車載エレクトロニクスの消費電力を削減せよ!(2/3 ページ)
自動車向けの電子部品や電子制御機器などは、電力管理システムによって、バッテリを余計に消耗したり、ガソリン燃料を浪費したりすることを防ぐように設計されている。今や自動車の多くには車内ネットワークが導入され、電子サブシステムのスリープ時の電力要件もより厳しくなってきている。設計者には、車載アクセサリやサブシステムの消費電力をできるだけ低減することが求められる。さらに、次世代の電気自動車やプラグイン電気自動車などでは、こうした電子サブシステムの低消費電力化がますます重要な課題となる。
高輝度LEDヘッドライト
自動車で最も電力負荷が大きいのはHVAC(Heating/Ventilation/Air-Condition:暖房/換気/空調)システムであるが、それに次いで電力負荷が大きいのがヘッドライトである。高輝度LEDは消費電力が少なく、持久性に優れ、寿命も長いため、街灯システムなどに使用されている。その特徴から、今後数年のうちに、自動車の内部照明や外部照明などとして標準的に使用されることが予想される。すでに一部の自動車では、テールライトや昼間点灯用ライトとして高輝度LEDが使われ始めている。米General Motors(GM)社は、2008年夏から、同社が展開している高級車ブランド「Cadillac(キャデラック)」の「Escalade Platinum」のヘッドライトにLEDを使用すると発表している(写真1)。
LEDヘッドライトは、電力効率が高いことに加えて、運転者が照らしたい個所を照らすといったことにも容易に対応できるという特徴を持つ。既存のハイエンドの自動車などには、ハンドルを切ったときに電気モーターで駆動されるヘッドライトが搭載されており、方向転換時に進行する走行路を照らすよう設計されている。これに対し、あらかじめ走行路を照らすためのLEDを設置して、必要に応じてLEDを点灯/消灯することで、信頼性の低い追跡モーターなどが不要になる。
ところで、LEDが車内照明などに広く採用されるためには、コストが大きな問題となる。Cadillacと同じように、「Chevrolet(シボレー)」などにもLED照明が採用されるためには、高輝度LEDの生産量を拡大させて価格を引き下げる必要がある。また、温度の変化がLEDの光出力に大きな影響を与えることも問題である。冬と夏とでは温度の差が非常に大きく、LEDの光出力が50%以上も変動してしまうといったことが生じる。
LEDヘッドライトには、洗練された電力管理ICが必要となる。Freescale社のAnderson氏は、「自動車のヘッドライトでは、LEDを1個ずつ駆動するのではなく、複数のLEDで構成された列を駆動する。走行状態における自動車のバッテリ電圧は8V〜16Vの範囲で変動するが、LEDの輝度は一定に保つ必要がある。そのため、入力が変動しても出力を一定にするスイッチング電源が必要となる。また、LED自体の輝度はすべてが等しいわけではなく、時間の経過とともに劣化もする。そのため、光の出力を一定に保つためにはLEDを個々に制御することが必要だ」と説明する。
スイッチングレギュレータ
自動車においてスイッチングレギュレータを必要としているのは、LEDヘッドライトだけではない。効率の低い従来のリニアレギュレータとは異なり、効率が高くて出力状態が可変のスイッチングレギュレータは、CANのバス型ネットワークによって制御されるすべてのモジュールに恩恵を与える。自動車メーカーは、CANで接続するモジュールの電力要件を公表していないが、米Linear Technology社で電力製品グループ担当製品マーケティングマネジャを務めるTony Richardson氏は、「プロセッサに電力を供給するレギュレータは、スリープ時の消費電流が100μA未満でなければならないというメーカー間の合意がある」と語る。そのため、リニアレギュレータではなくスイッチングレギュレータが求められる。この点については、別掲記事『車載向けレギュレータの要件』を参照されたい。
ほぼすべての電子サブシステムは、プロセッサを搭載している。コアベースのプロセッサの中には、電圧、周波数、あるいはその両方を低下させることによってスリープ時の消費電力を節減するものがある*2)。例えば、米Texas Instruments社の「TMS470」ファミリはARMベースの製品であり、動的電圧スケーリングを採用している。これにより、通常では1.2Vの動作電圧をスリープ時には1.0Vまで低下させることができる。プロセッサを完全に停止させない理由は、システムはスリープ状態にあっても、一部の簡単なコマンドに対して(応答速度が遅くてもよいので)応答可能な状態になければならないためである。
上述したようなプロセッサベースのICの中には、レギュレータ機能を備えているものがある。外部の電源から約13Vの電圧(バッテリ電圧)を得て、ICで用いる2V〜3Vの電圧を生成するのだ。
レギュレータ機能は、次世代の自動車設計においてはさらに厳しい仕様を満たすことが求められると見られる。レギュレータチップのスリープ時における要件を満たすためには、現在100μAほどの静止電流を30μA〜50μAまで低下させる必要がある。
