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共振フォワード型コンバータの魅力を探る(1/3 ページ)

米国の外部電源規格であるENERGY STAR Ver.2への対応は、多くの機器メーカーにとって大きなハードルとなり得る。一方、同規格に定められた効率を容易に満たすことが可能な方式に、共振フォワード型コンバータがある。本稿では、コードレス電話機用のACアダプタの設計を例にとり、同コンバータによって得られるメリットについて説明する。

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リニア電源の限界

 米国政府は、ACアダプタなどの外部電源装置(EPS:External Power Supply)の効率に関し、新たな基準を策定した*1)。ENERGY STAR Ver.2(以下、ES2)がそれで、同規格は多くのグローバル企業に急速に採用されつつある。同規格の内容は、2008年2月以降、変化を続けていたが、米国環境保護庁は2008年4月23日に、2008年11月1日に施行される仕様が最終版であると発表した。


表1 ES2における稼働時/無負荷時の要求仕様の例
表1 ES2における稼働時/無負荷時の要求仕様の例 

 ACアダプタを利用する機器メーカーにとって、ES2に準拠するためには、リニア電源の使用を控えなければならないことが大きな問題となる。リニア電源により、ES2が規定する稼働時/無負荷時の効率基準に準拠することは不可能だからである。例えば、典型的なコードレス電話機で用いられているリニアタイプのACアダプタ(6W)の場合、平均的な効率は50%程度しかない。それに対し、ES2が定める効率の基準は最小値が73.5%となっている。また通常、リニア電源の消費電力は無負荷時で約800mW程度だが、ES2の基準では300mW以下に抑えるよう規定されている。

 さらに、リニア電源はサイズが大きく、また鉄と銅の世界的な価格高騰の影響を受けて、非常に高価なものとなっている。結果として、電源の設計者はリニア電源を、効率と電磁波放射(EMI)に対する現在の基準を満たすことが可能で低価格なスイッチング電源に置き換えるための解決策を探している。

 ES2は、最高250WまでのAC-AC/AC-DC外部電源に関する効率の許容基準を定めている*2)。その基準は電力条件によって場合分けして定義されており、参照情報としてテスト方法も示されている。大量生産される家電製品では、電源のほとんどは1W〜75Wの範囲に収まり、基準の上限である250Wという数字を満たす。ES2では、この電力範囲における稼働時/無負荷時の電源の特性を表1のような形で規定している。

フライバック方式にも課題あり

 上述したような電力レベルで低価格なスイッチング電源には、ES2の最終案に示されている要求を満たすために、通常はフライバック方式を利用することが多い。過大な電圧、電流、温度上昇に対する保護機能を提供することができることもあり、同方式は一見したところ非常に妥当な選択肢である。実際、同方式を利用した多くのコントローラICが提供されている。

 フライバック方式では、機器内のポストレギュレーション回路に対する要求を緩和することができる。しかし、フライバック方式の場合、常に部品コストや設計時間の長さに苦しめられ、低価格で大量生産される用途では、その魅力が低下することを避けられない。また、フライバック方式における高速スイッチング動作に伴う過渡信号は、大掛かりで高価なフィルタを必要とするコモンモードのノイズを発生させ、さらには、オーディオ機器、AMラジオ、電話関連機器といった用途において対処が不可能な問題をも引き起こすことがある。こうしたノイズを低減するために、フライバック方式のコントローラICの中には、スイッチング周波数のディザリング機能や、ノイズのエネルギーを周波数軸上で見て拡散された状態にする変調処理機能などを備えるものがある。そうした製品を用いる場合でも、通常は追加のフィルタ回路が必要となる。

 また、フライバック方式の一種に、RCC(Ringing Choke Converter)回路を用いたものがある。これは自励発振によってスイッチング動作を行う、ディスクリート部品で構成されたタイプのもので、低価格なオフライン電源を実現することも可能だ。ただし、その制御メカニズムは、負荷レベルが低下すると発振周波数が高くなるというものになる。そのため、RCC回路を用いた方法では、一般に軽負荷時/無負荷時の効率が悪い。

共振フォワード方式のメリット

 ES2で規定された効率と無負荷時の電力要求を満足しつつ、さらにリニア電源やフライバック方式の双方に見られるデメリットを少ない部品コストで克服する方法がある。それは共振フォワード型コンバータを用いる方法である。共振フォワード型コンバータは、フライバック方式とは異なり、電圧/電流がゼロに近いところでスイッチングする。それによりスイッチング損失を最小限に抑え、フライバック方式を超える効率を実現する。また、そのスイッチング波形は正弦波状であり、EMIノイズが少なく、フィルタ用の部品の必要性を軽減するか、場合によっては完全に取り除くことを可能にする。しかし、共振フォワード型固有の制御の難しさが主な理由となって、最近まで低電力の一般的な電気製品には、同方式は利用されてこなかった。

 こうした状況は、シングルスイッチの共振不連続フォワード型コンバータ(Single-switch Resonant Discontinuous Forward Converter:RDFC)を実現するコントローラICによって覆すことができる。RDFCに対応した最新のコントローラICであれば、性能、保護機能、安全性、寸法の優位性の面で、フライバックコンバータと同等のことを実現できる。RDFCを用いれば、フォワード型コンバータであることによって得られるトランスの小型化といったコスト/サイズ面でのメリットを享受できることに加え、ES2の基準を容易に満たすことが可能である。

 フライバック方式では、1次側のスイッチがオフの際、絶縁トランスはエネルギーを蓄えるインダクタとして振る舞う。要求される電力レベルに対応可能なサイズのコアが必要になることに加え、そのコアにおいて電力損失が発生してしまう。

 重要なのは、RDFCにおける共振スイッチング技術はEMIの低減を実現し、そのことが設計を簡素化して、製造コストやプリント配線板のサイズ削減に貢献するということである。RDFCでは、従来からのフォワード型コンバータに必要とされる2次側のフリーホイールダイオードやチョークコイルが不要となり、フライバック方式において1次側コイルに付加するスナバー回路用部品なども必要としない。


脚注

※1…『外部電源、その「高効率化」に待ったなし!』(Margery Connors、EDN Japan 2008年6月号、p.38)

※2…Energy Star program requirements for single voltage external ac-dc and ac-ac power supplies-eligibility criteria (Version 2.0), www.energystar.gov/productdevelopment


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