電源システムの小型高密度化や高効率化に向けて期待が高まるGaNパワーデバイス。しかし、「設計が難しい」「製品ラインアップが限られる」といった理由から、導入に踏み切れないケースも少なくない。こうした課題に対し、STマイクロエレクトロニクスは使いやすさを追求した製品群とパートナー戦略で、GaN導入を後押しする。
デジタル化やAI技術の進展による電力消費量の増大で省エネルギー化への要請が高まる中、シリコン(Si)よりも優れた物理的特性を有する次世代パワー半導体が注目を集めている。先に市場が成長したのは炭化ケイ素(SiC)パワーデバイスで、太陽発電システムや電鉄、電気自動車などの分野で採用が進んできた。それに続いて、窒化ガリウム(GaN)パワーデバイスも大きな成長が期待されている。近年は民生機器に加え、自動車やデータセンター用電源など、着実にアプリケーションが広がりつつある。現在、GaNパワーデバイスの開発に注力しているのがSTマイクロエレクトロニクス(以下、ST)だ。
STを含む多くのメーカーのGaNパワーデバイスは、Si基板上にGaNを成長させた「GaN-on-Si」構造で、デバイス表面に沿って水平方向に電流を流す「横型」のデバイスだ。GaNと窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)の界面には電子が高速で移動できる「2DEG層(二次元電子ガス層)」が形成される。これによって高速スイッチングを実現できることが、SiやSiCとの差別化要因の1つだ。高速スイッチングは高周波化を容易にしインダクターやトランス、コンデンサーといった周辺部品も小型化できるほか、Siと比べて低損失で発熱も少ないのでヒートシンクも小さくでき、電源システム全体の小型化に貢献する。オン抵抗(Rds(on))×ゲート電荷量(Qg)で計算する性能指数(FoM:Figure of Merit)において、GaNはSiをはるかに超える特性を持つ。
こうした特徴から、GaNの採用が最初に進んだのは民生機器向けの高速充電器(USB PD)だ。一方で高耐圧用途はSiCの得意分野という印象も強かったが、GaNの採用は、AIデータセンターなどの主要市場セグメントでも拡大しつつある。AIの普及に伴ってサーバは高性能化していて、1ラック当たりの消費電力は1MWを超えると予想される。それに伴って電力供給に用いるケーブルへの銅(Cu)使用量が非常に多くなることが問題視されている。このことからAIサーバメーカーは電圧を高めて電流を抑える方向にシフトしていて、ここでも高周波動作/高効率化に強みを持つGaNの活用が期待される。
このように優れた特性を持つGaNだが、導入には課題も伴い、SiCと比べてまだ製品開発には取り入れにくいと考えるエンジニアも少なくないのではないだろうか。STは、エンジニアが抱える課題を踏まえた製品群の開発を進めている。
GaNに特有の設計の難しさとしてまず挙げられるのが、推奨ゲート電圧と絶対最大定格電圧の差が小さいことだ。例えばST製品では推奨ゲート電圧は6Vであるのに対し、絶対最大定格電圧が7Vにとどまる。故障を避けるためには、厳密にゲート電圧を制御する必要がある。
さらに、スイッチのオン/オフの境目となるしきい値電圧(Vgs(th))は約1.2Vと、従来のSi MOSFETと比べて非常に低い。このため、わずかにゲート電位が上昇しただけでも、本来オフにしたいときにオンになってしまう誤点弧が生じるリスクがある。
加えて、GaNパワーデバイスには構造上ボディーダイオードがないので、Siデバイスと違ってアバランシェ耐量がなく、定格電圧を超えたときにすぐに素子が破損するリスクが高い。
GaN特有の課題としてはこの他に「ラインアップの少なさ」も挙げられる。SiやSiCのデバイスと比べて現状では製品が限られていて、ユーザーにとってはあるモデルで採用できても別のモデルには適用できないといった懸念もあるだろう。
こうした課題に対してSTは、GaNパワーデバイス専用の周辺ICを提供するほか、GaNパワーデバイス自体に周辺機能を統合した製品を幅広く展開している。
「PowerGaNシリーズ」はディスクリートの製品で、高出力用途に対応するものだ。TOLLパッケージ品の「SGT070R70HTO」はオン抵抗(Rds(on))が70mΩ、ゲート電荷(Qg)は8.5nCと低損失/高速動作を両立。サイズ当たりの電力密度が高く、パワーを「出し切る」用途に適する。PowerGaNシリーズのユーザー向けには、GaN専用のゲートドライバーを用意している。