また、システム起動コマンドについては、これまで以上にCANバスとの連携を強化する必要がある。自動車市場においては、1年もたたないうちに、CANトランシーバと電力管理/調整チップを統合した製品が登場してくることが予想される。そうした電力管理ICでは、通信トランシーバ部分がスイッチング回路からのEMI(電磁波干渉)の影響を受けないようにするといったことが必要になる。こうした新たなチップには、自動車メーカーやモジュール設計者の要求を満たす厳しい設計基準が課されることになる。
車載向けレギュレータの要件
最新の自動車には、より複雑な電子システムが搭載されるようになってきている。一方で、あらゆる電子部品にとって車載環境は非常に過酷なものである。動作電圧の範囲が広く、過渡電圧が大きく、温度変化も激しい。こうした環境のすべてが電子部品の性能を悪化させる。加えて、車載向けの電子部品に求められる性能はますます高くなってきている。
1つのシステムでも、使用される個所によっては異なる複数の電源電圧を用意する必要がある。一般的なナビゲーションシステムでは、8.5V、5V、3.3V、2.5V、1.5V、1.2Vというように、6種以上の電源を必要とする場合がある。また、車載コンポーネントの数が増加するに連れて、それらの占有面積はより小さくすることが求められる。限られた面積の中では温度要件も問題となるため、レギュレータの効率を上げることが特に重要になってくる。そのため、システム電圧の生成に使用されてきたリニアレギュレータなどは、出力電圧が低くて電流レベルが数百ミリアンペア程度であるものでも、もはや実用的ではなくなってきている。
現在では、熱の問題を解決するために、リニアレギュレータに代わってスイッチングレギュレータが主に使用されている。スイッチングレギュレータは複雑であり、EMIの問題があるものの、効率が高く占有面積が小さいといった利点があるためである。
車載向けスイッチングレギュレータには、入力電圧範囲が大きい、広い負荷範囲に対して効率が良い、通常動作/スタンバイ/シャットダウン時の静止電流が少ない、熱抵抗が小さい、電圧/電流ノイズやEMI放射が少ないといったことが求められる。
3V〜60Vという広い入力電圧範囲で動作するスイッチングレギュレータであれば、14Vまたは42Vで動作する車載システムに利用することができる。定格電圧が60Vであれば、36V〜40Vまで電圧が上昇することのある14Vのシステムにおいても十分なマージンがあり、将来的には42Vのシステムにも使用することが可能である。これにより、14Vでのシステム設計を大きく変更することなく、42Vのシステム向けに容易にアップグレードすることができる。
広い負荷範囲に対して効率が高いことは、多くの車載システムにおいて非常に重要である。例えば、5V出力で負荷範囲が10mA〜1.2Aの場合には、約85%の電力変換効率が期待される。電流が多い場合は、内部スイッチのオン抵抗が十分に低くなる必要がある。一般的には電流が1Aの条件で0.2Ω程度である。
自動車のアプリケーションの多くは、駐車時であっても連続的な電力供給を必要とする。その例としては、遠隔キーレスエントリ、GPS(Global Positioning System)位置追跡システム、警報システムなどがある。こうしたアプリケーションで最も重要なのは、静止電流が少ないことである。レギュレータは、出力電流が約100mA未満になるまでは通常の連続スイッチングモードで動作し、出力電流がそれ以下になったらスイッチング動作を緩めるといった形にすべきである。
負荷電流が少ないときには、3.3V〜12V出力のスイッチングレギュレータで静止電流が100μA未満になるよう自動的に省電力モードに移行することが求められる。その際、内部の基準回路とパワーグッド(power good)回路はアクティブな状態を保ち、出力電圧を監視することになる。なお、シャットダウン時には静止電流は1μA未満でなければならない。
接合部とケース間の熱抵抗は低いことが望ましい。放熱板を備えるチップであれば、プリント配線板を介してチップの熱を放散することができる。一般的な内部電源プレーン付きの4層プリント配線板は、40℃/W近くの熱抵抗を実現可能である。周囲温度が高く、金属筐体への熱伝導性が高い用途では、接合部とケース間の一般的な熱抵抗値である10℃/Wに近い熱抵抗値を実現することができ、有効な動作温度範囲を広げることができる。
スイッチングレギュレータはスイッチングノイズが発生するという欠点を持つが、効率はリニアレギュレータよりもずっと高い。ノイズやEMIの影響を受けやすいアプリケーションでは、スイッチングレギュレータの動作の詳細を予測することにより、ノイズやEMIへの対策が可能になる。通常動作時には一定の周波数でスイッチングするスイッチングレギュレータで、スイッチングエッジが明確に予測可能であり、オーバーシュートや高周波リンギングがないならば、EMIは低減される。パッケージが小さく、動作周波数が高ければ、コンパクトで密度の高い基板レイアウトが可能になり、またEMI放射を低減することができる。さらにESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)の小さいセラミックコンデンサを用いることができるならば、システムのノイズ源となる入力電圧リップルと出力電圧リップルの両方を低減することが可能になる。
脚注
※2…Chew, Bill, "Dynamic voltage scaling conserves portable power," EDN, Jan 10, 2002, p.65
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