プロトタイピング──着手の前に知っておくべきこと(3/3 ページ)
一般に、電気/電子機器の製品化に向けては、設計の正しさを検証するための回路を実際に試作することになる。すなわち、「プロトタイピング」が必須のプロセスであると言える。しかし、このプロトタイピングにはさまざまな実現手段があり、それぞれの開発案件の事情に応じて適切な手法は異なる。本稿では、現在、一般的に行われている代表的なプロトタイピング手法の概要を紹介する。
Sierra社は、自社のプロトタイプ基板技術をさらに発展させることに注力している(写真6)。同社は、3mil(0.076mm)配線の基板製作に対応している。また、トレース幅とスペースが2mil(0.051mm)で、バリードビアやブラインドビアを使用し、レーザードリルでそれらのビアを任意の重なり合ったレイヤーに配置するという仕事も請け負う。厚さ62mil(1.575mm)の14層の基板や、最大30層のそれよりも厚い基板も提供する。直径1mil(0.025mm)のテストパッドや、最先端の仕上げ、ラミネート処理などにも対応する。
Advanced Circuits社は、納期の必達を特徴の1つとして掲げている。同社セールス/マーケティング担当バイスプレジデントを務めるLarry McQuinn氏は、「製造プロセス全体を通し、予備の機械を保有している。そのため、1台が故障しても、予定どおりに納品することができる」と述べる。Advanced Circuits社は、リアルタイムDRC(Design Rule Checking)のオンラインサービスも提供している。これを利用すれば、ファイルをサーバーにアップロードするだけで、数時間のうちに欠点や製造上の問題点を詳細に示したレポートを受け取れるようになっている。これにより、設計データを引き渡した後で問題が発覚した場合に、変更を加えるまでの数日間、作業を中断しなければならないという時間のロスを防ぐことができる。またAdvanced Circuits社は、単層/多層の基板向けに必要となるすべてのファイルを生成してくれる無償のレイアウトツール「PCB Artist」を提供している。
Sunstone Circuits社も、単なる単層基板技術とは一線を画した技術を有する。プロトタイプ基板の製作期間は短く、無償のCADツール「PCB123」も提供している。またオーストラリアAltium社の「Altium Designer」やドイツCadSoft Computer社の「Eagle」といった有名なレイアウトツール向けのDFM(Design for Manufacturing)プラグインも開発しており、各ツールをSunstone Circuits社のデザインルールに即した設定にすることができる。同社は米Screaming Circuits社と共同で、基板の組み立ても行う。Sunstone社に基板の組み立ての管理を依頼することにより、出荷と配送の手間を省くこともできる。
上述した3社の米国企業は、地域、州、連邦のすべての環境関連規格に準拠した形でプロトタイプ基板の製作を行う。同様の対応を行う企業は、米国外にも存在する。アイルランドBeta LAYOUT社はそうした企業の1つである。同社は、1994年からプロトタイプ基板の製作を請け負っている。ルーティングに関する課金は行わないので、ルーティングが必要な小さな基板が多数あるならば、同社を選択するとよいだろう。同社はシルクスクリーニングやはんだマスクのオプションに対しては課金するが、その価格も他社と比較して高くはない。
実装の外部委託
プロトタイプ基板が完成したら、部品の実装を自社で行ってプロトタイプを完成させるところも多いだろう。ただし、この工程については、外部企業と契約して実装を行ってもらうという手もある。筆者は、外部企業に実装を委託するということを、少なくとも1度は経験することをお勧めする。彼らは、たとえ設計図が紙ナプキンに描かれていたとしても協力してくれるだろう。また、彼らは製造プロセスをよく理解していることから、開発コストの低減にも寄与してくれるはずだ。「実装を請け負ってくれる優良な企業を確保していることが、革新的な企業になるために必要なことの1つだ」とSierra社のマーケティング担当デイレクタを務めるAmit Bahl氏は語る。
プロトタイプの製作に4カ月の猶予がある場合でも、外部の企業に委託して3日で製作してもらう価値は十分にある。それによってマーケティング部門や販売部門は、製品をレビューする時間を確保した上で、プロトタイプを顧客に手渡すことができる可能性がある。そうすれば、1週間以内に改良を加えたより良いバージョンを製作するといったことも可能だろう。そうしたことを繰り返せば、製品が完成するころには、顧客の期待を上回るほどに堅牢な設計が得られる。競合他社が追従しようとしても、価格を下げたり性能を改善したりすることで、しばらくの間は優位に立てるはずだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.