車載エレクトロニクスの消費電力を削減せよ!(3/3 ページ)
自動車向けの電子部品や電子制御機器などは、電力管理システムによって、バッテリを余計に消耗したり、ガソリン燃料を浪費したりすることを防ぐように設計されている。今や自動車の多くには車内ネットワークが導入され、電子サブシステムのスリープ時の電力要件もより厳しくなってきている。設計者には、車載アクセサリやサブシステムの消費電力をできるだけ低減することが求められる。さらに、次世代の電気自動車やプラグイン電気自動車などでは、こうした電子サブシステムの低消費電力化がますます重要な課題となる。
電子制御で燃費を向上
電子制御機能が自動車に搭載されるようになることで、電力効率以外に燃費の向上も期待できる。電気モーターで駆動するコンプレッサは、従来の機械式のサブシステムと比べて、より多くの機能を低燃費で実行することが可能である。空調用のベルト駆動式コンプレッサがその例である。同様に電気モーターで駆動する可変アシスト式パワーステアリングは、ベルト駆動の油圧システムによくある損失を最大0.5mpg(mile per gallon。1mpgは約0.425km/l)低減して燃費を向上させることができる。
米Ford Motor社は、将来的に6速自動変速機能を同社自動車製品に標準装備とすることを発表している。電子的に変速を行うこの変速機は、現行のオートマチックまたはマニュアル変速機よりも燃料効率を高くできると期待されている。
オルタネータがバッテリを充電する機構にも消費電力を低減できる部分がある。空調や暖房、照明を必要としない気候の良い日であれば、自動車が必要とする電力は少なく、オルタネータにかかる負荷も小さい。しかし、ほとんどの自動車では、オルタネータはバッテリを充電するために常に発電している。例えば、雪の降る冬の夜で暖房や照明がついているときに負荷が最大になるように設定されている。負荷によって速度を変化させる効率の良いオルタネータを使用することで、電力を低減することが可能になる。
次世代電気自動車への対応
バッテリのみのモードで走行するEV(Electric Vehicles:電気自動車)やPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicles:プラグインハイブリッド電気自動車)では、消費電力が極めて少ない電子サブシステムが必要となる*3)。GM社のエンジニアリング担当バイスプレジデントであるBob Lutz氏は以前、ウィンドウワイパーなどを含む、PHEV「Chevy Volt」向けの電子アクセサリの電力効率の重要性について語っていた。バッテリの電力を消費するすべてのサブシステムは、バッテリのみのモードで走行するVoltの走行距離(現時点では約40マイル[64.4km])を縮めることになるからである*4)。
米Tesla Motors社は、ハイエンドのリチウムイオン電池で駆動するEVを開発している。そのEVは、240マイル(約386km)の走行距離を実現している。従来の自動車と同様、EVにおいても車内の冷房が、最大の負荷となるアクセサリである。Tesla社でシステムおよびインテグレーション担当シニアメカニカルエンジニアを務めるDan Adams氏によると、「車内の冷房で約2kWの電力が消費される」という。同氏はまた、「それに次いで消費電力が多いのは車内の暖房だが、ICE(Internal Combustion Engine)を搭載した自動車では、エンジンを冷却する際に放出されるエネルギで暖房が行える。そのため、暖房の消費電力はゼロに抑えられる」と述べる。EVの電力網は効率が高いため、暖房には少し時間を要すものの、廃熱となる電力はガソリンエンジンの場合と比べてかなり少ない。ただし、通常3kWほどの電力を必要とする車内暖房はバッテリのエネルギを大きく消費する。Tesla社のようなEVメーカーは、熱の局所化を図るためのシート暖房、汎用的な車内暖房向けのPTC(Positive Temperature Coefficient)ヒーターなど、車内暖房の新たな手法の開発を進めている。
究極の省エネは「乗らない」こと?
暖房やラジオなどのアクセサリを稼働させることが、走行距離にどれほどの影響を与えるのだろうか。Tesla社の車載電気部品担当リリースエンジニアであるScott Brenneman氏は、「一般的に、走行距離への影響は簡単な計算によって求めることができる」と述べる。同氏は、「ほかの負荷も既知だとして、ある負荷が50kWhのバッテリパックに与える影響を概算的に定量化することができる。そうした概算の結果からは、HVACなど一部を除くほとんどの電気サブシステムによる走行距離への影響は小さいと考えられる。例えば走行距離を240マイル、平均走行速度を時速30マイル(約48km/h)、走行時間を8時間とすると、1kWの負荷を走行時間の半分の時間稼働すれば4kWhが消費される。つまり走行距離に換算すると、4/50×100=8%に相当する分が消費される。暖房や冷房で1kWという値は大きすぎるので、これは極端な例だ。12V電源の場合、車外照明などの典型的な負荷の消費電力は、この例では0.2kW未満となる。これによる走行距離の短縮は約1.5%になる」と説明する。
Adams氏は、汎用自動車における電力効率の比較的小さな部分を節減するための取り組みについて独自の見解を示している。「車で移動し、かつ車内の快適性を求めようとすると、単に人を移動させるのに要するエネルギをはるかに超えたエネルギが必要になる。自転車で移動すれば1馬力未満で済むのに対して、時速20マイル(約32km/h)で走行する自動車では10kW以上の電力が必要になる。冷房を利用すると、さらに2.5kWの電力が必要になる」(同氏)と自動車の欠点を指摘する。とはいえ、Adams氏は自転車愛好家であるため、このような意見になるのかもしれない。
脚注
※3…Conner, Margery, "Lithium-ion batteries power next generation of electric vehicles," EDN, July 5, 2007, p.19
※4…"Chevy Volt will Need Special Low Power Windshield Wipers and Audio System", http://gm-volt.com/2008/01/29/chevy-volt-will-need-special-low-power-windshield-wipers-and-audio-system/
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