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課題は山積み、カーエレクトロニクス設計に挑む(4/4 ページ)

自動車業界では洗練された機械設計ツールが使用されているが、それに加えカーエレクトロニクスの設計を自動化することで大きな成功を得られる可能性がある。

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SOC とは "System On Car"

 特に業界で必要とされているのは、3つの設計レベルと、実システムレベルsystem-on-carでの設計と検証におけるコミュニケーションの合理化である。チップからECU、さらにネットワークレベルへのモデリングを行い、OEMがモデルベースの設計とソフトウエアを使用してネットワークと必要なECUを設計し、そのシステムレベルの仕様を設計チェーンに渡せるような仕組みが必要とされている。

 現在のところは、米Mentor Graphics社や米Synopsys社などの伝統的なEDA企業が車載部品向けツールに手を出している。Mentor社は、自動車、飛行機、家電のシャーシにケーブルを配線するためのワイヤハーネスツール「VeSys」を何年も前から提供しており、Synopsys社はSaberという製品で機械・電気・熱シミュレーションツールを提供している。Mentor社は2005年、Saberに使用されているような独自仕様言語ではなく標準VHDL-AMSを使用してシグナルネットリストを記述できる、分野横断的なシミュレーションツールも発売している。

 Mentor社は2005年5月にスウェーデンのVolcano Communications Technologies社を買収したことで、ネットワーク設計の分野で一歩先に進んだかのように思える。しかし、この買収でMentor社が新しい分野にうまく食い込めたわけでもなく、Volcano社がこの分野で唯一傑出した企業というわけでもない。米Vector-CanTech社のように車内ネットワークの設計とシミュレーションに特化している企業もある。また、The Mathworksや米Vast Systems Technology社のように、OEMが電気システム全体をモデリングして、より厳密な制約条件と派生タイプを短時間で作成できるような最先端ECUモデリングツールを提供している企業もある。

 Volcano社とVector社は、車内ネットワークの設計を正反対の角度から見ている。簡単に言うと、Volcano社のツールでは、ユーザーはECUのすべての制約条件を指定したうえで、そのECUにネットワークを合わせることができる。一方、Vector-CanTechのツールを使用するユーザーは、バス-ネットワークの設計とシミュレーションを行ってからECUを接続する。両社とも、CAN、LIN、そして最新の高速バスプロトコルFlexRayを含めた、複数のバス規格をサポートしている。

 Vast社はECUのハードウエアモデリングに重点を置き、The Mathworks社はECUのハードウエア/ソフトウエアモデリングを提供している。独ETAS Group社やスウェーデンのEnea社のようにソフトウエア組み込み型のモデリングと設計に焦点を当てている企業もある。

 ETAS社の戦略的マーケティング・コミュニケーション部門でディレクタを務めるJeff Kessen氏は、自動車業界でも設計とテストをリアルタイムで行う必要があるという。「8気筒エンジンでは、高回転時に1秒当たり約500回の燃料計算が必要だが、ABS(antilock-braking system)は1秒当たり10回以上制動力を調整できる」(Kessen氏)。

 しかし、シミュレーションを必要とするのはソフトウエアと連動するハードウエアの動作だけではない。ハードウエアは長期にわたって厳しい温度条件や車の振動にさらされる。「一部のOEMでは、トランスミッションECUに油圧制御バルブを組み込んで、ECUをトランスミッションフルードに浸漬させている」とKessen氏はいう。「暑い日に長時間走行すれば、フルードの温度が150℃(300°F)に達することもある。このような条件に耐えられるボードコンピュータは無い」。このことは、EDAベンダーが対応範囲を広げるか、他の分野、すなわち熱、機械、流体分野のツールサプライヤと提携する必要があることを意味している。

 車載エレクトロニクス向けツールが数少ない理由の1つは、自動車部品サプライヤの多くが自社の電気システムの設計フローを隠したがり、共同規格には参加したがらないことだ。すべての車に共通するECUとハードウエア/ソフトウエア機能の定義を促しているAutoSAR(Automotive Open System Architecture)は、最も期待されている標準化推進団体の1つである。欧州のいくつかの自動車メーカーとサプライヤに支持されている同団体は、ハードウエアとソフトウエアの汎用機能の標準化を推進している。また、この標準化を通じて、設計レベル間のコミュニケーションの合理化と、車載エレクトロニクスの設計サイクルの短縮化も目指している。Volcano社を買収したMentor社はAutoSARで中心的な役割を担っており、規格の方向性に大きな影響を及ぼすと思われる。

 自動車市場の潜在的ビジネス機会を狙っている大手EDA企業はMentor社とSynopsys社だけではない。2005年半ば、米Cadence Design Systems社は車載設計向けのデザインキットを開発中であると発表した。このキットが特殊なツールを含んだものなのか、1次・2次サプライヤと自動車メーカーに魅力的な価格で単に既存のLSI、ボードコンピュータ、パッケージツールをバンドルしたものなのかはまだわかっていない。

 EDA最大手ベンダーのCadence社にとって、system-on-carレベルのツールは特に新しいコンセプトではない。同社はすでに、時代を先取りし、システムレベルのモデリングに対する自動車業界のニーズを組み込んだVCC(virtual component co-design)というツールを提供している。

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