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ツールで確保するシグナルインテグリティ(3/3 ページ)

シグナルインテグリティの問題は、注意を怠ると後で災いとなって返ってくる。専用のソフトウエアツールを利用することにより、設計のなるべく早い段階で、その問題を回避するようにすることが肝要だ。本稿では、シグナルインテグリティへの対処の流れを簡単に説明した上で、各種ベンダーが提供するツールにはどのようなものがあるのかを紹介する。

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ツールベンダーの対応状況

 Mentor社の「HyperLynx」は、シグナルインテグリティツールの中で最も大きな市場シェアを占める製品である(画面1)。HyperLynxは、同社のボードレイアウトパッケージ「PADS」および「Expedition」に含まれており、米Cadence Design Systems社のボードパッケージ「OrCAD」、「Allegro」や、図研、オーストラリアAltium社の製品でも動作する。

 Altium社は、回路図エディタでプリレイアウト評価を行い、基板ツールでポストレイアウト解析を行うボードレイアウトツールを提供している。その結果からは、トレースにおけるオーバーシュート/アンダーシュートの有無と、近隣のトレースへの影響の有無について把握できる。一方、HyperLynxではアイダイアグラムの評価が可能である。また、IBIS AMIによってツールに接続可能な、ICに内蔵するイコライザなどのアルゴリズムのモデルを提供する。


画面1「HyperLynx」の実行画面
画面1 「HyperLynx」の実行画面 

 Sigrity社のセールス/マーケティング担当バイスプレジデントを務めるLeslie Landers氏によると、「10年ほど前まで、3Dフィールドソルバーはビアやワイヤー配線の調査にしか使用できなかった。それ以外の用途には、簡略化による高速対応が図られておらず、高速回路の設計には対応しないシミュレータしか使用できなかった」という。それとは対照的に、最近のツールは、コネクタ、ビア、ワイヤー配線の完全な3Dシミュレーションを実行し、基板のトレースのシミュレーションには、より高速な2Dシミュレーションを適用する。Sigrity社のツールでは、電源バスがシグナルインテグリティに与える影響について検討することもできる。パワーインテグリティの解析用ツールも、Sigrity社やNECなどから提供されている。

 Mentor社やSigrity社が提供する高度なツールを利用すれば、ISIのシミュレーションも行える。5Gbps〜10Gbpsクラスの信号の場合、対象となる波長は短く、基板かバックプレーン上のトレース長が数センチもあると、チャンネル上に複数の信号が同時に存在することになる。そうした複数の信号の相互作用により、反射と遷移にも変化が生じる。そのため、ハイエンドのシグナルインテグリティツールでは、PRBS信号をチャンネルに入力し、得られたアイダイアグラムに関するデータを収集することができるようになっている。Altium社のシグナルインテグリティツールは、4000米ドルの同社設計プラットフォームを購入すると無償で入手できる。便利なツールではあるが、HyperLynxよりも機能が少ない。一方、多くの機能を搭載するスタンドアロン版のHyperLynxの価格は、約5万米ドルにも上る。

画面2Ansoft社ツールの実行画面
画面2 Ansoft社ツールの実行画面 

 Mentor社、Cadence社、図研、Altium社は、ボード設計における経験を生かしたシグナルインテグリティツールを開発しているが、そのほかの企業も優れたフィールドソルバーやシグナルインテグリティツールを提供している。Mentor社に続いて市場シェア第2位の米Ansoft社(2008年3月に米ANSYS社が買収)は、算術演算とグラフに関する専門技術を生かし、シグナルインテグリティの問題に取り組む技術者をサポートしている。同社の主力製品「HFSS(High Frequency Structural Simulator)」は、汎用のフィールドソルバーであり、Sパラメータと行列ソルバーのSPICEモデル化にも対応している。また「DesignerSI」には、回路図キャプチャツール、レイアウトツール、2Dフィールドソルバー、そしてシリアルリンクの設計に必要な統計的機能やIBIS機能が含まれている(画面2)。また、ボードとパッケージのジオメトリからモデルを抽出する「SIwave」も提供している。

