磁気センサー活用への第一歩:用途に最適な製品を選択するために(1/5 ページ)
「磁気センサー」には、いくつもの実現方式があり、それぞれに長所/短所が存在する。呼び方だけ見ても、ガウスメーター、テスラメーター、磁束計、磁力計などさまざまだ。しかも、数米ドルから数万米ドルまでと、価格帯の幅も広い。では、多くの選択肢の中から、用途に最適な製品を的確に選択するには何を理解しておけばよいのか。本稿では、こうした観点から、磁気センサーに関する基本的な情報を整理して提供する。
磁気測定では何を測るのか
磁気の測定は大昔から行われている。最も古くは、古代に航海用としてロードストーン(強く磁化された磁鉄鋼、すなわち天然の磁石)を利用して地磁気方位の測定が行われていた。今日では、磁気の測定は実にさまざまな用途に活用されている。
磁気の測定では、一般には磁束密度(Magnetic Flux Density)が対象となる。これは工学分野では「B」という記号で表現される。ただし、物理学の分野などでは、Bは磁場を意味する記号として使用されることもあるので注意を要する。この点について、米国の物理学者でノーベル賞受賞者であるMelvin Schwartz博士は、「Bを磁束密度(磁気誘導とも呼ばれる)、『H』を磁場(磁界の強度)と呼ぶ習慣があるが、こうした呼び方は物理学の分野では使われない。物理学では、Bを基本的な現象である磁場と定義し、Hをそこからの派生的概念であると定義している」と説明する*1)。
このことに関連して、各種診断機器/実験機器を扱う米AlphaLab社のオーナーであるBill Lee博士は、「確かに磁力計(Magnetometer)では磁界と磁束の違いを区別することはできない。具体例を挙げると、コイルに流れる電流によって生成される磁界と、コイルを流れる電流ならびにコイルのコア材(鉄など)の内部に流れる電流によって生成される磁束とを磁力計で分離して測定できるわけではない」と指摘する。その上で、「コア材の内部にある電子が公転/自転すると、コアに磁性が発生する(磁化される)。磁力計はいずれの方式のものであっても、磁束密度の全体を検出する。つまり、コイルにより発生する磁束とコア自体の磁性による磁束とを区別することはできないのだ」(同氏)と語る。
こうした理論的な側面とは別に、実際に磁気の測定を行うときには注意すべき基本的な事柄がいくつかある。測定の対象とする磁界が直流(DC)なのか交流(AC)なのか、1軸方向のみの測定でよいのか、それとも複数軸を同時に測定すべきなのか、磁界の強度のレベルがどの程度であるのかといったことである。
なお、磁気計測のためのツールは、ガウスメーター、テスラメーター、磁束計、磁力計などさまざまな名前で呼ばれる。本稿では、そうした各種ツールを包含する一般名詞として、磁気センサーという単語を用いることとする。
脚注
※1…Schwartz, Melvin, Principles of Electrodyna
mics, Dover Publications, October 1987, ISBN-10: 0486654931, ISBN-13: 978-0486654935
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