電流モード制御DC-DCコンバータの特性改善:電流検出はどこで行うべきなのか(2/3 ページ)
電流モード制御のDC-DCコンバータは、どの位置で電流検出を行うかによって特性が大きく左右される。本稿では、従来の設計の問題点を指摘するとともに、DC-DCコンバータの種類ごとに電流検出の最適な位置について解説する。
信号損失が大きな問題
上述したようなPCMCの制限事項は重要なことである。とはいえ、これらについては適切な設計により対処は可能だ。しかし、もう1つの問題が存在することから、これまでPCMCの評価は低かった。設計者によってはPCMCの適用をあきらめ、ACMCやVMCを代替手段として用いてきたのだ。では、その問題とは何か。それは、パワースイッチがオンした際、制御に用いる電流に現われる前縁スパイク(リーディングエッジスパイク)である。
前縁スパイクは、安定化動作に入る前にPWM動作を停止させてしまうほど大きなものとなる。出力電圧が降下(ドループ)するため、次のパルスに対する誤差信号が大きくなり、パルス幅が長くなる。このようなサイクルが続き、PWMパルスにオシロスコープでも容易に観測できるほど大きなジッターが生じることになる。この問題に対しては、以下に示すような対策が考えられている(ただし、後述するように、いずれの方法にも問題がある)。
■ブランキング法
これは、パワースイッチがオンしたとき、一時的に電流検出を停止して、PWM動作が停止しないようにするというものである。
この方法には、デューティサイクルの最小値に許容限界が生じるという問題がある。すなわち、パワースイッチがオンした際には電流検出機能が実質的に働かなくなっているため、パルス幅の最小許容値ができてしまうのだ。その結果、負荷が軽微または無負荷の場合と同様に、デューティサイクルを必要十分に小さくできず、出力コンデンサが
過剰に充電されることになる。
また、例えば出力が短絡するような障害が発生したとき、電流量を制限する保護動作が遅延し、電力が過大となってデバイスが破壊してしまうこともあり得る。この方法では、動作条件を適正化して問題を軽減しようとしても、多くの場合、望ましくない結果になる。コンバータを最小デューティサイクルの制限なしで動作させると、障害発生時の高速保護機能が必要になるが、そのことと前縁スパイクのブランキングとを両立させることはできない。
■フィルタリング法
これは前縁スパイクをRCフィルタによって除去するというものである。この方法にも、上述したブランキング法と同様の問題点がある。スパイクを効果的に抑制できるように時定数を大きくすると、出力が短絡した際の保護動作が遅れてしまうのだ。また、ブランキング法の場合と同様に、時定数を大きくしようとするとデューティサイクルに下限値が生じることになり、負荷が軽微な場合に望ましくない結果となる。
さらに、RCフィルタによって電流制御ループの伝達関数に極点が追加されることで位相遅れが発生する。これにより、動作が不安定になるか、またはダンピングが不十分な状態に陥ってしまう。安定性を確保するためには、利得1の帯域から十分外側の高周波帯に極点が位置するよう時定数を小さくしなければならない。しかし、そのようにすると、スパイクを十分にフィルタリングすることはできない。
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