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インターリーブのススメ、昇圧型スイッチング・レギュレータを高効率に(3/3 ページ)

マルチフェーズのインターリーブは単相よりも設計は複雑だが、発熱や基板面積、さらにはコストをも抑えられる。

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効率は高く、インダクタは低背

 単相と、2相のインターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータにおいて、入出力リップル電圧と電流のピーク値を比較した結果、ほとんどの状況で単相よりもインターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータの方が高い性能を示した。図9は、2つの設計の効率を比較したものである。両設計とも目標の91%を達成してはいるが、負荷電流の最大定格においてはインターリーブ機能付きの方が2%以上高い効率を示している。この差はわずかに思えるかもしれない。しかし電力損失の差は大きい。単相で失われる電力が23Wであることに対し、インターリーブ機能付きではわずか16Wであり、ヒートシンクの選択と熱設計に大きく影響する。

図9 2相のインターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータは、出力電流が4Aを超えると単相のスイッチング・レギュレータよりも効率が高くなる。
図9 2相のインターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータは、出力電流が4Aを超えると単相のスイッチング・レギュレータよりも効率が高くなる。 

 単相のスイッチング・レギュレータの効率を示す曲線は、少ない負荷電流の時点で最大値に到達し、それ以降急速に降下している。これは、設計に著しい伝導損失があることを示している。2つの設計の大きな違いは、インダクタ、ダイオード、出力コンデンサ、プリント基板における損失にある。表2は、インダクタ要件とパフォーマンスを比較している。インターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータのインダクタは単相のものよりもはるかに小さく、約半分である。インダクタの体積は、蓄積するエネルギー(1/2×L×I2)と温度上昇によって決まる。単相のスイッチング・レギュレータで蓄積するエネルギーはインターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータの5倍も必要である(表2)。したがって、インダクタの温度上昇が同じであれば、単相のインダクタの大きさはインターリーブ機能付きの5倍にもなる。

表2 インダクタの要件を単相とインターリーブ機能付きとで比較
表2 インダクタの要件を単相とインターリーブ機能付きとで比較 

 インターリーブによってエネルギー密度を均衡にすることよりも、損失が大きいインダクタで効率をある程度犠牲にし、温度上昇が著しい単相電源を選んだとする。その結果、単相電源の電力損失は、2相をインターリーブした場合と比較して約5W大きくなる。出力コンデンサによる電力損失の差は、約1Wとして計算できる。各出力コンデンサのリップル電流は約100mWの電力を損失するため、単相では2相をインターリーブした場合よりも6個多いコンデンサを必要とした。2相をインターリーブする場合、1出力に2つのダイオードを使用する必要があり、各ダイオードには総電流の半分が流れる。そのため、ダイオードの電圧降下は小さく、単相と比較して損失は約1W少なくなる。

図10 出力リップル電圧(上側)と、入力リップル電圧(下側)。出力リップル電圧はいくつかのポイントを示している。たとえば、インターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータではリップル電流の周波数が高いため平滑化が容易である。
図10 出力リップル電圧(上側)と、入力リップル電圧(下側)。出力リップル電圧はいくつかのポイントを示している。たとえば、インターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータではリップル電流の周波数が高いため平滑化が容易である。

 図10に、出力リップル電圧(上側)と、入力リップル電圧(下側)の波形を示す。図10(a)は単相のスイッチング・レギュレータ、図10(b)は2相のインターリーブ機能付きスイッチング・レギュレータである。出力リップル電圧は、出力コンデンサのESR(等価直列抵抗)を流れるインダクタ電流でほとんど決まり、その波形からはいくつかのキーを読み取れる。図10(a)では、大きいインダクタを使用しているためリップルの最上部がほぼ平らになっているが、図10(b)ではパワースイッチがオフの間にインダクタ電流が大きく変化しており、そのスロープを確認できる。出力リップル電圧、入力リップル電圧のいずれの波形においても、インターリーブした場合のスイッチング周波数の方が単相よりも高いことが分かる。

表3 インターリーブと単相のスイッチング・レギュレータの設計
表3 インターリーブと単相のスイッチング・レギュレータの設計 

 降圧型スイッチング・レギュレータと同様に、昇圧型スイッチング・レギュレータでもインターリーブする方が単相よりも高い性能を得られる。表3は、昇圧型スイッチング・レギュレータの単相とインターリーブした場合とを比較したものだ。インターリーブした場合、外形寸法が小さく、効率が高い。出力コンデンサの数が少なくて済む主な理由は、出力リップル電流が小さいからであり、結果的にコストと電力損失を低く抑えられる。この回路では入力インダクタのエネルギー蓄積要件も大幅に軽減されるため、磁心の量、高さ、損失も抑えられる。

 マルチフェーズでは全体の電力損失を30%軽減するほか、損失分はより広いボード面積に拡散されるため、熱管理がしやすい。一番の欠点は見てもわかる通り、回路が複雑でより多くの制御部品を使い、各スイッチング・レギュレータの電流を測定して平衡させる必要があるということだ。


<筆者紹介>

John Betten, Robert Kollman 米Texas Instruments社

ohn Betten氏は米Texas Instruments社のアプリケーションエンジニアで、同グループの技術スタッフメンバーでもある。AC-DCおよびDC-DCコンバータの設計で20年の経験を持ち、20以上の記事を発表、1つの特許を取得している。1985年にピッツバーグ大学電気工学科を卒業し、現在はIEEEのメンバーも務めている。連絡先:j-betten@ti.comRobert Kollman氏はTexas Instruments社の技術スタッフメンバーであり、パワーエレクトロニクス分野において30年以上の経験を持った電源の専門家として広く知られている。現在はTI社で電力管理アプリケーションマネジャーを務めている。この分野で発表してきた論文の数は40以上にのぼる。テキサスA&M大学(カレッジステーション)で電気工学学士号、南メソジスト大学(ダラス)で電気工学修士号を取得している。連絡先:r-kollman@ti.com


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