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RFノイズの侵入を阻め!イミュニティを高める設計技法(2/5 ページ)

携帯電話は電波をやりとりする代表的なシステムである。これが電磁波ノイズの原因となることは容易に想像がつく。しかし、実際にはインバータ方式の蛍光灯といった機器ですら、ほかの電子機器を誤動作させる電磁波ノイズの発生源となり得る。本稿では、RFノイズによって電子機器にどのような症状が起きるのか、またノイズ耐性(イミュニティ)を高める手法はどのようなものになるのかを解説する。

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基本は「ノイズ源をなくす」こと

 RFイミュニティを得る方法の1つは、その根本原因であるRFノイズの放射を止めることだ。この観点は、筆者がある設計者から聞いた話から学んだことである。その設計者は、10年ほど前、自動車分野のカーオーディオのラジオチューナにおいて学んだことを話してくれた(別掲記事『RFIによる障害事例とその対策』を参照)。その経験から、その設計者はラジオチューナにRFノイズが侵入することを防ぐのは困難で、発生源からのRFノイズを低減するのが有効であることを知った。その設計者が取った具体策は、RFノイズの発生源である交流発電機にコンデンサを挿入することだった。それにより、交流発電機におけるダイオード整流回路で発生するスパイクとループ電流が抑えられ、ノイズが低減できたのである*2)

 こうした手法に加えてプリント基板のレイアウトをコンパクトに設計すれば、FCCが定めるEMI規制を満たすようにRFノイズを低減できるだろう。この手法は、問題となるノイズの発生源を1つ1つ取り除くという手法に応用できる。

 ここで具体的な回路におけるRFI対策の例として、降圧型スイッチングDC-DCコンバータのケースを見てみる(図1)。この回路では、ローサイドのMOSFETであるQ1のドレイン端子がスイッチングノードに接続され、ほぼ電源電圧まで上昇する。そして、このMOSFET用のヒートシンクは、そのMOSFET ICの内部でドレイン端子に接続されている。スイッチングノードの電圧レベルがスイッチング周波数で変化することから、ヒートシンクから高いレベルのRFノイズが放射されるのではないかと考える人もいるかもしれない。しかし、その考えは必ずしも正しくない。RFノイズは電流が存在しなければ放射されないからである。巧みな設計者ならば、電流が流れるルートがヒートシンクを通らないように設計する。さらに、ヒートシンク下部のいわゆるベタパターンを放熱用途に使用することによって、RFノイズの低減と最大の放熱効果を同時に達成することを目指すのである。

図1 降圧型スイッチングDC-DCコンバータのRFノイズ対策
図1 降圧型スイッチングDC-DCコンバータのRFノイズ対策 広い面積の銅はくパターンは、ヒートシンクとしての効果は大きいが、RFIの原因ともなり得る。ただし、この銅はくパターンに電流が流れなければ、RFノイズの放射源になることはない。

RFIによる障害事例とその対策

 ここでは、筆者が設計者などから聞いた、RFIによって引き起こされた種々の障害事例と対策例を紹介する。

・製造装置の再起動

 ある半導体製造装置メーカーは、自社製品がRFIに起因する障害を度々起こすという問題を抱えていた。問題の装置はRFイミュニティが低く、納入先の米Intel社では、その装置の保守担当者に対し、生産現場における無線通信機器の使用を禁止しているほどだったという。この禁止措置が取られた理由は、ある担当者がその装置の近くで無線通信機器を操作したところ、突然その装置が再起動されてしまい、その装置でそのとき扱っていたプロセッサICのロット全体が不良品になってしまったためである。

 筆者が話を聞いた設計者は、その装置メーカーから相談を受けて問題の装置を調査した。その結果、電源リターンの配線が装置のフレームの数カ所に接続されているという問題が見つかった。装置のフレームに接続すべきなのは、電源リターンではなく、正しくはシールドである。電源リターンとシールドの2つのラインを直流的に接続した場合、家庭用電源の中性点とグラウンドを接続した場合と同様に、各ラインが本来の働きをしなくなるのである。例えば、シールドをフローティングにした状態で電源リターンを筺体に接続すると、グラウンドループが形成される。従って、シールドは筐体に接続し、電源リターンは筐体に1点で接続すべきなのだ。なお、このシールドの接続にはコモンモードノイズが筺体から出力されたり、同ノイズが筐体に進入しないようにインダクタを介在させたりすることが望ましい。このような接続によって、装置設置時のトラブルが回避できるのである。

 上記内容を装置メーカーに指摘したが、設計部門の責任者は図面の書き直しや筺体の追加加工などを要することを理由に設計の変更を行わなかったという。理解力の不足と大企業に特有な動きの鈍さが原因となって、そのメーカーは長年にわたってRFノイズに悩まされたようだ。

