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デジカメ設計の“次の一手”画素数競争の先には何があるのか(3/4 ページ)

デジタルカメラが極めて広範に普及した結果、消費者は、画素数が多いことだけに重きを置くことはなくなった。それでは、メーカーはどこに差異化要因を求めればよいのか。デジタルカメラの売り上げ減少に歯止めをかけるものは何なのか。

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画像処理のアプローチ

 筆者は、米Analog Devices社の高速信号処理グループで製品ラインディレクタを務めるStuart Boyd氏に、同社が参入しているイメージングビジネスの概観を語ってくれるように依頼した。その結果、得られたのが以下のコメントだ。

 「どのメーカーも、消費者がもっと良い写真を撮れるように一層の努力を払うだろう。その努力の成果は、人の顔を検出する機能を用いたオートフォーカス/自動露光、ボタン1つで起動する内蔵の画像補正機能、パノラマ写真を作るために画像をつなぎ合わせやすくする機能などに見られる。これらは、従来はソフトウエアでのみ可能だったことだ。デジタルカメラ機器の内部では、以前よりはるかに複雑なことが行われているが、そのパフォーマンスを確保できれば、われわれが期待する結果がすぐにでも得られるだろう」。

 EDN誌のWilsonは、Boyd氏の意見に付け加える形で、「デジタルカメラの設計者には、画質に対応するための機能をできるだけ詰め込み、プラットフォームにできるかぎりの後処理機能を詰め込まなくてはならないというプレッシャがかかっている」と述べている。

 次世代のデジタルカメラシステムの設計に最適なのはどのプロセッサベンダーで、どのアーキテクチャなのか。この問いに容易に答えることはできない。米NuCORE Technology社のプロセッサに組み込まれている画像処理用パイプラインはハードウエア領域に存在するが、TI社製DSCプロセッサの汎用DSPコアと画像処理用ペリフェラルは、その反対のソフトウエア側に位置付けられている(いずれの製品も、ARMコアを採用している)。TI社の画像処理アプローチについて、同社デジタルカメラグループのマーケティングマネジャであるKanika Ferrell氏は次のようにコメントしている。

 「1つのコアで複数の機能が実行されるため、画像プロセッサには同時に複数の機能を実行できるだけの十分な能力が必要となる。消費電力を低く抑えるために、メーカーは常に最先端のプロセス技術に移行していくだろう。そして消費電力を抑えながら、より高速でプロセッサを実行するようになるだろう」。

 他方、NVIDIA社のBallew氏は、専用ハードウエアが特に意味をなす分野として、以下の3つを挙げる。

■GPU(グラフィックス処理ユニット)への超高速データパス:極めて高速に画像をキャプチャできるという利点を持つ。センサーモジュールをフル解像度に設定してプレビューできるので、低解像度プレビューからフル解像度キャプチャにセンサーを再設定することによる遅延がない

■リアルタイムJPEGエンコード:高速マルチ撮影に対応できる。センサーがデータを送信するのと同じ速度で画像を圧縮できるため、ユーザーはシャッタリリースを1回クリックするだけで1列に数フレームをキャプチャすることが可能である。この機能を使えば、動きのある被写体や、捕捉しにくい写真もキャプチャできる。リアルタイムJPEGはメモリー要件も緩和してくれるので、製品のコストを低く抑えられる。完全なハードウエアJPEGエンコード/デコードであれば、画像の圧縮/復元に必要な電力を削減できる

■ISP(イメージシグナルプロセッサ):ISPは、オートフォーカス、オートホワイトバランス、自動露光のほか、セピア加工、白黒加工、アンティーク加工、赤目除去、エッジシャープニングなどのさまざまな画像処理機能の要となる。市場に出回っている最新のセンサーにはISPを内蔵していないものが多いが、この機能をグラフィックプロセッサに組み込めば、外部ISPを使用する場合よりコストを抑えつつ、基板面積も節約できる。ISPであれば、ソフトウエアベースのイメージプロセッシングよりも消費電力が少ない

