静電容量タッチセンサーの「今」をつかむ:ミックスドシグナル技術で大きく進化(2/5 ページ)
静電容量方式のタッチセンサーの用途が拡大しつつある。ミックスドシグナル技術の導入により、実用性が格段に高まったからだ。本稿では、いくつかの製品の原理、特徴を概観することで、同方式タッチセンサーの最新動向を明らかにしたい。
自己校正機能の実現
まずはAnalog Devices社の新製品「AD7142」について見てみよう。同製品の標準価格は1.65米ドル(1000個購入時)で、静電容量値をデジタルデータに変換する14本のチャンネルが5mm×5mmの32端子CSPに収められている。その特徴は、モバイルエレクトロニクス製品に不可欠な自己校正機能を備えている点である。
同製品では、240kHzの方形波信号を生成して各ボタンのトランスミッタ電極を駆動する(図1)。このトランスミッタ電極と対をなし、レシーバ電極が用意されている。レシーバ電極の信号はスイッチマトリクスによって多重化され、静電容量値をデジタルデータに変換するΔΣ変調方式の16ビットA-Dコンバータに送られる。ここで、指(あるいはほかの導体)がボタンに触れると、その静電容量(電荷)が分路(shunt)し、A-Dコンバータの出力コードが変化する。この変化量が閾値を超えると、センサーはキーが押されたものとして記録処理を行う。なお、閾値は固定ではなく、プログラマブルに変更可能である。
AD7142の各チャンネルには、結果を格納する専用のレジスタがある。このレジスタの値は、SPIまたはI2Cのインターフェースを用いて読み出すことができる。またAD7142は、下記の3種類のイベントが発生した際、割り込み信号を生成することができる。
- センサーの閾値を超えたとき
- 変換シーケンスを完了するとき
- 汎用I/Oピン上のイベントを検知したとき
個々のチャンネルは、CDC(capacitance to digital converter:静電容量値をデジタル値に変換するコンバータ)ブロックへの接続方法を決定するために、再構成用レジスタ内に2ビットのフィールドを備えている。その接続方法は、以下の4とおりである。
- 接続なし
- CDCの正入力に接続
- CDCの負入力に接続
- バイアスレールに接続(外部のシールド用コンダクタを駆動する)
この機能により、種類の異なるセンサーをサポートすることが可能となっている。例えば、1つのボタンを1つのCDC入力に接続したり、2つのボタンを正/負の入力に別々に接続したりといったことが行える。どちらの方法をとるにしても、ボタンが1回押されたら、静電容量値の変化をデジタル値に変換する単一ステージの処理が必要となる。なお、差動方式で用いる際、正/負入力につないだ両方のボタンを押すと、どちらのボタンも認識されない。
スライダ式のセンサーでは、差動方式を用いる。また、その場合には、2つの変換ステージが必要となる。最初のステージでは、物体の接近を検知してセンサー機能を起動し、次のステージではその相対位置の解決を行う。AD 7142のシーケンサは、1回の測定シーケンスにつき、最大12の変換ステージをサポートしている。変換回数とデータの取得ブロックに適用する間引き率のバランスをとることで、パフォーマンスを最適化することができる。Analog Devices社は、完全な変換シーケンスの時間を35ms〜40msに設定するよう推奨している。
物体の接近を検知する機能は、チップ内部の校正ルーチンにとっても重要である。この校正ルーチンは、静電容量値の変化を評価するために変換シーケンスごとに実行される。システムの設計者は、レジスタを使って、チップの動作モードごとに校正ルーチンの実行を留保する時間を調整することができる。これにより、ユーザーの指が長時間キーの上でさまよっていても、校正ルーチンが無効になるのを避けることができる。ユーザーの指の水分がパネルに付着した場合にも同様の状態になるが、強制的に再校正を実施することにより、センサーは最適な検知性能を維持できる。閾値と感度をコントロールするアルゴリズムがセンサーの出力レベルを常に監視し、指の大きさの違いなどによる検知領域の変化に応じて閾値を自動的に調整してくれる。
本稿で紹介するいずれの静電容量タッチセンサーも、その検知方式ごとの消費電力と、キーが押される頻度、全体の消費電力との間に、ある程度のトレードオフが存在する。例えば、AD7142には以下の3つの動作モードがある。
最大出力モード低出力モードシャットダウンモード これらのうち、最大出力モードでは、デバイスのすべての部分がオンになり、一定の間隔で変換と再校正が行われる。一方、低出力モードでは、キーが押されたことが検知されるまでは、変換頻度が400msに1回といった具合に減少する。そしてキーが押されたことを検知すると、40msに1回のシーケンスに復帰する(これらのタイミングは変更可能である)。その際、タイマーによるカウントが行われ、それ以上キーが押されなければ、センサーは再び400msに1回のサイクルに戻る。最大出力モードでの消費電流は約1mAだが、低出力モードでは平均して約50μAまで低減される。
なお、シャットダウンモードの消費電流は、約2μAである。
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