技術も求められる。「モーターの回転速度が高速化しているため、モーター制御においてもそれに追随できる高い応答特性への要望が強くなっている」(宮川氏)。これを実現するには、高回転数モーターにおけるセンシングとアクチュエーション用の、安全かつ高精度なアナログI/Oや高速かつ高分解能のタイマも欠かせない。さらに、燃費(電費)を高めるためにバッテリーを効率よく使用できるユニット/システムの設計が求められる。

 こうしたトレンドを踏まえ、ECUのX-in-1化や、自動車におけるリアルタイム・エッジAIの活用を容易にすべく開発したのがStellar P3Eだ。

NPUを統合、高速推論が可能に

 STはStellarブランドとして「Stellar Pシリーズ」「Stellar Gシリーズ」を展開している。ドライブトレインの統合などに向けた製品がStellar Pシリーズで、車載ネットワークの集約やE/Eアーキテクチャのゾーン化をターゲットにした製品がStellar Gシリーズだ。

 Stellar Pシリーズには「Stellar P3/P6/P7」の3つのファミリーがあり、いずれも量産を開始している。Stellar P3は比較的シンプルな2-in-1やバッテリー管理システム向けのファミリーで、Stellar P6/P7は、5-in-1など、統合する機能の数が多くなるハイエンド向けのファミリーとなる。

 Stellar P3Eは、Stellar P3のように2-in-1や3-in-1など、比較的統合する機能が少ない次世代X-in-1をメインターゲットにした製品になる。コンピューティング性能は、Arm Cortex-R52コア(500MHz)によりCoreMarkスコア8000の演算性能を持ち、ST独自のNPU「Neural-ARTアクセラレータ」をハードIP(Intellectual Property)として搭載してニューラルネットワークモデルを効率的に実行する。

「Neural-ARTアクセラレータ」の概要 提供:STマイクロエレクトロニクス

 Neural-ARTアクセラレータは、STが2024年に発表した産業用マイコン「STM32N6」に既に搭載されているIPだ。宮川氏は「X-in-1やゾーンアーキテクチャへの移行などによって、車載用マイコンにもAI演算機能の統合が必要になるだろう。そのため、産業用マイコンで実績のあったNeural-ARTアクセラレータのIPを、車載マイコンにもいち早く展開した」と語る。

 「X-in-1と同時に、AIを活用してシステム効率の向上を目指したいというニーズが増えている。X-in-1化により、既にある程度の効率化は達成されているが、さらなる効率化を図りたいという要望だ。中でも、複雑化したシステム制御にリアルタイム・エッジAI制御を活用したいという思惑がある。ハイエンドよりも3-in-1でそうした要求が強いため、まずはStellar P3シリーズの一つとして、NPU搭載品を開発した」

PCMでメモリ拡張が容易に アナログIOも豊富

 Stellar P3Eは、ST独自の28nm FD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレーター)プロセスで製造され、「xMemory(拡張メモリ)」を搭載している点も特徴だ。xMemoryは相変化メモリ(PCM)ベースの不揮発性メモリで、原理的にメモリセルの拡張がしやすい。メモリ密度は従来の組み込みフラッシュメモリの2倍を実現している。ハードウェアを再設計することなく、新機能の取り込みやソフトウェアの更新を行えるので、ソフトウェア定義型車両(SDV)に適している。

 Stellar P3Eは最大19.5MバイトのPCMを備える。「フラッシュメモリに代わる不揮発メモリを求める声も強いため、Stellarの全製品にPCMの実装を進めているところだ」(宮川氏)

 X-in-1化に対応するため、より多くのI/Oポートを設けたパッケージも準備した。「21×21mmのパッケージで308本のGPIOを備えている。同じパッケージサイズの競合製品に比べると20%以上多い」(宮川氏)。1G/100M/10MイーサネットやCAN XLといった高速インタフェースをサポートし、機能安全についてはISO 26262のASIL Dに準拠している。

「Stellar P3E」のブロック図 提供:STマイクロエレクトロニクス

リアルタイムエッジAIの実装も容易に

 NPUを搭載したStellar P3Eは、高速にAI推論を実行できる。これにより、リアルタイムエッジAIを容易に実現できるようになる。例えば、車の窓に指が挟まれそうになるのを検知し、防止するアプリケーションでは、挟み込みを検知/防止するアルゴリズムを高速に動作させられるようになる。CPU(Cortex-R52)上で動作させた場合に比べ、指を検知する速度は69倍、「窓が閉まっていること(=このままだと指を挟むかもしれないこと)」を検知する速度は16倍に高速化できる。

窓の挟み込み防止アルゴリズムをCPUとNeural-ARTで動作させたときの処理速度 提供:STマイクロエレクトロニクス

 その他、バッテリーセルの状態監視や管理をする適応制御や、温度センサーのデータからさまざまな箇所の温度を推定する仮想温度センサーといったアプリケーションも想定する。

 STは概念実証用のソリューションとして、Stellar P3EベースのX-in-1パワートレインコントローラーも用意している。Stellar P3Eの他、周辺のデバイスにもSTの製品を用いたもので、軽量化や小型化、電力効率の向上など、X-in-1のメリットを実感できるソリューションになっている。「PoC(Proof of Concept)で概念実証したいというお客様が多いので、それに応えられるソリューションを用意した。ソフトウェアもSTから提供する」(宮川氏)

Stellar P3EをベースにしたパワートレインコントローラーのPoC 提供:STマイクロエレクトロニクス

一気通貫の開発を支援する「NanoEdge AI Studio」

 Stellar P3EはSTのエッジAI開発環境「NanoEdge AI Studio」に対応しているので、機械学習のAIアルゴリズムを簡単に実装できる。NanoEdge AI Studioを使うと、AIモデルの選択と学習やテストをして、AIモデルライブラリを生成し、C言語に変換してマイコンへの最適化した実装ができる。Stellar P3E上でのAIアルゴリズムの動作をすぐに評価できる。「NPUとエコシステムという、包括的なソリューションを提供するというのがSTの戦略だ。エンジニアが一気通貫で開発できるようにする」

 Stellar P3Eは現在サンプル出荷中で、2026年後半に量産を開始する予定だ。「どのようなアプリケーションに適しているのかは、まさに現在さまざまな顧客と多岐にわたる活用の可能性を議論している段階だが、窓の挟み込み防止の例のように、NPUを活用すればこれだけ大幅に推論を高速化し、自動車のさまざまなシステムを効率化できる点に魅力を感じていただけるのではないか」(宮川氏)

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提供:STマイクロエレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年6月28日