・「シールド」には要注意

 次に紹介するのは、あるEMIコンサルタントが上記とは別の半導体製造装置メーカーの機器に関して相談された事例である。

 そのメーカーは、ある半導体製造装置のCEマークを取得すべく、試験機関であるドイツTÜV(technische Überwachungs verein)においてEMC(electro magnetic compatibility:電磁環境適合性)試験を行った。その際、その装置が備えるRFイミュニティの弱さが顕在化した。

 最初に問題が見つかったのは、ESD試験においてである。具体的には、コントロール画面にホワイトノイズやスノーノイズが現れた。この現象は望ましいものではないが、「コントロール画面に表示された内容をオペレータは判読できる」との説明により、試験管には、故障ではないので問題にはならないということで納得してもらえた。

 次に、外部から放射無線周波電磁界を印加するRFイミュニティ試験が行われた。その結果、設計者が真っ青になるような事態が発生してしまった。その事態とは、ウェーハの昇降機が搬送中のウェーハを粉々に破砕し、さらに装置が再起動するというものだった。もちろん、このような症状をTÜVの試験官が許すはずもなく試験はパスしなかった。

 この異常の原因を調査した結果、本来は危険を回避する目的で動作するモーターが異常動作を引き起こしたためだということがわかった。その異常動作の原因は、ウェーハ位置の検出に用いていたあるベンダーのセンサーの誤動作に起因するものだと判断された。

 対策としてセンサーの信号線にフェライトビーズを取り付けた。その結果、機器が再起動するような異常は発生しなくなった。しかし、ウェーハが割れてしまう問題はそれでは解決できなかったという。

 設計者は、問題の責任をセンサーにかぶせようとTÜVの試験官に状況を説明した。すると、試験官からセンサーとコンピュータの接続について質問された。その回答として、設計者は「センサーの信号線は完全にシールドしてあり、そのシールドをコンピュータの筺体に接続している」と説明した。それを受けた試験官は、さらに「信号ケーブルの途中にコネクタを使用していないか」との問いを投げかけた。

 実際、この製造装置では、途中に中継コネクタを使用しており、それによって問題のセンサーから引き出された信号線とコンピュータ用のケーブルを接続していた。そのコネクタは、また別のベンダーが供給しているミニチュアタイプの4端子角型コネクタであり、4本の端子はそれぞれ電源とグラウンド、センサー信号、シールドに接続されていた。このシールドの存在から、RFノイズに対しては問題がないように思える。しかし、問題の原因はまさにそのシールドにあった。中継コネクタを接続するために、ケーブル端から約2インチ(約5cm)の範囲でシールドがはがされており、それがルーズに束ねられた状態で端子に接続されていたのだ。また、使用していたコネクタのハウジングはプラスチック製であるため、シールド効果がなかった。

 TÜVの試験官はそれを確認した上で、「この部分はRF帯の信号に対しては開放回路として見える」と説明した。さらに「シールドがはがされた部分とコネクタにはシールドがない。それらを合わせた約4インチ(約10cm)の部分は、RFノイズを受信するに十分な長さがある」との指摘を行った。つまり、中継コネクタを含めた約4インチの部分に十分なシールドが施されていなかったのである。この指摘を受けて、設計者らは中継コネクタを金属ハウジングを備えた9端子D-sub(D-subminiature)コネクタに変更した。その結果、製品はCEの適合性試験に合格できたという。

・車の至る所から侵入するRFノイズ

 30年ほど前に自動車関連の技術者として働いていた設計者の話を紹介する。

 RFイミュニティに関するいくつかの問題が重なり、会社にとってそれが大きな頭痛の種になっていた。その問題の1つは、自動車のイグニッション(点火回路)系が強い電磁波を放出していること。2つ目は、フェンダ(タイヤの上の覆い部分)が金属製ではなくプラスティック製になったこと。3つ目は、主要な輸出先であるカナダにおいて厳格なEMC規格が定められたこと。4つ目が、EMI/RFIを放射する電子機器が多数搭載されるようになったことである。

 その設計者は、EMI/RFIの放射を減少させるために、ボンネットなど車体外部のカバー全体をストラップ線でグラウンドに接続してシールドするようなことも試みた。多くの試みは失敗だったが、そのようにしてRFノイズに対する経験を積み重ねたのである。

 米Ford Motor社の技術者であるEd Winstead氏は、「金属製ボンネットの1カ所をグラウンドに接続すると、ボンネットのサイズよりも長い波長の信号を排除することができる。それに対し、数百メガヘルツを超えるような周波数の信号に対しては、ボンネットはないに等しい」と指摘する。つまり、ボンネットでは高周波信号に対するシールド効果は得られないのだ。

 また、同氏は、「RFイミュニティに関しては、ノイズの侵入を防ぐために何重ものシールドを重ねることよりも重要なことがある。それはノイズの放射源をなくすことだ」と説明した。



脚注

※2…Rako, Paul, "Circulating currents: The warnings are out," EDN, Sept 28, 2007, p.50. http://www.edn.com/article/CA6372822


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