SAR vs ΔΣ どちらのA-Dコンバータを選ぶか:Baker's Best
デルタシグマ(ΔΣ)型A-Dコンバータと、逐次比較レジスタ(SAR)型A-Dコンバータ、どちらのデバイスを選ぶべきかを検討していく。
ΔΣA-Dコンバータの技術は、サンプリング周波数に関しては、SAR(successive approximation register:逐次比較レジスタ型)A-Dコンバータに追いついた。約100kHzから1MHzのサンプリング周波数領域では、どちらのコンバータも共存する。これら2種類のコンバータの主な仕様は、ほぼ同等である。設計中の回路において、オフセット電圧とゲインエラーの直流特性が問題である場合でも、ノイズやTHD(全高調波歪)などの交流特性が問題な場合でも、SAR A-Dコンバータと高速ΔΣA-Dコンバータは、直流/交流特性において、ほぼ同じ性能を持つ。
では、対象とするアプリケーションの回路においてどちらのデバイスを選択するべきか? それを決定するには、2つのデバイスの動作を比較する必要がある。A-D変換レイテンシとは、A-Dコンバータが1つのサンプルから次のサンプルへと移るのに要する時間で、その間にデータを取得する時間も含む。SAR A-Dコンバータのレイテンシは、一瞬の信号を取得し、次の信号を取得するまでの時間である。一方でΔΣA-Dコンバータでは、変換信号が時間軸上の単一の点に対応しないため、出力コードの遅延が大きい。ΔΣA-Dコンバータは、あらかじめ定められた期間の入力を即座に平均化し、より高速にデジタルコードを出力する(図1)。半面、ΔΣA-Dコンバータの方がクロックレートが速いため、消費電力が高い。
SAR A-Dコンバータを使用する場合によくがっかりさせられることは、直流入力信号に対して出力コードが大きく異なる点である。問題は通常、コンバータではなく、アプリケーション回路の実装方法にある。SAR A-Dコンバータは、入力帯域幅が大きく、信号の変化に反応しやすい。変換ごとにサンプルを1つ取るというアーキテクチャにより、信号と共にそのノイズをも取得する。ノイズの多い環境でこの種のコンバータを使用するには、高次の偽信号フィルタが必要となる。偽信号フィルタを追加すると、ノイズの問題を解決することができるが、コンバータ全体のセトリング時間は増えてしまう。システムのセトリング時間は、多重システムのアプリケーションにおいては重要である。
一方、ΔΣA-Dコンバータは、より高速なデータレートで取得した複数のサンプルを平均し、それをそれぞれの変換結果とする。コンバータ内のデジタルフィルタが、偽信号フィルタとして機能するため、外部にはアナログ入力に2次のローパスフィルタを加えるだけでよい。ΔΣA-Dコンバータは、内部にあるデジタルフィルタリングシステムで、信号ノイズを容易に扱うことができる。しかし、ΔΣA-Dコンバータの入力にステップ入力を印加すると、こちらもセトリングに時間がかかることになる。オンチップのデジタルフィルタは、補充、再セトリングに時間を要する。
どちらのコンバータもさらに利点がある。SAR A-Dコンバータは、マルチプレクサまたはPGA(programmable gain amplifier)を入力に内蔵することができる。マルチプレクサやPGAを持つΔΣA-Dコンバータも存在するが、それらには入力バッファやセンサー故障検出電流源をつけたり、SAR A-Dコンバータよりも高次の回路を必要としたりすることが多い。
用途としては、SAR A-Dコンバータは、高速制御ループやマルチチャネルデータ取得システムなどの、高速応答と低いレイテンシが要求されるアプリケーションに適している。ΔΣA-Dコンバータは、測長機やオーディオシステムなど、高分解能を要するアプリケーションに向く。どちらのコンバータも、精度、広帯域幅、高分解能処理を必要とするモーター制御や、水中音波探知器、振動解析によく使われている。
<筆者紹介>
Bonnie Baker
Bonnie Baker氏は米Microchip Technology社でアナログ・ミックスドシグナルアプリケーション部門のマネジャーを務める。「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」などの著書がある。ご意見は次のメールアドレスまで。bonnie.baker@microchip.com
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