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フローティングゲートをアナログ領域で生かすメモリーから信号処理まで、広がる可能性(3/5 ページ)

フローティングゲートを利用してデジタル値を保持する技術は、各種メモリーデバイスにおいて極めて広範に活用されている。では、フローティングゲートを利用してアナログ電圧を高い精度で保持し、さらにそれを自由に活用できるようにしたならば、エレクトロニクス業界には、どのような可能性が見えてくるのだろうか。

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リファレンス電圧ICへの応用

 1989年には、フローティングゲートをICのトリミング機能として利用する手法が提案されていた*3)*4)。当時、新興企業であった米Impinj社は、フローティングゲート構造を用いて、アナログのトリミング電圧を保持しようと考えた。同社は、2003年に、EEPROMの製造に使用されるステップ数の多いCMOSプロセスの代わりに、通常のCMOSプロセスによってフローティングゲート回路を開発しようと試みた。その当時、同社のウェブサイトには、同社のミッションとして「アナログメモリー素子でありながら、従来のCMOSトランジスタの特質をすべて併せ持つフローティングゲートトランジスタを開発すること」が掲げられていた。

 しかし、その後、この構想は現実的には非常に困難であることが明らかになった。2005年には、Impinj社はアナログフローティングゲートに対する取り組みを縮小し、RFID(Radio Frequency Identification)タグICのサプライヤとなった*5)。また、2007年には同社の技術者らは、ロジックNVM(不揮発性メモリー)をデジタルストレージデバイスとして使用するほうがより実用的であるとする記事を執筆している*6)

 この方向転換は、フローティングゲートを用いたトリミング機能が、非実用的なものだということを意味するわけではない。ただ、コスト面での目標を達成するために、微細なCMOSプロセスを使用しなければならないのならば、デジタルストレージを使用したほうがよいということは示唆している。

 このような状況であるにもかかわらず、米Intersil社は、2004年にXicor社を買収することにより、アナログフローティングゲートの専門技術を取得した。同社は、この技術を用いてリファレンス電圧ICを提供している。リファレンス電圧ICであればフローティングゲートはただ1つでよい。

 このような用途では、フローティングゲートは、リファレンス電圧を保持する目的で使われる。また、純然たるアナログICは、必ずしも微細なCMOSプロセスを用いてチップを小型化しなければならないわけではない。そのため、フローティングゲート構造に対し、線幅が太く、ステップ数の多い複雑なCMOSプロセスを使用することができる。さらに、リファレンス電圧用のチップは十分に小さいため、線幅が太いことによる深刻な問題は生じないのだ。

 このような条件でICを設計すると、IC内部のフローティングゲート構造を比較的大きなものとすることができる。これは、製造時にフローティングゲート電圧を高精度にプログラミングできるということを意味する。

 Intersil社で設計フェローを務めるBarry Harvey氏は、「フローティングゲートの利点の1つは、温度係数が弓状になることなく、ほぼ線形であることだ。これは、温度補償が容易であることを意味する」とそのメリットについて述べる。その上で、「この線形性により、ある範囲で任意の電圧にプログラミングすることも可能になる」(同氏)と付け加える。フローティングゲート構造を用いたリファンレンス電圧ICは、バンドギャップをベースとするものより、供給電流が少ない場合のノイズが小さいという利点もある。

 Harvey氏は、「ICの製造プロセスには可動性のイオンが存在し、フローティングゲートに電荷を蓄積する場合には、これが大きな問題となる」と指摘する。同社は、この問題に対して、巧妙な設計/製造手法によって対処している。そもそも、アナログフローティングゲートの設計を支援するツールなどほとんど存在しない。従って、同社の技術者は、製造プロセスの種類とばらつきが素子の特性に与える影響を理解するために、かなりの時間と労力を費やす必要があったという。

 同社のリファレンス電圧ICに用いているフローティングゲートからリークする電荷(電子)の量は、1秒当たり数個というレベルである。そのため、同社のリファレンス電圧ICは、車載用途における高い温度においても、何十年間も使用することができる。


脚注

※3…Carley, LR, "Trimming analog circuits using floating-gate analog MOS memory," IEEE Journal of Solid-State Circuits, Volume 24, Issue 6, December 1989, p.1569

※4…Harrison, Reid R, Julian A Bragg, Paul Hasler, Bradley A Minch, and Stephen P Deweerth, "A CMOS Programmable Analog Memory-Cell Array Using Floating-Gate Circuits," IEEE Transactions on Circuits and Systems?II: Analog and Digital Signal Processing, Volume 48, No. 1, January 2001

※5…Wilson, Ron, "Programmable fuse IP finds life after RFID role," EE Times, Feb 7, 2005

※6…De Vries, Ma, "A logical approach to NVM integration in SOC design," EDN, Jan 18, 2007, p.73


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