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静電容量タッチセンサーの「今」をつかむミックスドシグナル技術で大きく進化(3/5 ページ)

静電容量方式のタッチセンサーの用途が拡大しつつある。ミックスドシグナル技術の導入により、実用性が格段に高まったからだ。本稿では、いくつかの製品の原理、特徴を概観することで、同方式タッチセンサーの最新動向を明らかにしたい。

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3Dイメージングへの対応

 Feescale社の製品スペシャリストであるBrad Stewart氏は、「わが社の電解センサー『MC33794』は、最大9本の検知電極と2本の参照電極をサポートする。そのため、自動車のシートセンサーなど、搭乗者や座席位置に応じてエアバッグを配置するような3次元(3D)イメージを必要とする用途にも幅広く対応できる」と語る。

 MC33794は標準価格2.22米ドル(1000個購入時)であり、54端子SOPで供給される。同製品は、同軸ケーブルを使ってリモートセンシングを行う際、プレートへの接続によって発生する容量の影響を補償するシールドドライバを備えている。また、検知レベルなどを伝送する重要な内部ノードは、デバイスの端子経由でマイクロコントローラのアナログ端子に接続することにより、測定/校正可能となっている。10.4kビット/秒、UARTベースのバスには、ISO 9141に準拠した物理層インターフェースを介して接続できる。このバスは米国の車両に義務付けられている3つの車載診断通信構造のうちの1つである。

 MC33794では、22kΩの抵抗を介して5Vp-p、120kHzの正弦波がセンサー電極に印加される。比較的周波数の低い正弦波を選択しているのは、EMCの問題を最小限に抑えるためだ。この周波数であれば、ほとんどの米国車に搭載されているAMラジオとの干渉を避けることができる。同期復調器、整流器、ローパスフィルタにより、物体の接近によって生成される信号レベルが平滑化される。

 電極間の静電容量は、電極の面積と絶縁体の比誘電率に比例し、それらの間の距離に反比例する。すなわち、以下の式が成り立つ。

図2 さまざまな用途に対応可能なFreescale社の3Dタッチセンサー
図2 さまざまな用途に対応可能なFreescale社の3Dタッチセンサー 

 上式において、kは絶縁体の比誘電率、εοは真空の誘電率、Aはプレートの面積、dはプレート間の距離(単位はメートル)である。Stewart氏は、「この関係は開閉ドアの検知や回転ドラムの傾き補正といったさまざまな用途に適したものだ」と語る。同氏によれば、「電極間容量は距離に反比例するので、MC33794は乾燥機などの家電製品の振動補正という新市場に対応できる」という。加えて、同氏は「設計者は電極の設計は極めて難しいと考える傾向があるが、実際には非常にシンプルなものだ。例えば、標準的なFR4プリント基板で用いるボタンには、10mm×10mmのサイズを推奨する」という*1)。自動製氷器や冷蔵庫の除霜システムへの応用も考えられ、水位やガスコンロ周りの噴きこぼれを検知できる可能性もある(図2)。

 Freescale社の「MC34940」は、24端子のワイドSOPで提供される電解センサーである。7個の電極と1本のシールドを駆動でき、自動車や家電、産業用途に対応できる。最大28個のタッチパッドセンサーにも対応可能で、価格は2.12米ドル(1000個購入時)である。

 Freescale社は、スライダ式のセンサーへの対応や、隣接キーの抑制機能、定期的な再校正機能を実装するためのCコードドライバと、マイクロコントローラに適した統合開発環境「CodeWarrior」下で動作するプロジェクト環境を提供している。この中には、同社が最近発売した「S08」コアベースのマイクロコントローラも含まれている。マイクロコントローラ「68HC908QY4」を使う場合は、開発ツール「DEMO1985MC34940E」にサンプルコードが含まれているほか、Visual Basic .NETで記述されたアプリケーションも付属している。そのため、プログラマは要件に合わせてそのコードを修正するだけで済む。開発ツールキットは、57.65米ドルで販売されている。

