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TIに見る、アナログ・DSPのワンストップ戦略TI Developer Conference 2006から(2/4 ページ)

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レオナルド・ダビンチが技術革新の創始者

 TI社は、一連のアナログ信号チェーンを強化するため、半導体メーカーとして弱い部分は強い技術を持つChipcon社やBurr Brown社などの企業を買収してきた。ビデオ向けのSoCである「DaVinci(ダビンチ)」を2005年に開発、単なるチップだけではなく、ソフトウエアでもブレークスルーを図った。

 DaVinciは、その名の示すとおり、レオナルド・ダビンチに由来する。現在につながるイノベーションを始めたのがレオナルド・ダビンチであるとの認識から、単なるビデオ用のSoCという位置づけではなく、イノベーションの始まりを告げる製品がDaVinciだとしている。

TI社GreggLowe氏
TI社GreggLowe氏  
TI社RichardTempleton氏
TI社RichardTempleton氏 

 DaVinciプロセッサ「TMS320DM 644x」は、TI社のDSPコア「TMS320C64x」と英ARM社の32ビットプロセッサコアの一つである「ARM926」を1チップに集積したSoCというだけではない。OSからAPI(application programming interface)までのミドルウエアをそろえたことがDaVinci応用システムを開発する上で、極めて大きい意味を持つ。このソフトウエア環境により、ユーザーはCODECを開発したり最適化したりする必要がなく、DSPのソフトウエアをプログラミングすることもない。チップとソフトを併せた、いわばターンキーシステムである。使いやすいユーザーインターフェースを使ってデジタルビデオシステムが簡単に作れるようになるため、ビデオシステムの開発期間を大幅に短縮できる。携帯型ビデオやIPセットトップボックス、ビデオカメラ、デジタルカメラ、自動車内のインフォテインメント、テレビ電話、セキュリティ装置など、さまざまなビデオシステムを誰でも作れるようになる。

 もちろん、DaVinci周辺の各種各様のアナログチップや標準ロジック、ASICなどもTI社は供給する。

アナログの先端プロセス

 完全なソリューションを提供するために、TI社はいろいろなアプリケーションに適用できる3つのプロセスを開発している。高速性を要求される応用には、コンプリメンタリのSi/GeバイポーラトランジスタとCMOSを1チップに集積したBiCom3プロセスを使う。これはSOI(silicon on insulator)基板とトレンチアイソレーションにより寄生容量を削減することで高速化を図っている。携帯機器に使う低消費電力を売り物にするアナログCMOSでは0.3μmプロセス、0.7μmピッチの配線プロセスを使う。パワーマネジメント系には高耐圧を得るためにSOIプロセスを利用している。

 ただし、すべてのアプリケーションをTI社のチップセットだけで賄えるわけではない。例えば、高速のA-DコンバータからDSPへいろいろな信号を転送する場合にはSERDESなどの並直列変換が必要になる。そのような場合にはFPGAなどのロジックと組み合わせ、MCM(multi-chip module)やSiP(system in package)などのパッケージ技術で対処する。

WiMAXのトータルソリューション

 では、いくつかの例でトータルソリューションを見ていこう。TI社は、WiMAXシステムの開発にもトータルソリューションの考え方を提案している。WiMAX(Worldwide interoperability for microwave access)は、IEEE802.16とも呼ばれ、1台のアンテナで半径50kmをカバーする無線システムである。光ファイバのラストワンマイル問題を解決する担い手になると期待されている。Forward Concept社やIn-Stat社などの米国市場調査会社は、2009年までにWiMAXのベースステーション市場は20億米ドルに成長すると見込んでいる。TI社が提案するのはWiMAXのインフラストラクチャとなる基地局装置向けである。

 TI社はこれまでのDSL(デジタル加入者線)や3Gの基地局市場においてDSPの実績がある。しかもそのデジタル変調方式となるOFDM(直交波周波数分割多重)技術でこれまでに20年の実績があると強調する。802.11やデジタル放送、DSLなどでOFDM変調方式が使われてきたからだ。

 TI社は、無線インフラに特化したDSPである「TC16482」と、WiMAXに最適化したソフトウエアを開発した。1GHzで動作するこのDSPには、シングルエラーコードを訂正する機能やMIMO(multiple input multiple output)とビーム成形技術、FFT(高速フーリエ変換)・逆FFTなどの回路を内蔵する。

 さらに、RF系では「TRF3xxxシリーズ」という4GHzで動作するIQ変調器を開発しており、出力の周波数を調整できる。この変調器はベースバンドからRF回路までを直接変換できるという機能も持っているため、開発負担を少し減らすことができる。

 TI社は、この基本的な回路に加え、標準ロジックやアナログLSI, パワーマネジメントチップ、インターフェースチップなども持っているため、ワンストップソリューションでWiMAX基地局装置を開発できるというわけだ。

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