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「アイソレータ」を活用せよ!より安全な機器を設計するために(3/4 ページ)

絶縁技術を利用することで、機器の安全性を保証したり、ノイズを低減したりすることが可能になる。絶縁を実現するにはアイソレータを適切に選択しなければならないが、それには各種アイソレータがそれぞれどのような手法で実現されているのか、その特性はどのくらいのものなのかといったことを理解しておく必要がある。

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絶縁の実現手法

 絶縁は、RFや光、容量、トランス、GMR(Giant Magnetoresistive)検知など種々の手段で実現される。デバイスベンダーが提供するアイソレータ製品は、絶縁材に用いられる誘電性複合材料の違いをはじめ多種多様である。

 TI社のLafferty氏によると絶縁材の特性は、性能と長期的な信頼性に影響を及ぼすという。「デジタルアイソレータにおける当社の目標の1つは、半導体製造フローを用い、半導体材料によって絶縁材を実現することであった」と同氏は述べる。これにより、「当社の新しいデジタルアイソレータ製品ラインの信頼性が高まった」とLafferty氏は主張している。


図8 トランスを用いた絶縁ICの例
図8 トランスを用いた絶縁ICの例 ADI社のiCoupler技術は、ポリイミド膜で絶縁された小さなトランスを使用する。トランスは、絶縁境界を越えて電力を送信することができる。
図9 GMRを用いた絶縁の例
図9 GMRを用いた絶縁の例 NVE社のデバイスは、GMR(図中のスピンバルブ抵抗)とコイルの磁性結合を利用している。絶縁材としてはポリマー膜を用いている(a)。受信部にはGMRとCMOS回路を集積している(b)。

 TI社のデジタルアイソレータ製品「ISO72xx」は、ガラスを絶縁材として用い、容量性結合で信号の伝送を行う。これに対し、ADI社のiCoupler製品ラインでは、ポリイミド膜を絶縁材とし、トランスによる結合を用いる(図8)。先述したLinear社のLTC1535の場合、リードフレーム上のディスクリートコンデンサを使用する。比較的新しい製品のLTM2881では、プリント基板の材料をスパイラルトランスの誘電体として使用している。

 これとは対照的に、NVE社の製品は図9のような構造を成している。同社の手法は、磁界にさらされると内部抵抗に大きな変化が生じるGMRを利用したものとなっている。同社のアイソレータは、磁界を生成するための小さなコイルとGMRセンサーをペアで用いて信号の伝送を行う仕組みだ。

 ADI社は、チップ上のガラスを誘電体として使用するトランス結合の製品ラインも発表している。同社のKrakauer氏は、「特に安全性が重要なのではなく、グラウンドループの切断かノイズの低減のみを顧客が求めている場合には、われわれの標準製品が備える高度な絶縁機能は必要ない」と説明する。同社の製品は、高電圧部品と同じスパイラルトランス技術を採用しており、5μmのシリコン酸化膜でトランスの巻線を絶縁している。従来の製品では、20μmのポリイミドが必要であった。同社製品は、トランス技術により、絶縁境界を越えて電力を伝送することもできる。そのため、より高度にシステムを統合することが可能になる。

 Silicon Labs社の製品は、チップ内部でRF信号を生成してレシーバアンテナへと送信する。誘電体としてはダイ上のガラスを用い、変調にはオン/オフ変調(オン/オフキーイング)を使用している。同社のJaved氏は、「この手法の利点は、出力が常に入力に従うことだ」と述べる。この手法により、「ラッチやパルスのトポロジーを使用する部品を用いた場合に比べて、システムはノイズの干渉に強くなる」とも主張している。

 ほかには、絶縁境界を越えるために音響結合を用いる手法もある*8)

製品選択の基本

 アイソレータの選定時に最も重要となる検討項目は、スタンドオフ電圧である。次に、ULあるいはほかの国際規格への準拠が必要かどうかによって選択すべき部品が決まる。UL規格に準拠していない部品を使用してもUL規格の認定を得ることは可能だが、それにはかなりの時間を要してしまう。ULに対して、絶縁境界が適切であることを証明しなければならず、これが大変な手間になるからだ。安全性が認定されたアイソレータ部品を選択するほうがずっと容易に仕事を進められる。

