プロトタイピング──着手の前に知っておくべきこと(2/3 ページ)
一般に、電気/電子機器の製品化に向けては、設計の正しさを検証するための回路を実際に試作することになる。すなわち、「プロトタイピング」が必須のプロセスであると言える。しかし、このプロトタイピングにはさまざまな実現手段があり、それぞれの開発案件の事情に応じて適切な手法は異なる。本稿では、現在、一般的に行われている代表的なプロトタイピング手法の概要を紹介する。
CADデータとのリンク
CADデータを用いてプロトタイプ基板を作成すれば、設計プロセスの初期の段階でそのデータの正しさを確認することができる。それにより、製造工程に入ってから生じる問題の数を低減することが可能になる。
トナーを転写する手法では、エッチングと手作業による穿孔が必要になる。それ以外に、フライス盤による加工を用いる方法もある。例えば、ドイツLPKF Laser&Electronics社は、ガーバーデータやドリルデータを検証するためのフライス盤を製造している(写真4)。このフライス盤の価格は、通常のガーバーデータを基に、フライス盤で加工できるようなデータを生成するソフトウエアを含めて1万1900米ドルからである。
フライス盤を使用すれば、ほんの数時間で複雑なプロトタイプを作成することができる。その際には、フライス盤によって、適切なインピーダンスになるまで配線トレースを切削していくことになる。配線トレースの間隔が100mil(0.1インチ、約2.54mm)の基板においてフライス盤を使用すると、その間隔は10milほどにまで減少する。銅の形状と近接度が重要なRF設計では、配線トレースの隔離を正確に複製するようにフライス加工用のソフトウエアを設定するとよい。なお、この場合、単純に配線を互いに隔離するよりも時間はかかる。
フライス盤を用いる手法では、レイヤー間に穴を開けてもビア接続することはできないことに注意されたい。接続するには、ビアの穴に小さなワイヤーをはんだ付けしなければならない。
LPKF社は、導電性エポキシでビアを充填するためのツールと、多層基板を作成するための小型のめっき槽を提供している。これらを使用したい場合には、自分の会社で、通気フードを設置したり、それらを危険物として取り扱ったりする必要があるか否かを確認しなければならない。小さなめっき槽を利用するために多くの設備投資が必要になるなら、ビアに関しては、導電性エポキシかはんだ付けワイヤーを使用することで対処するしかない。
プロトタイプ基板の製造企業
上述したいくつかのプロトタイピング手法を使用することで、徐々にプロトタイプ基板が完成していく。いずれの手法を用いた場合でも、概念検証は行える。しかし、最終的に製品を製造することを考えるなら、CADツールを用いて基板設計を開始するほうがよい。ドキュメントも存在しない状態で部品をはんだ付けしていくよりも、ほぼすべての場合に適切な方法であろう。
Datadog Systems社のコンサルタントであるJohn Massa氏は、47年に及ぶ自身の経験に基づき、「すべてのプロジェクトにおいて、プリント配線板のレイアウトとプロトタイプが最も重要だ」と指摘する。同氏は「プリント配線板の開発期間を短縮するための投資が無駄になることはまずない。必ずより良い製品が得られる」と述べる。
設計者は、回路を動作させるだけでなく、製造向けのドキュメントを提供する必要もある。製造するのが自社であっても海外の企業であっても同じことだ。トナーの転写を利用したプロトタイピングでは、ガーバーデータのチェックは行えるが、ドリルデータのチェックは行えない。フライス盤を用いる方法では、ドリルデータが正しいことは保証できるが、シルクスクリーンのプロセスは反映できない。またフライス盤は、マイクロSMD(Surface Mount Device:表面実装部品)やそのほかのCSP(Chip Scale Package:チップサイズパッケージ)には対応しない。なお、当初の目的どおりに利用可能な基板を作成するには、良好な状態にあり、正しく設定されたフライス盤を使用する必要がある。
上述したような制約があることから、プロトタイプ基板の製作を請け負う企業に委託するのも良い選択肢だと言える(写真5)。すなわち、自社の設計データを送付し、製作を請け負ってもらうのである。
この方法において、プロトタイプ基板の製作にかかる時間と費用は、大まかに言えば、この10年間で、それぞれ数週間と数千米ドルから、24時間と数百米ドルへと変化した。ただし、技術者向けの配慮に優れた企業ということになると、その数は絞られる。
そのうちの1社として、米Sierra Proto Express社が挙げられる。同社は、CADデータを基に、数日のうちに、2〜3個の基板を200米ドル未満で製作して届けてくれる。同社を経営するKen Bahl氏によると、「短期間でプロトタイプを作成したいとのニーズは1990年代初めに現れた」という。同様の製作会社である米Advanced Circuits社も、プロトタイプの製作期間を短縮することのメリットに1996年に気が付いたという。もう1つのパイオニア的存在である米Sunstone Circuits社は、かつては米Tektronix社向け専門に基板を製作していた。これらの企業は、いずれも、両面基板を1日で、多層基板を数日で製作することができる。加えて、それぞれに異なるサービスを提供していることを特徴とする。
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