一方、「OmniGaNシリーズ」はGaNディスクリートデバイスを用いた設計開発を容易にする製品で、「MasterGaNシリーズ」はゲートドライバーをワンデバイスに集積した製品だ。ST パワー・ディスクリート製品グループ マネージャーの赤嶺仁紀氏は「ユーザーが厳密にゲート電圧を考えなくてもよい点を強みとし、設計負荷の軽減に貢献するものだ」と説明する。
さらに、モータードライブ用途に最適化し、ヒューマノイドロボットなどへの適用を視野に入れた「GaNSPIN」、AC-DC電源に向けたPWMコントローラを内蔵した「VIPerGaN」なども用意する。
パッケージ面でも工夫を施す。従来のようにリードが長いパッケージでは、リード部分が寄生インダクタンスとなり、高周波/高速動作というGaNの強みを損なう可能性がある。このためSTはリードレスパッケージの「PowerFLAT」や「TO-LL」などを採用し、対応を図っている。
ST アナログ・MEMS・センサ製品 & スマートフォン コンピテンスセンター アナログ製品部 部長の安治直樹氏は「STは長きにわたってパワーデバイスを手掛けてきているが、今後は従来以上のスピードで製品開発と市場投入を進めていく」と語る。STのGaN製品群は今後、100V程度の低電圧から1200Vといった高電圧まで幅広くカバーしていくという。
さらに、パワーデバイスとしてのGaNは比較的新しい技術であることから、製品へ採用する際、「パワーデバイスメーカーの業績によっては、GaN事業から撤退してしまうのではないか」という懸念もあるだろう。安治氏は「顧客はパワーデバイスメーカーを選ぶ際『長期にわたってGaNパワーデバイスの開発を続けられる体力があるか』を重視している」と話す。
開発/製造体制の強化策として、STは2025年3月、中国のGaN専業メーカーであるInnoscienceとの提携を発表した。
この合意により、InnoscienceはSTの中国国外におけるフロントエンド製造拠点で自社のGaNウェハを利用できるようになり、STはInnoscienceの中国のフロントエンド製造拠点でGaNウェハを活用できる。両社に共通する目標は、サプライチェーンの柔軟性とレジリエンスによって、それぞれのGaN関連製品を拡張し、幅広い応用機器においてあらゆる顧客ニーズに対応することだ。赤嶺氏は「これで、STのGaNに関する技術開発が一気に加速する。今後さらにラインアップを拡充していく」と語る。
製造における提携は、STのGaNパワーデバイス供給の安定性確保に貢献する。欧州を中心に多くの製造拠点を持つSTと、中国に強みを持つInnoscience。互いの製造拠点を活用し合い、サプライチェーンの強化を図る。
近年は地政学上の理由から「中国国内で」「中国以外の国で」といった原産地への要求が複雑化しているが、両社の提携でこうしたニーズにも柔軟に応える。赤嶺氏は「STとInnoscienceが両社とも垂直統合型デバイスメーカー(IDM)だからこそ実現する、非常に強力なパートナーシップだ」と説明する。
なお、Innoscienceは8インチラインでGaNパワーデバイスの量産を行っていて、GaNパワーデバイス市場で世界最大級のシェアを有することから、大量かつ低コストで製造できるという利点もある。
STは、GaNパワーデバイスの適用先として、民生機器に加えて家電、太陽光発電DCオプティマイザやパワーコンディショナーなどの再生可能エネルギー関連機器、AIサーバ、オートモーティブ用途などを想定する。さらに、ヒューマノイドロボットを含むロボット向けのモータードライバーなど、新しい応用先への展開も視野に入れる。
安治氏は「STのGaNパワーデバイスは、既存のSiパワーデバイスから置き換えやすいように設計してあることが特徴だ」と述べる。ユーザーは従来の設計資産を活用しながらGaNへの移行を進められる。また、評価ボードやシミュレーションツールも用意している。シミュレーションツールはSTのWebサイトから利用可能だ。設計段階から実機評価までサポートを提供することで、GaN導入に向けたハードルの低減を図る。
GaNの優れた特性や小型化/高速動作への期待は、既に多くのエンジニアが認識しているところだろう。安治氏は「『GaNを使った製品開発にチャレンジしたい』という顧客は多い。STはフルラインアップで顧客をサポートする」と強調する。
GaNパワーデバイスの導入に関心を持ちながらも扱いにくさや製品ラインアップ、供給体制に懸念があるエンジニアにとって、包括的なGaNソリューションの提供や供給体制の強化を進めるSTは、心強い味方になるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:STマイクロエレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年7月7日