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絶縁素子の選択肢豊富に、特性や使い勝手が向上電子部品 絶縁素子(4/4 ページ)

電気的に絶縁した回路の間で信号をやりとりする際に欠かせない絶縁素子。フォトカプラの独壇場が何十年にもわたって続いていた絶縁素子市場に、近年になって新型素子が相次いで登場した。これら新型素子では、いずれもフォトカプラが抱えていた課題を解決したという。一方、フォトカプラ・ベンダーも、主な用途である産業機器やOA機器、デジタル家電の市場拡大を商機とみて、新製品の投入を活発化させている。選択肢が広がる絶縁素子それぞれの利害得失を把握すれば、用途に合わせた活用が可能になる。

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差異化を進めるフォトカプラ

 しかしフォトカプラには、長い歴史の中で獲得した膨大なユーザーがいる。その数は、歴史の浅い新型素子に比べて圧倒的に多い。そこでフォトカプラ・ベンダー各社は既存ユーザーの囲い込みを狙って、経年劣化やデータ伝送速度、価格といった基本的な特性を継続的に改善する取り組みに加えて、特徴的な機能を搭載したり、使い勝手を高めたりした品種を投入している。

 Avago Technologies社は、特徴的な品種として、IGBT素子のゲート駆動回路を搭載したフォトカプラ「HCP-316J」を挙げる。ゲート駆動回路を搭載した絶縁素子そのものは、フォトカプラと新型素子ともに競合他社も供給している。同社の品種の特徴は、IGBT素子のコレクタ-エミッタ間の不飽和(過電流)状態を検出し、自動的にゲートを遮断する保護機能(DESAT機能と呼ぶ)を備えていることだ。「従来はユーザーが個別素子を使って構成していた保護回路が不要になるため、好評を得ている」(アバゴ・テクノロジーの高田氏)。

 シャープは、実装面積が4.4mm×2.6mm、厚みが最大2.0mmで「業界最薄だ」と主張するフォトカプラ「PC 3HU7NYIP0F」を特徴的な品種として挙げる。ACアダプタなどへの内蔵を想定した(図9)。「通常ACアダプタでは、基板の表面にピン挿入実装型の大型部品を搭載し、裏面に表面実装型の小型部品を載せる。従来は裏面に搭載する部品のうち、フォトカプラの厚みが最も大きく、ACアダプタ全体の薄型化を阻む要因になっていた」(同社の藤田氏)。動作温度範囲が−55〜110℃と広いことも特徴だ。絶縁耐圧は3.75kVrms。薄型化しつつも0.4mmの内部絶縁距離を確保し、UL規格やCSA規格、VDE規格などの安全規格に対応する。

図9
図9 ACアダプタ断面の模式図 基板の裏面に搭載する部品のうち、従来はフォトカプラが最も厚かった。フォトカプラの厚みを最大2.0mmまで削減したことで、ACアダプタ全体の薄型化が可能になる。出典:シャープ(クリックで画像を拡大)

 さらに同社は、受光素子と信号処理回路を1枚のシリコン・チップに集積化したフォトIC(同社は「OPIC(Optical IC)」と呼ぶ)を2次側に使った品種も拡充する方針だ。「家電などに向けて、従来マイコンが担っていた機能をフォトICに取り込めないか、市場調査を進めているところだ」(同氏)。

信号も電源も絶縁できる

 各社が独自の機能を打ち出すのは、フォトカプラ・ベンダーだけではない。新型素子のベンダー各社も、互いに差異化を図るべく、特徴的な機能を訴求する。

 Analog Devices社のiCouplerは、絶縁された端子間でデジタル信号のみならず、電力も伝送できることを特徴とする。すなわち絶縁型DC-DCコンバータを内蔵した絶縁素子を用意した。通常は絶縁した回路の両方に個別の電源を搭載したり、一方の回路に絶縁型DC-DCコンバータを搭載してもう一方の回路に電力を供給する必要があるのだが、これらが不要になる。実装面積の削減や、設計期間の短縮、部品コストの低減につながるという(図10)。

図10
図10 電力伝送機能で面積やコストを低減 絶縁素子の入力側(1次側)から出力側(2次側)にデジタル信号と電力の両方を供給する際に必要な部品点数と基板専有面積、部品コストを比較した。絶縁型DC-DCコンバータを内蔵した磁気結合方式の新型絶縁素子「ADuM5240」を使えば、フォトカプラ「HCPL-0631」を利用する場合に比べて、専有面積を80%程度も削減しつつ、部品コストを半分以下に抑えられるという。なお部品コストについては、各部品について2006年3月における1000個購入時の単価を基に計算した。出典:米Analog Devices社(クリックで画像を拡大)

 電力伝送を実現できるのは、コイルを使って絶縁を確保しているからである。容量結合方式や、磁気結合方式でも2次側にGMRセンサーを使う競合他社品では、電力の伝送は不可能だ。

 データ伝送チャネルと絶縁型DC-DCコンバータを内蔵した品種のほか、ゲート駆動回路と絶縁型DC-DCコンバータを内蔵した品種も用意した。iCouplerのうちこうした電力伝送機能を備える品種を、同社は特に「isoPower」と呼ぶ。品種によって異なるが、現在のところ最大で300mWの電力を2次側に供給できる。

 同社は今後、電力変換効率を高めることで、2次側に供給可能な電力をさらに高める計画だ。このほか特定用途向けに、「当社が保有するさまざまなアナログIPをiCouplerと組み合わせて、『絶縁が可能なシステムIC』を供給していく」(アナログ・デバイセズの高木氏)という。

シリアル伝送で部品点数削減

 Texas Instruments社は、デジタル・アイソレータの150Mビット/秒と高いデータ伝送速度を生かした使い方を提案する。同社が供給するシリアライザICを前段に配置して、パラレル形式のデジタル信号をシリアル形式に変換してから、デジタル・アイソレータを介して絶縁した回路に受け渡す。

 例えば、24Vのデジタル信号に対応した入力チャネルを8チャネル備えた同社のシリアライザIC「SN65HVS880」をデジタル・アイソレータと組み合わせれば、8個のセンサーから出力された各10Mビット/秒のデータをまとめて、80Mビット/秒のシリアル信号に変換してから、絶縁された制御回路に送れる。

絶縁素子のデパート目指す

 新型素子を手掛けるベンダーの中で、最も積極的な製品計画を示すのがAvago Technologies社である。前述の通り、同社はすでにフォトカプラのほか、NVE社からOEM供給を受けた磁気結合方式の新型素子を市場に供給中である。ここにさらに、方式が異なる複数の新型素子を追加して、「絶縁素子の『総合デパート』を目指す」(アバゴ・テクノロジーの高田氏)というのだ。

 まず2008年8月に、容量結合方式を採用した独自の新型素子を発売する。「基礎絶縁よりも絶縁耐圧の要求が低い、いわゆる機能絶縁のみに対応した絶縁素子を、家電機器に向けて安価に提供することを狙う」(同氏)。具体的には、PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)テレビを視野に入れている。

 さらに、NVE社とは別に、GMRセンサーを利用しない磁気結合方式による独自の新型素子の開発も進めているという。現時点では詳細を明らかにしていないが、Analog Devices社のiCouplerとも異なる技術だという。既存の磁気結合方式に比べて、絶縁耐圧を高められることが特徴だとする。投入時期については、「あと1年はかかりそうだ」(同氏)とした。

【初出:EE Times Japan 2008年5月号「Cover Story」、pp.38〜47掲載。本記事の内容は執筆時の情報に基づいており、現在とは異なる場合があります。また、著者の所属は当時のものです】

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