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DC-DCコンバータのグラウンドバウンスを抑えるその発生メカニズムから、基板設計ノウハウまで(2/3 ページ)

「グラウンド」は回路図上では単純なものだが、プリント回路基板のレイアウトによっては、複雑なものともなり得る。グラウンドに生じた電圧変動を解析するのは難しい。しかし、その発生原理を理解することで問題に対処できる。本稿では、DC-DCコンバータを例にとり、電圧変動の発生メカニズムとその対策方法を解説する。

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降圧型コンバータの対策

 図4に示したのは、降圧型のDC-DCコンバータ(バックコンバータ)をモデル化したものだ(図の上側)。図の下側と比較すると、このモデルが図3の単純な回路とよく似ていることが分かる。高い周波数では、大容量の入力コンデンサCVINがDC電圧源のように作用する。同様に、大容量の出力インダクタLBUCKはDC電流源のように機能する。


図4 降圧型コンバータのモデル
図4 降圧型コンバータのモデル 高い周波数でのスイッチイング動作時には、CVINが電圧源となり、LBUCKが電流源として機能する。

 図5に示したように、スイッチが切り替わるたびにループ領域が変化し、それに伴って磁束も変化する。その際、LBUCKは、出力電流をほぼ一定に保つように働く。同様に、寄生入力インダクタンス(導線のインダクタンス)の影響が現れないようにCVINが電圧をほぼ一定に保つため、入力電流もほぼ一定となる。入力電流と出力電流は直流に近くなるが、スイッチの位置が「1」から「2」に動くとき、ループ領域全体が回路中央で瞬時に変化する。これにより磁束が変化し、その結果、グラウンドバウンスが発生する。

図5 降圧型コンバータの動作
図5 降圧型コンバータの動作 スイッチの位置が「1」のとき、赤色のループ領域となる。一方、スイッチの位置が「2」のときは、青色のループ領域となる。

 実際の降圧型コンバータはもう少し複雑で、図6のように半導体スイッチを用いて構成される。しかし、複雑さが増しても、磁束の変化によって発生するグラウンドバウンスについては、簡単かつ直感的に分析できる。

 ここまでで、磁束の変化がグラウンドリターン上に電圧を発生させるということは分かった。ここで、1つの興味深い疑問が浮かぶ。それは、「真のグラウンドはどこなのか」ということだ。

 電力調整回路では、真のグラウンドは負荷のポイントになくてはならない。DC-DCコンバータはその負荷に電圧と電流を供給するが、現実の回路では、負荷から電流が戻される先は、真のグラウンドではなく、グラウンドリターンである。

図6 降圧型コンバータの構成図
図6 降圧型コンバータの構成図 図5のスイッチは、実際には半導体スイッチで実現される。
図7 グラウンドバウンスを軽減するC<sub>VIN</sub>の接続位置
図7 グラウンドバウンスを軽減するCVINの接続位置 CVINがハイサイドスイッチとローサイドスイッチをバイパスすることで、ループ領域の変化が小さくなり、グラウンドバウンスが大幅に低減される。

 図7は、CVINをうまく配置することで、グラウンドバウンスを軽減できるということを表している。図のようにCVINでハイサイドスイッチとローサイドスイッチをバイパスすることで、ループ領域の変化が小さくなるようにしている。ループ領域が変化する部分は、グラウンドリターンから分離されており、入力電圧VINのグラウンド側から、負荷の真のグラウンドまでの範囲は、ループ領域やスイッチング電流が変化しても変化しない。その結果、この部分にはグラウンドバウンスが発生しなくなる。

 図8に示したレイアウトは決して良い例ではない。しかし、図6の回路を実現する場合に、おそらくこれが典型的なプリント回路基板レイアウトの例となるだろう。図8のレイアウトでは、ハイサイドスイッチがオンになると、外側の赤いループに沿ってDC電流が流れる。ここで注意しなければならないのがループ面積と磁束の変化だ。この配置だと、磁束の変化に伴って電圧が発生し、グラウンドバウンスが生じてしまう。

図8 ループ領域が大きく変化するレイアウト
図8 ループ領域が大きく変化するレイアウト

 一方、次ページの図9(a)はソリッドなグラウンドプレーンを使用した場合に、問題が生じる可能性があることを示している。この例では、設計者は2層のプリント回路基板を使い、バイパスコンデンサを上層の供給線に対して直角に配置している。図9(a)のソリッドなグラウンドプレーンは一般的ではあるものの、実は良くない例である。これだと、上部配線の電流がコンデンサからビアを通じてグラウンドプレーンに流れてしまう。AC電流は、常に最小インピーダンスのパスを通る。そのため、図9(a)の例の場合、グラウンドリターンの電流は配線のコーナーを横切ってソースに戻る。この電流は磁場を発生させ、電流の値/周波数の変動によって変化するループ領域を生成する。電流値または周波数のどちらかが変化すると、このループ内の磁束も変化する。それにより、グラウンドプレーンにバウンスが発生し得る。

図9 グラウンドプレーンのレイアウトの例
図9 グラウンドプレーンのレイアウトの例 a)のレイアウトでは、グラウンドプレーンがソリッドでスリットが入っていない。これだと、上部配線の電流がコンデンサからビアを通じてグラウンドプレーンに流れてしまう。(b)のようにグラウンドプレーンにスリットを入れると、ループ領域の電流変化が最小になり、グラウンドバウンスがあまり発生しない。

 それに対し、図9(b)のようにグラウンドプレーン内にスリットを入れると、リターン電流を最小限のループ領域に封じ込め、バウンスの発生を抑えることができる。このアプローチにより、スリットで囲まれたグランドリターンのバウンス電圧がグラウンドプレーンから分離される。

 図10のプリント回路基板のレイアウトでは、グラウンドバウンスを低減するために図9と同じ原理を用いている。このレイアウトは必ずしもベストとはいえないが、いくつかの基本原理を反映しており、十分に機能する。

 まず、入力コンデンサと2つのスイッチをグラウンドプレーン上のアイランド内に配置している。赤色と青色の電流パスで囲まれたループ領域に着目すると、2つのループの違いはわずかだ。ループ領域の変化が小さいということは、磁束の変化も小さいということを意味し、ひいてはグラウンドバウンスも少ないということになる。さらに、磁場とループ領域の変化が起こるアイランド部分では、スリットによってグラウンドバウンスが閉じ込められる。なお、図10のCVINからハイサイド/ローサイドスイッチまでの距離が異なることが気になるかもしれないが、電気的な意味では問題ない。物理的に隣接しているのは良いことだが、ループ領域を最小化することで電気的な問題を解消することのほうがより重要である。

 なお、グラウンドプレーンにスリットを入れると、回路内のほかのループ領域が広がってしまうことがある。従って、スリットは慎重にレイアウトする必要がある。

図10 グラウンドバウンスを抑えるレイアウト
図10 グラウンドバウンスを抑えるレイアウト

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