検索
特集

「熱」と正しく向き合う熱設計の基礎理論から評価/計測ノウハウまで(6/8 ページ)

温度の変化は、予期せぬ回路動作や部品の破損を引き起こす原因となる。本稿では、熱が部品に及ぼす影響や、部品が発生する熱量の見積もり方、温度測定環境の整え方、実際の熱測定の方法など、熱設計を正しく行うためのポイントとなる事柄について解説する。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

■(3)周囲温度の評価

 熱解析の最後のステップは、周囲温度の評価である。熱解析では、部品が動作する周囲環境のことを考慮するのを忘れがちだ。例えば、温度が25℃の試験環境において、あるチップが50℃の温度で動作するものとする。このチップを気温50℃の環境に移すと、チップの温度は75℃に達する。このように、熱解析においては、周囲温度の評価も重要な項目となる。

 部品が正常に動作することはもちろんだが、その耐性も重要である。例えば、自動車工場の塗装炉では、すべての電子部品がその後さらされることのない高温中に置かれることになる。幸いなことに、この工程で電源を入れることはないため、電子部品は破損しない。

 エンジニアの多くは、どれだけ過酷な環境があり得るのかということまでは考えない。例えば人工衛星では、太陽との位置関係により、絶対零度近くから数百度まで温度が変化する。これは極端な例だとしても、地球上にはほかにも過酷な環境が数多く存在する。日産自動車米国法人のテスト開発エンジニアであるBruce Robinson氏は、アリゾナ州にある同社の砂漠試験工場に勤務している。Robinson氏によれば、同社では通常、日中の最高気温が46℃、室内の最高温度が81℃、装置パネル表面の最高温度が111℃、内部部品の最高温度が82℃という想定で試験を実施するという。装置パネルの上面ではお湯を沸かすことができるほどの条件である。自動車向けの電子部品を設計する際には、このくらいの条件を考慮するとよい。

 エンジニアの多くは、“周囲温度の入れ子構造”を理解していないという点でつまずいている。例えば、CD-ROMドライブの光ピックアップ装置で用いる部品を設計しているとしよう。民生向け製品の部品であるため、動作温度範囲として0〜70℃を想定する人も多いだろう。だが、ここでもう一度考え直してみる必要がある。確かに、試験時には25℃の環境で動作させることになるのかもしれない。しかし、光ピックアップ装置はCD-ROMドライブの中に入れられる。ドライブ内のほかの部品によって空気は加熱され、装置にはファンが付いていないかもしれない。さらにCD-ROMドライブはコンピュータの内部に存在する。光ピックアップ装置は、このような入れ子構造を成す機器の中に配置されるのである(図10)。そして、この構造によって決まるICの周囲温度は、室温よりもかなり高くなる。その温度は、コンピュータ内部にあるさまざまな熱源やファンによって生成される熱や逃げる熱、さらには外部の熱の影響を受ける。結果として、試験環境で25℃としていた周囲温度は、実際のコンピュータ内では40℃、CD-ROMドライブ内では50℃にもなるのである。

図10 周囲温度の入れ子構造
図10 周囲温度の入れ子構造 光ピックアップ装置で用いるICは、CD-ROMドライブ内に配置される。そのCD-ROMドライブは、コンピュータ筐体の中にある。その結果、ICの周囲温度は室温よりもかなり高くなる。

 もし、このコンピュータがエクアドルのような暑い国で、ビルの上位階の高温に達する部屋に置かれるとしたらどうなるだろうか。部品は70℃よりもはるかに高い周囲温度の中で動作しなければならないかもしれない。そのような環境でも仕様を満たし、高温にさらされても製品の寿命が急激に短縮しないことを保証するのがエンジニアの仕事なのだ。

 設計の出来具合を評価したりSPICEシミュレーションを実行したりするのはよいが、開発過程のある時点においては、設計した製品が使用される現実の環境について検討する必要がある。

 まず、回路のプロトタイプを最終製品と同じ形状、サイズ、状態で作成する。その上でさまざまな測定方法を用いて、ここまでに説明したステップに基づいた検証を行う。その際に必要なのは、想定される動作環境をできる限り忠実に再現することである。その上で、まず部品や回路が破損しないことを確認し、次に耐久性を調べ、最後にあらゆる条件下でも動作することを検証する。

 1998年9月2日に起きたスイス航空111便墜落事故を覚えている人はいるだろうか*6)。この事故は機内エンターテインメントシステムの設計の不備により発生した。そのシステムのネットワーク配線からアークが発生し、絶縁ブランケットの可燃カバーが発火して、瞬く間にほかの可燃性物質に引火した。システムを製造したメーカーの設計者が、高度8000フィート(2438m)という旅客機の環境でテストを実施していれば、ディスクドライブのヘッドがディスクに密接する状態になり、システム全体の熱を除去するのが困難なことに気が付いたであろう。TI社のEdwards氏は、「高度1万フィート(3048m)では、システムの対流冷却機能が20%低下する」と指摘する。現実と相関のあるすべての工学的な仮定に対する検証を行わなければ、電気的にも温度的にも、設計した機器が正常に動作することを保証できない。機内システムの設計者らがこの現実に即した検証を怠ったために、スイス航空111便の229名の乗員/乗客は命を落としたのだ。

脚注

※6…Stoller, Gary, "Doomed plane's gaming system exposes holes in FAA oversight," USA Today, Feb 16, 2003.


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る