予知保全の新たな選択肢 10kHz対応MEMS振動センサーで異常の早期検知へ:センサー内部で信号処理やAI推論もできる

STマイクロエレクトロニクスは、10kHzの高周波帯域に対応する3軸MEMS振動センサー「IIS3DWB10IS」を発表した。小型で低消費電力ながら、センサー内部で高速フーリエ変換(FFT)などの信号処理やAI推論も実行できる。電流検知では捉えにくい微小な機械的異常を早期に検知し、従来の圧電センサーを用いる場合よりも小型で導入しやすい予知保全システムの実現を狙う。

PR/EDN Japan
» 2026年09月28日 10時00分 公開
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高まる予知保全の重要性

 工場などの生産設備を持つメーカーにとって、装置や設備の故障はできる限り避けたい事態だ。修理によって生産が止まり、ダウンタイムが発生すれば、大きな損失につながる可能性がある。そのため、電流や振動、温度などのデータをリアルタイムに取得し、異常の兆候をできるだけ早く捉える予知保全の重要性が高まっている。

 国内では、ピエゾ素子(圧電センサー)を使った振動検知や、シャント抵抗を用いたセンサーレスの電流検知の手法が主に使われている。これらに加え、STマイクロエレクトロニクス(以下、ST)が「第3の選択肢」として提案するのが、小型のMEMS振動センサーを使うアプローチだ。STはこの用途に向け、10kHzの高周波帯域に対応する3軸MEMS振動センサー「IIS3DWB10IS」を発表した。

早期に異常の予兆が現れる「振動」

 装置の状態監視には、超音波、振動、電流、ノイズ、温度など、さまざまなデータが用いられる。それぞれに特徴があり、検知しやすい異常の種類や、異常を捉えられるタイミングも異なる。

 例えば超音波や振動は、故障の初期段階で生じる兆候を比較的早く捉えられ、場合によっては故障の数カ月前から異常を検知することが可能だ。超音波を利用する方法としてはマイクによる検知もあるが、工場では多数の装置が稼働し、さまざまな音が発生している。そのため、多くの音が混在する環境から、監視対象の装置が発する超音波だけを的確に捉えることは容易ではない。

 電流による検知は、電気的な不具合の検知に強く、ギア系の不具合や、比較的大きな軸ずれや芯ずれも検知できる。電流センサーを使用せず、シャント抵抗+オペアンプ+マイコンというセンサーレス構成で、比較的安価にシステムを構築できることも利点だ。一方で、異常の予兆を捉えられるタイミングは超音波や振動に比べると遅く、故障の数週間前になって初めて電流値に異常が現れるケースもある。ごくわずかな軸ずれ/芯ずれだと電流値に変化が現れにくく、不具合がある程度進行するまで気付けないことがあるのだ。STのアナログ・MEMS・センサ製品 & スマートフォン コンピテンスセンターで統括部長を務める古川雅一氏は「電流値に異常が現れたときには、装置の異常が既に目視でも認識できるほどになっていることもある。これでは遅い」と話す。

 これに対して振動は、超音波よりも遅いものの、故障の数カ月前という比較的早い段階で異常を捉えられる。例えばベアリングの中にある転動体(ボール)に小さな傷がつくと、その傷に接触するたびに振動が発生する。これが異常の初期段階の兆候として現れるので、わずかな傷でも早く検知しやすい。

異常の検知から故障に至るまでの期間を比較したグラフ。超音波と振動は早期に異常を捉えられる[クリックで拡大] 提供:STマイクロエレクトロニクス

 産業機器用の大型モーターや、ファクトリーオートメーション(FA)で使われるロボットアームでは、わずかな芯ずれや、ベアリングのボールの小傷が、最終的に致命的な故障につながる可能性がある。そのため、できるだけ早い段階で異常を検知したいというニーズが強い。古川氏は「ボールの小傷などを電流センサーで検知するのは極めて難しいので、早期にメンテナンスを実施するには、振動データを用いる方が適しているアプリケーションもある」と語る。

 「日本ではセンサーレスの電流検知による予知保全がトレンドになっているが、欧米では振動センサーを使った故障検知/予知保全ソリューションの導入が積極的に進められている」(古川氏)

ST アナログ・MEMS・センサ製品 & スマートフォン コンピテンスセンター 統括部長 古川雅一氏 ST アナログ・MEMS・センサ製品 & スマートフォン コンピテンスセンター 統括部長 古川雅一氏

10kHzの高周波帯域の振動を取得

 こうした背景を受けてSTが開発したのが、IIS3DWB10ISだ。測定範囲は±50g / ±100g / ±200gから選択できる。大きな特徴は、10kHzまでの高周波帯域に対応することと、高度なリアルタイム信号処理やAIアルゴリズムを実行できる「ISPU(Intelligent Signal Processor Unit)」を搭載していることだ。これらの機能が4.5×4.5×1.5mmの小型パッケージに集積されている。

 上述したようなベアリングのボールの小傷など、初期段階の故障によって発生する振動は10kHzから数十キロヘルツの高周波になることが多い。こうした高周波の振動検知には、主に圧電センサーが用いられている。

