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DC-DCコンバータのEMIノイズPWM方式、ZCS/ZVS方式のノイズ特性を把握する(1/3 ページ)

DC-DCコンバータは、その方式によってノイズ特性が異なる。特に低ノイズであることが求められる用途では、製品を適切に選択するために、方式ごとのノイズの発生原理と特性の差異を理解しておかなければならない。

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DC-DCコンバータはノイズ源

 今日のDC-DCコンバータでは、高周波スイッチング方式が最も多く利用されている。従来は、いかにスイッチング周波数を高めるかが、DC-DCコンバータの電力効率と性能を向上させるための鍵になるとされていた。言い換えれば、高周波での動作が、インダクタやコンデンサの小型化、応答の高速化、フィルタの小型化、さらにはノイズの低減にも結び付くと理解されてきたのだ。

 確かに高い周波数での制御により、ノイズ性能の一部は改善される。しかし、程度の差はあるものの、周波数を高めることだけでは、すべてのDC-DC コンバータが抱えるEMI(electromagnetic interference:電磁波干渉)ノイズの問題は解消しない。EMIの影響はコモンモード、差動モードあるいは放射性のノイズとして現れるが、DC -DCコンバータのメーカーの違いや方式の違いによってその度合いには大きな違いがある。

 DC-DCコンバータの方式は数多くあるが、基本的なものとしては以下の2種類が挙げられる。

  • 固定周波数方式
  • 変動周波数方式

 ノイズの問題を扱うエンジニアは、これら2つの主要な方式についてノイズ特性の違いを理解しておく必要がある。そこで、本稿ではこれら2つの方式のノイズ特性を比較してみる。それぞれの代表的な方式として、前者についてはPWM(pulse width modulation:パルス幅変調)方式を、後者の例としては、ZCS/ZVS(zero-current switching/zero-voltage switching)方式を取り上げることにする。

問題は「電流波形」

 固定周波数のPWM方式DC-DCコンバータ(以下、PWMコンバータ)では、スイッチングロスが避けられない。このスイッチングロスにより、動作周波数と効率とが本質的なトレードオフ要因になる。この方式では、短い時間間隔で、インダクタに電流が流れたり止まったりする。それに伴い、スイッチング素子において電力が消費されてノイズが発生する。PWM動作の周波数を高めると、スイッチングロスによる電力消費が直接的に増加し、ある周波数を超えると電力損失の主要な要因となる。それより高い周波数では効率が急速に低下し、スイッチング素子における熱的/電気的ストレスが手に負えないレベルになる。このような“周波数の壁”が存在することにより、通常のPWMコンバータでは実現可能な電力密度が制限される。

 一方、変動周波数のZCS/ZVS方式DC-DCコンバータ(以下、ZCS/ZVSコンバータ)では、ゼロ電流、ゼロ電圧におけるフォワード型のスイッチング方式を用いる。これにより、“周波数の壁”を回避でき、入力からのエネルギがスイッチングサイクルごとに“パケット”として取り出されて出力端に送出されるイメージとなる。スイッチは電流/電圧ともにゼロの状態でオン/オフされるので、本質的に無損失である。ZCS/ZVSコンバータは1MHz を超える周波数で動作し、通常の方式に見られる高速かつ不連続的な電流変化をなくすことができる。そのため、入力から出力への電力伝達において原理的には損失が発生せず、伝導性および放射性のノイズが非常に少ない。

 PWMコンバータとZCS/ZVSコンバータの主要な相違点の1つは、スイッチングによって発生するノイズの性質である。この違いは電流波形が異なることによるものだ。PWMコンバータでは電流波形が矩形波となるのに対し、ZCS/ZVSコンバータのそれは正弦波をベースとしたものとなる。PWMコンバータでは、通常は数百キロヘルツの一定周波数でスイッチングが行われる。いわば入力電圧がパルス列に変換されるイメージである。このパルスの幅を調整することにより、電圧を安定に保持しつつ必要な電力を負荷に送出する。定格負荷の条件では、電流波形は矩形波に近くなる。一方、ZCS/ZVSコンバータの電流波形のベースとなる正弦波には急峻なエッジがないため、高調波成分が少ない。その結果、寄生のインダクタンス/容量を励起するエネルギが小さくなり、ノイズが少なくなる。

 固定周波数のDC-DCコンバータと変動周波数のDC-DCコンバータとでは、直感的には前者のほうがフィルタの設計が容易であるように感じられるのではないだろうか。その理由は、「固定周波数」、「変動周波数」という用語に起因するものだと考えられる。しかし、実際には両方式ともにある程度は固定の周波数要素を持ち、同時に動作条件に依存して変動する周波数要素も存在する。結果として、フィルタの実現は変動周波数方式のほうがむしろ容易である*1)。


脚注:

※1…Hsiu, L, M Goldman, R Carlsten, A Witulski, and W Kerwin, “Characterization and Comparison of Noise Generation for Quasi-Resonant and Pulsewidth-Modulated Converters,” IEEE Transactions on Power Electronics, Volume 9, No. 4, July 1994.


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