 アイソレータについて最初に検討しなければならないのは、絶縁境界を越えてアナログ信号を渡す必要があるかどうかということである。信号が十分に低速である場合には、旧式の製品であるISO124やAD204で十分だ。また、フォトカプラは広く採用されているため、これを使用するかどうかを必ず検討すべきだが、使用する場合には、フォトカプラの本質的な経時劣化の問題を受け入れるか、この問題を補償するための基準サーボ設計を用意する必要がある。

 広い帯域幅を必要とする設計では、Avago社やADI社、TI社が提供するΔΣ変調器を利用したアイソレータを検討するとよい。これらの製品は、絶縁境界の部分でデジタル信号を伝送するが、簡単なローパスフィルタによってそれをアナログ信号に変換することができる。先述したように、TI社は容量性結合、ADI社はトランス、Avago社はフォトカプラを絶縁に利用している。Avago社の製品では、絶縁境界を越えて伝送されるのはデジタル信号であるため、フォトカプラの経時劣化は問題にならない。

 デジタルアイソレータを使う場合、ほとんどの用途では、1メガビット/秒〜50メガビット/秒の伝送速度で利用する。速度が第一の課題でないなら、通常は消費電力が重要な検討項目になる。フォトカプラは、論理レベルがローの場合にはLEDも駆動しないので、その際の駆動電流は0Aとなる。この特性を利用することで、より良いシステムが設計できるかもしれない。

 NVE社は、ドライバを必要とせず、デバイス内部の磁性コイルに直接入力するタイプのデバイスを提供している。同社のTempleton氏は、「直接コイルへ入力することで、信号線からコイルで要する電力を得ている。そのため、デバイスの入力側には電源端子は存在せず、電力を供給する必要はない」と説明する。このデバイスの利点は、任意の方法でコイルを駆動することができることと、消費電力を節減できることだ。

 次に重要な仕様の1つは過渡特性だろう。TI社の戦略的開発エンジニアであるJerry Steele氏は、「注意しなければならない重要なパラメータが1つあるとすれば、それはコモンモード電圧のdV/dt(時間当たりの電圧の変化量)だ」と警告する。通常、ベンダーは25kV/μsといった形で部品の仕様を表記する。TI社によると、同社のアイソレータは、この特性が50kV/μsであっても正しく動作するという。

 もう1つの検討項目は、電磁感受性である。TI社は、「容量性の絶縁は、ほかの技術よりも磁界に対する耐性が高い」と主張している。それに対し、ADI社は、「当社の製品は、非常に高いレベルの磁界が存在しない限り、エラーは発生しない。どの程度の磁界かと言えば、すべての配線におけるシグナルインテグリティが破綻してしまうほど高レベルのものだ」と述べる。NVE社のアイソレータは磁界をベースとしているが、密接な結合とシールドにより守られている。そのため、ごく限られた用途でしか、強磁界による影響が問題になることはないという。NVE社で社長兼CEO(最高経営責任者)を務めるDan Baker氏は、「われわれの顧客にとって、磁界は問題にはならない。われわれの製品は、外部磁界に対する高い耐性を備えたより実用的なデバイスだ」と述べる。

 Silicon Labs社のアイソレータはRFシステムである。そのため、外界の影響を受けやすいのではないかと考える人もいるだろう。しかし、そのような先入観は捨てたほうがよいかもしれない。米Crossbow Technology社のリードエンジニアであるJohn James氏は、「いくつかの技術を試した結果、Silicon Labs社の製品が、われわれの用途において最も優れた耐性と放射の性能を備えていることがわかった」と述べている。

 いずれにせよ、FCC(Federal Communication Commission:米連邦通信委員会)やCE(Conformite Europeenne)のEMI放射試験に製品を合格させられるように、アイソレータから伝送されるデータの影響を評価して、デバイスを選定する必要がある。


脚注

※8…"An Acoustic Transformer Powered Super-High Isolation Amplifier," National Semiconductor, October 1981, http://www.national.com/an/AN/AN-285.pdf


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