パネルのスキャニングへの対応

図3 「CY8C21x34」と「CY8C24x94」の仕組み
図3 「CY8C21x34」と「CY8C24x94」の仕組み Cypress社のセンサーでは、弛張発振器内の周波数の変化が測定される。

 Cypress社は、「CapSense」シリーズ製品において、他社とは異なる検知方式を採用している。同社の「CY8C21x34」と「CY8C24x94」は、PSoC(programmable-system-on-chip)マイクロコントローラ方式によって弛張発振器が実装されている。

 これらの製品では、センサー電極とグラウンド電極間の容量により、のこぎり波を生成するジェネレータのタイミングが決まるように構成されている。電圧が閾値に達するまで定電流源によってコンデンサを充電し、閾値に達するとスイッチが切り替わってコンデンサが放電するというサイクルが繰り返される(図3)。発振器の周波数は、静電容量とその充電電流によって決まる。つまり、この回路は静電容量の増加による周波数の変動値を測定することで、ユーザーの指の存在を検知する仕組みとなっている。Cypress社は、動作原理を説明したアプリケーションノートをいくつも公開しており、その中でこのタイプのセンサーに適したシステムレイアウト手法も紹介している。

 CY8C21x34には、16端子SOP、5mm×5mmのMLFなど4つのパッケージオプションがあり、いずれも8Kバイトのフラッシュメモリー、512バイトのRAM、I2Cポート、SPIポートを搭載している。一方、CY8C24x94のパッケージは、56端子8mm×8mmのMLFであり、16Kバイトのフラッシュメモリー、1KバイトのRAM、SPIポート、フルスピードUSBポートを搭載している。これらの標準価格は1.90米ドル〜2.85米ドル(1000個購入時)となっている。

 Cypress社のCapSense製品マーケティングディレクタを務めるSteven Berry氏によれば、同社のPSoCデバイスが従来のマイクロコントローラと異なるのは、さまざまなアナログブロックの組み合わせによって、再構成可能なデジタルコアの機能を補間できることだという。同氏は「わが社の製品のコア部分は、レジスタに値を設定するだけで、UARTやタイマーなどの機能ブロックを追加できるステートマシンだ」と説明する。

 この技術は、オペアンプやコンパレータ、抵抗アレイのほか、フィルタ、A-Dコンバータ、D-Aコンバータを形成するスイッチドキャパシタ回路などを含むアナログ機能ブロックもサポートしている。設計ツール「PSoC Designer」に含まれているフロアプランツールを使えば、ビジュアルに結線を行うことが可能である。「PSoC Designerを使えば、プリント基板上でのモジュールの接続を抽象化することができる」とBerry氏はいう。

 各モジュールに対して、電気仕様と設計方法を説明したデータシートが用意されている。開発環境としては、C言語/アセンブリ言語によるプログラムによってレジスタ設定と関数呼び出しが行えるAPI(application programming interface)とドライバが提供される。多くの小規模案件では、このマイクロコントローラを使うことで、1チップのシステムを作ることができる。

 Berry氏も、「ハンドヘルド機器では、環境を予測できないという問題がある」と指摘する。この問題に対処するために、設計者はAPIを使って定期的に校正アルゴリズムを実行し、各電極に対応するレジスタを更新できる。環境が頻繁に変化するシステムに対応するために、ノイズ検知と物体検知の閾値を設定し、ソフトウエアによる調整を継続的に行えるようになっている。また、検知アルゴリズムを調整することで、消費電力と感度のバランスをとることも可能だ。

 定電流源方式では電圧を変化させることができない。Berry氏によれば、Cypress社は電流源の精度を維持する温度補正方法の開発に取り組んでいるという。また、同社では、ノイズやESD(electrostatic discharge)などによる干渉の問題を、現在のようにファームウエアで軽減するのではなく、シリコンで軽減するための新しい手法も探っている。

脚注

※1…"Touch Panel Applications Using MC34940/MC33794 E-Field ICs," Freescale Semiconductor Application Note, AN1985, April 2006, www.freescale.com/files/analog/doc/app_note/AN1985.pdf.


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