 ISPに関しては、CCDからCMOSセンサーに移行することの1つの利点が、センサーアレイと一緒に画像処理ロジックを組み込めることだと考えれば、CMOSセンサーのサプライヤがNVIDIA社の主張する分割方式に必ずしも同意しないことが想像できる。最新世代のISP内蔵センサーは、JPEGエンコーディング機能にも対応する。東芝米国法人のASSP事業部イメージング/コミュニケーションマーケティンググループでバイスプレジデントを務めるAndrew Burt氏は、以下のように述べている。

 「CMOSイメージセンサーのチップにISPを組み込むべきなのか、それともベースバンドプロセッサに搭載すべきなのかということについては以前から議論されている。多くの機器メーカーは、高度に最適化されたISPを内蔵するCMOSイメージセンサーSoC(system on chip)が望ましいとしている。そうすれば、CMOSイメージセンサーの設計者の知識を活用できるという利点もある。この利点は、解像度が5メガピクセルを超えるようになると重要な意味を持ち始める。しかし、2メガピクセル程度の製品であっても、SoCアプローチであればエンドユーザーに素晴らしい視覚体験を提供できる」。

 現実には、どの画像処理アプローチにも長所と短所がある。選択の基準としては、コスト、パフォーマンス、統合の度合い、消費電力、柔軟性、開発ツールの成熟度、頑強性などを評価するとよいだろう。

 本稿執筆のために筆者が話を聞いたすべての企業は、「今後ますます重要になる機能の1つは、周辺光量が少なくても優れた画質を提供できることだ」と答えている。違う言い方をすれば、デジタルカメラは特定の被写体照明強度に対してかつてないシャッタースピードで動作し、それによって電池を消耗するフラッシュ操作をなくして、画像を安定化するスキームとして機能する必要がある。このような消費者の要求は、センサーの画素ピッチが小さくなるに連れ、各フォトダイオードが一定の時間内に捕捉する光子量が少なくなるため、フォトダイオードの光感度も落ちるという事実と相容れない。

 ISO(国際標準化機構)の規定の通りに画像ノイズが少ない、高度な処理方式を実現することが重要である。なぜなら、ノイズは圧縮効率に直接影響を及ぼすからだ。 JPEGファイルのサイズを小さくすればするほど、フラッシュメモリーカードなどのストレージデバイスに保存できる写真の枚数は増える。例えば、NVIDIA社は、独自開発したJPEGスキームを「Fotopak」という名前で売り出している。

 センサーの進化もある程度貢献している。例えば、東芝のBurt氏は、「集光効率の高いマイクロレンズを作るために、等角マイクロレンズ技術に取り組んでいる。今日の環状マイクロレンズでは、イメージセンサーアレイの画素領域全体をカバーすることができないからだ」と語る。

 しかし、おそらく消費者の「低光量で高画質」という矛盾する期待に応えるには、イメージセンサーの設計に大きな進歩が必要となるだろう。2006年、2007年のCESで、韓国Planet82社は、識別可能ではあるもののかなりぼやけたイメージを、スチルビデオと低フレームレートビデオの両方、白黒とカラーの両方で、周辺光レベルが非常に低い条件下でも撮影できることを実証した。Planet82社のCTO(最高技術責任者)であるHoon Kim博士は次のように述べている。

 「当社の新しいVGAカラーSMPD(single carrier modulation photo detector)は、フラッシュがなくても暗闇の中で写真やビデオを撮ることを可能にした世界初のフルカラー高感度イメージングチップだ。SMPDは、既存のイメージング技術と最新のナノテクノロジを組み合わせ、従来のCMOSセンサーやCCDセンサーの2000倍もの光感度と、50%の小型化を実現している。1つのイメージを作るのに1ピクセル当たり数百万個の光電子が必要となるフォトダイオードベースのCMOS/CCD技術とは異なり、SMPDは1ルクス未満に相当するわずかな光子量に反応する。この光子量は、1m先にあるろうそくからの光と同じレベルだ」。

 Planet82社は、自社開発したナノテクノロジの詳細については堅く口を閉ざしている。

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