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加速する電源回路のデジタル化ミックスドシグナル制御の使いどころを知る(3/3 ページ)

電源回路の制御処理をデジタル化するニーズが高まっている。だが、そのすべてをデジタル化するのは処理速度やコストの面で現実的ではない。アナログ回路とデジタル回路を適切に組み合わせることで、最良の電源回路を実現できる。

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POLコンバータ

 最近では、システムプロセッサやビデオプロセッサなどのために、低電圧で高電流の電源が複数必要とされるようになった。このような用途に適した電源に、POL(point of load)コンバータがある。要求性能の例を挙げると、入力電圧が12V、出力電圧が3.3V、出力電流が20A、高効率の同期式降圧トポロジの適用などとなる。さらに、電圧マージニング機能を含むプログラマブルな出力電圧制御やサイクルごとの完全な電流制限、スイッチング周波数は500kHz程度、各コンバータ間の位相差は180゚、各出力端子ごとの温度保護機能などの項目も必要となる。そのほかに要求されるものとしては、電源起動時のシーケンス化またはトラッキング、プログラマブルなヒステリシス特性を備えた過小/過大入力ロックアウト機能などが挙げられる。

 このようなPOLコンバータの用途には、ECC(enhanced capture and compare)ペリフェラルを備えたマイクロコントローラが適している。このECCペリフェラルを使用すれば、2系統のアナログPWM ICに対して位相が180゚ずれたクロックを出力できる。

 また、アナログPWM ICを用いることの利点は、その重要な特徴の1つであるヒステリシス特性によって過小入力に対するロックアウト条件をプログラマブルに設定できることだ。一般に、適切なヒステリシス特性の設定は、入力インピーダンスが予測できないことから容易に実現できない。しかし、ミックスドシグナル設計ならば、過小入力ロックアウト条件およびヒステリシス特性を、ハードウエアの変更なしにシステム構築の過程で組み込むことが可能である。その方法は、まずアナログPWM ICを用いてデューティサイクルのコントロールおよびサイクルごとの電流制限を行う。次に、デジタル制御系の負担を軽減する。つまり、アナログ手法によるデューティサイクルのコントロールとデジタル手法による出力電圧のプログラム化とを組み合わせるのである。これによって高いスイッチング周波数のプログラマブル電源システムが現実のものになる。

 図4に2系統の高速アナログPWM ICをマイクロコントローラにより制御するPOLコンバータの構成例を示す。スイッチング周波数を500kHzにすることで、回路の実装面積が縮小できるとともに低コスト化も可能になる。図4の回路は、出力電流が20A、出力電圧が0.8V〜3.3V、入力電圧が12Vの場合の例である。

図4 POLコンバータの構成例
図4 POLコンバータの構成例 2系統の高速なアナログPWMICをマイクロコントローラにより制御する。

 この回路では、2系統のアナログPWM ICのそれぞれに対し位相が180゚異なるクロックをマイクロコントローラから供給している。両クロックともデューティサイクルが50%であり、各コンバータの最大オン時間はクロック周期の50%。デューティサイクルの最大値を50%に制限することにより、1個の電流検出トランスを両方のコンバータの出力段で共用できる(図5)。

 巻線比が60:1の電流検出トランスは、両方のDC-DCコンバータに対する電流検出器である。サイクルごとの電流制限機能は、外部負荷の異常時に電源システムを保護する機能として働く。また、各出力系統の過熱保護機能としてデジタル的な温度スイッチを備える。この温度スイッチは各系統ごとに独立して働くこととなる。温度スイッチ用の温度センサーは最も発熱しやすい部品の近くに取り付ける。

 過大または過小の入力電圧に対しては、マイクロコントローラに内蔵されたA-Dコンバータにより入力電圧が検知され、その値と事前設定された閾(しきい)値を比較した結果から保護機能が働く。ヒステリシス特性がプログラマブルになっているため、エンドユーザーはこの2系統のコンバータのソースインピーダンスを用途に合わせて調整することができる。出力電圧はマイクロコントローラのソフトウエアが生成する2種の基準信号を利用してプログラマブルに制御される。このデジタル基準信号に含まれるリップルは出力に影響しないよう2次フィルタによって除去する。

図5 電流の検出方法
図5 電流の検出方法 デューティサイクルを最大50%に制限することにより、2系統の出力それぞれの電流を1個のトランスにより検出することが可能である。

デジタルとアナログの使いどころ

 ここまでに2つの応用例について述べたが、いずれにおいてもアナログとデジタルをどのように分割するかという点が重要な判断になる。

 いずれの例も何らかのデジタル制御を必要としている。とはいえ、高い周波数でスイッチングする信号のデューティサイクルを完全なデジタル手法により制御するのは非現実的だ。おそらく、サイズおよびコストの要求条件に応えられないだろう。つまり、アナログとデジタルの境界を決めなければならないということだ。単純な構成の電源回路の場合、PWM回路がこの境界に位置付けられることになる。

 また、ミックスドシグナル設計を適用した電源では、保護機能の動作速度が問題となる。この問題の解決にはアナログPWM ICを使用するとよい。それによって、制限電流の検知から12ns後といったオーダーで出力を制御できる。

 さらに、多くのマイクロコントローラにはアナログ機能がいくつも含まれている。それらを保護機能に利用できる。例えば、本稿で例にとった双方向給電DC-DCコンバータでは、マイクロコントローラに内蔵されたコンパレータを利用することによって、過大出力電圧の検知からスイッチングによる遮断までの時間を200ns以内で実現している。つまり、アナログとデジタルを適切に使えば、より高機能で低コストな電源回路を実現できるということだ。

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