磁気センサー活用への第一歩:用途に最適な製品を選択するために(2/5 ページ)
「磁気センサー」には、いくつもの実現方式があり、それぞれに長所/短所が存在する。呼び方だけ見ても、ガウスメーター、テスラメーター、磁束計、磁力計などさまざまだ。しかも、数米ドルから数万米ドルまでと、価格帯の幅も広い。では、多くの選択肢の中から、用途に最適な製品を的確に選択するには何を理解しておけばよいのか。本稿では、こうした観点から、磁気センサーに関する基本的な情報を整理して提供する。
幅広い用途
磁気の測定は多くの分野で利用されている。ここではいくつかの代表的な例をピックアップして紹介する。
■自動車関連分野
自動車の分野では、実にさまざまなセンサーが用いられる。磁気センサーもその1つである。例えば、自動車のナビゲーション機能では車載センサーによる地磁気測定を利用している。
また、道路にセンサーを設置し、通過車両の車種や進行方向を調べるために車体の磁気特性を測定するといったことも行われる(図1)*2)。
■学術分野
地質学の分野や地球科学の分野の研究者は、地磁気分布を正確にマッピングすることによって磁気分布の異常個所を探し出し、その結果を鉄鉱石などの鉱物資源の探査に利用している。例えば、地質学者は、長い年月をかけて凝固した岩石から生じる磁界を調べて、場所による地磁気の変動や磁極の逆転現象などの研究を行っている(写真1)*3)。
また、ある種の地質学調査では、センサー用コイル(サーチコイル)と積分回路から成る磁束計(Fluxmeter)が利用される。磁性物質の近くにサーチコイルを持っていくと、コイルの両端に電圧が発生し、それが計器内部の積分回路によって積分されて地磁気(DC磁界)の測定結果として得られるのである。
■軍事分野
軍事分野にも磁気測定の重要な用途がある。その1つが潜水艦の探知だ。例えば、対潜哨戒機の「Orion P-3C」は、機体の尾部に搭載された磁気探知装置によって潜水艦を探知する。機体の尾部に搭載される理由は、エンジンやほかの機器類との干渉を避けるためだ。
その他の軍事用途としては、小口径の銃弾用の距離信管がある*4)。この場合、磁気センサーは、銃弾の回転と地磁気の相互作用から砲弾の回転数を検出する。検出された回転数と銃身によって決まる線条(旋条)回転比とから、銃弾の飛ぶ距離が計算され、その結果によって砲弾が爆発するタイミングを制御する。この方法は、発射後の時間の経過によって制御する時限信管法と比べて精度が高い。時限信管法では、銃弾の速度が火薬や砲身の条件によって変化するので高い精度が得られない。
■工業分野
工業分野においては、簡単なところではモーター用磁石のS極/N極の向きを検出するのに磁気測定が利用される。また、磁石の磁力劣化(減磁)の程度を測定するためにも用いられる。
珍しい用途としては、「石油の搬送用にパイプラインを敷設する際、パイプ用の鋼材に残留磁力のないことを確認するために、磁気センサーが使用される」(米Magnetic Sciences社のオーナーであるPaul Elliot氏)。また、貨物のコンテナには磁気の放射量に対して法的制限が規定されており、磁気の測定による確認が必要とされる。
さらには、磁気ディスク用の読み取りヘッドの研究が行われているほか、強磁界下での物質の挙動を研究する際には、超伝導磁石から生成されるような強磁界のレベルを測定することが必要になる。
■医療分野
医療分野での最も代表的な用途がMRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像)装置における磁界の均質性の測定である。MRIトンネル内部の磁界には、ppmオーダーの均一度が求められる。このような均一度が得られているか否かを測定する方法としては、1点ごとに走査することでも可能ではあるが、例えば24〜32個程度の検知素子を弧状に配置したアレイ型センサーがより便利だ。このようなアレイ型センサーにより、MRIトンネル内を球面状に走査するのである。
また、MRI装置の周辺にもいくつかの磁気センサーが取り付けられている。それらのセンサーによって、近くを走る車やエレベータなどからの磁界が測定され、その結果が、補正用の磁場を発生するのに使われる3次元ヘルムホルツコイル(3D Helmholtz Coil)にフィードバックされる。このような仕組みにより、外部の磁界の影響がMRIトンネル内の測定結果に及ぶことを防いでいるのである。
医療分野におけるほかの応用例としては、人体の磁場感受性に関する研究がある。この問題については、地磁気が500mG(ミリガウス)もあるのに対し、電力線や電気自動車による磁界は1mG程度しかないことから、その影響の有無については議論の多いところである。しかし、MRIを使用する病院関係者などにとっては関心の高い話題であろう。こうした問題に対し、ICNIRP(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection:国際非電離放射線防護委員会)によって、職業上の許容静磁界強度に関するガイドラインが定められた。それによれば、連続暴露では200mT(ミリテスラ)、短時間には全身暴露で2000mT、腕や脚に対しては5000mTが限界とされている。ただし、この値について、センサーの製造/販売を行う米GMW Associates社でセールス担当バイスプレジデントを務めるIan J Walker氏は、「これらの値は、限界値としては大き過ぎるのではないか。DC磁場に関する生物学的な影響についての実証研究が欠けていることが懸念される」と指摘している*5)。
■民生分野
一般家庭に関連する話題にも触れておく。ガウスメーターを使用して一般家庭で磁気を測定した結果、思わぬ問題点が明らかになった。
60Hzの電源を使用する一般家屋では、中性極の配線に、別のアース線を使用したり、水道管を使用したりすることがある。このような配線法だと、行きと帰りの電流路の間に距離ができることから、電流ループが形成されて、正常な配線系統に比べると強い磁場が発生するのである。発生する磁場が身体に悪影響を与えるかどうかは議論の余地のあるところだが、正しい配線の必要性が示されたと言える。
脚注
※2…Caruso, Michael J, and Lucky S Withanawasam, "Vehicle Detection and Compass Applications using AMR Magnetic Sensors," Honeywell Inc, May 1999
※3…Roach, John, "Why Does Earth's Magnetic Field Flip?" National Geographic News, Sept 27, 2004
※4…Yoon, Sang-Hee, Seok-Woo Lee, Young-Ho Lee, and Jong-Soo Oh, "A Miniaturized Magnetic Induction Sensor Using Geomagnetism for Turn Count of Small-Caliber Ammunition," Sensors, July 24, 2006, p.712
※5…"Guidelines for Limiting Exposure to Time-Varying Electric, Magnetic, and Electromagnetic Fields (Up to 300 GHz)," International Commission on Nonionizing Radiation Protection, 1998, p.494
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