 STの既存のMEMS振動センサーは、帯域幅が最大6kHzだったが、IIS3DWB10ISではこれを10kHzに拡張した。これにより、従来は圧電センサーしか選択肢がなかった一部の振動検知用途を、MEMS振動センサーで置き換えられるようになる。一般的に圧電センサーはサイズがサイコロくらいと大きい上に、消費電流も高く、価格も高くなりやすい。MEMS振動センサーが使えるようになれば、状態監視システムの小型化と低消費電力化が可能になる。

圧電センサー(ピエゾ素子)と振動MEMSセンサーの特徴の比較[クリックで拡大] 提供:STマイクロエレクトロニクス 圧電センサー(ピエゾ素子)と振動MEMSセンサーの特徴の比較[クリックで拡大] 提供:STマイクロエレクトロニクス

 STのアナログ・MEMS・センサ製品 & スマートフォン コンピテンスセンターでシニアマネージャー/スタッフ エンジニアを務める平間郁朗氏は「MEMS振動センサーで10kHzという帯域幅はかなり高い」と語る。「一般的なMEMS振動センサーは1kHz、2kHzの製品が多い。STの前世代品の6kHzでも相当高い帯域だ」。10kHzへの対応には、STがMEMSの設計/製造で長年蓄積してきたノウハウが生かされている。ノイズ密度は最大35μg/√Hzと低く、周波数特性にも優れる。動作温度は最大125℃で、過酷な環境にも耐えられる。

ST アナログ・MEMS・センサ製品 & スマートフォン コンピテンスセンター シニアマネージャー/スタッフ エンジニア 平間郁朗氏 ST アナログ・MEMS・センサ製品 & スマートフォン コンピテンスセンター シニアマネージャー/スタッフ エンジニア 平間郁朗氏

センサー内部で信号処理が可能に

 もう一つの特徴が、ISPUによってデータ処理の一部をセンサー内部で実行できることだ。ISPUは、DSPを備えた高性能なプログラマブルコアで、IIS3DWB10ISには、従来製品に搭載した「ISPU 1.0」の次世代版となる「ISPU 2.0」を搭載した。ISPU 2.0は、振動検出や振動データ処理に必要な高速フーリエ変換(FFT)を実行できるように再設計されている。クロック周波数はISPU 1.0の約4倍となる40MHzに高まり、20Kバイトの専用FIFOも内蔵する。プログラムを格納するメモリ(RAM)も40Kバイトから88Kバイトに増えた。

 ISPU 1.0は、小型のAIモデルをセンサー内部で動作させるという方針で開発された。ジャイロセンサーや加速度センサーのデータを基に、「通常とは異なる挙動」を検知するといった用途を想定していたからだ。平間氏は「だが、顧客から多く寄せられたのが、振動検知のためにFFTを実行したいという要望だった。そこでISPU 2.0では処理能力を高め、FFTを実行できるようにした」と語る。

 ISPUはC言語でプログラミングでき、FFT以外にも、RMS演算やエンベロープ解析などの複雑な計算を実行したり、AIアルゴリズムを動作させたりすることもできる。「技術者自身が、必要なデータを見やすいように処理できる。特に、ピエゾ素子を使用している技術者にとっては、データ処理の自由度が上がる仕様になっているのではないか」(平間氏)

ISPU 2.0の特徴[クリックで拡大] 提供:STマイクロエレクトロニクス ISPU 2.0の特徴[クリックで拡大] 提供:STマイクロエレクトロニクス

低消費電力の振動検知システムを実現

 ISPUの搭載は、状態監視システムの低消費電力化にも貢献する。

 一般的な電流センサーを使ったシステムでは、センサーで取得したデータをプロセッサに送信し、そこで異常の有無を判定した上で、その結果をホストに送信する。これに対してIIS3DWB10ISでは、センサー内部で一定の信号処理や判定を実行できるため、外部プロセッサにデータを送り続ける必要がない。異常を検知しない間はホスト側をスリープ状態にしておけるので、システム全体の消費電力を抑えられる。

 振動検知を導入する上で、低消費電力であることは大きなメリットがある。一般的に工場では、予知保全のために振動センサーを取り入れたくても、設備を取り換えたり、電源を新たに引いたりすることが難しい。そのため、装置にバッテリー駆動のセンサーを貼り付けるのが手軽な方法になる。センサーの消費電力が低ければバッテリーが長時間持つので、交換の手間もコストも削減できる。

評価ボードやサンプルプログラムも提供

 STは、IIS3DWB10IS用の評価ボードを用意している。加えて、ISPUに実装するC言語のサンプルプログラムがGitHubより入手可能だ。

 なお、IIS3DWB10ISの初期評価用に、無償のソフトウェア「MEMS Studio」を提供している。MEMS Studioはセンサーの初期評価に必要なさまざまな機能を備える。「まずはIIS3DWB10ISを動かしてみて、どのような振動データを取得できるのかを手軽に確認したい」といった場合に有効なツールだ。いずれは、上記のサンプルプログラムをMEMS Studioで動かせるようになる。

 IIS3DWB10ISはモーターなどの故障検知の他、橋脚やトンネルの天井などの異常を検知する構造モニタリングといった用途も想定する。

 平間氏は「これまで状態監視や予知保全には、高価なピエゾ素子を使うか、安価だがわずかな機械的異常の早期検出には向かない電流センサー、もしくはセンサーレスの電流検知を使うかという選択肢が中心だった。STのMEMS振動センサーは、その隙間を埋める“第3の選択肢”になる」と強調した。

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提供:STマイクロエレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年10月27日