 早くからIBIS AMI規格に対応した米SiSoft(Signal Integrity Software)社は、プリレイアウトとポストレイアウトの両方のシグナルインテグリティ解析に利用できるフィールドソルバー「Quantum-SI」を提供している。ほかには、高速シリアルリンク向けの設計環境「Quantum Channel Designer」もある。同社のツールは、送信機/受信機IC内のアルゴリズムやイコライゼーションをモデル化し、PCI-X(PCI Extended)やIEEE 802.3xなどのインターフェース規格にそのチャンネルが準拠しているか否かを判定する自動準拠テストをサポートする。また、同社のツールは、Mentor社の「Expedition PCB」や、Altium社、図研などのいくつかのボードツールに接続することが可能だ。

 米COMSOL社、米Sonnet Software社、ドイツCST(Computer Simulation Technology)社、米E-SystemDesign社などが提供する多くのフィールドソルバーは、シグナルインテグリティの解析に用いる計算処理も行える。フィールドソルバーを提供するほとんどの企業が、コネクタやワイヤー配線を正確にモデル化してくれる3Dプログラムを提供している。ただし、大きな基板を3Dでモデル化するには、かなりの時間がかかる場合が多い。

 シグナルインテグリティの問題は、高周波で生じる。そのため、RF設計ツール企業も、シグナルインテグリティに取り組む技術者の支援に乗り出している。例えば、Agilent社は、「EMDS(Electromagnetic Design System)」と「ADS(Advanced Design System)」の2つのフィールドソルバーを提供している。ADSには、シグナルインテグリティ向けのプラグインが付属しており、電界と電流の3Dでの視覚化が可能となっている。最近になって、IBIS AMIモデルのサポートも追加された。

 一方、米AWR社の「Microwave Office」は、容易な操作性と直感的なインターフェースを備えることを特徴とする。同社は、2D/3D解析を支援する「Signal Integrity Design Suite」などのシグナルインテグリティツールも提供している。AWR社のマーケティング担当バイスプレジデントを務めるSherry Hess氏は、「多くの企業が、自社のRF技術者に対し、シグナルインテグリティやEMIの問題について支援を受けたいと望んでいる。そうした技術者が、使い慣れたRF設計環境を使用したいと思うのは当然のことだ」と述べる。

 ボードレイアウト、フィールドソルバー、RFツールのベンダーに加えて、米The MathWorks社など、数学的解析を得意とする企業も、「MATLAB」などのツールによって、シリアルチャンネルのシグナルインテグリティの問題に対する支援を行っている。同社のRF/アナログ製品担当マーケティングマネジャを務めるGiovanni Mancini氏は、「MATLABのツールボックスには、特定用途向けの一連の数学的機能が含まれている」と語る。ADSやMicrowave Officeなどのツールでは、シミュレーションに集中定数回路モデルを用いる。MATLABでは、同モデルを用いて、チャンネルモデルを解析する。同ツールの統計的機能を用いれば、BERを予測することが可能である。受信機ICのイコライゼーション機能のためのフィルタアルゴリズムの開発にも有効だ。The MathWorks社の信号処理/通信担当マーケティンググループのマネジャChris Aden氏は、「技術者は、設計と特性評価のさまざまな段階においてMATLABを利用することができる。通信向けツールボックスにより、データの波形を入力してテストを実施し、フィルタの評価を行うことが可能だ」と語る。

 ICベンダーも、シグナルインテグリティの問題に直面する技術者を支援している。米Altera社のシニア製品プランニングエンジニアであるOliver Tan氏は、「当社は、レイアウト完了前の解析を可能にするツールと、レイアウト完了後に利用するツールを提供している」と述べる。SSN(Simultaneous Switching Noise:同時スイッチングノイズ)予測ツールは、そうしたツールの1つであり、プリレイアウトにおいて、誘導性のクロストークが生成するSSNをモデル化する。同社の「SSN Analyzer」は、ポストレイアウトで使用され、シグナルインテグリティの評価とFPGAの端子配列の選定を支援する。同社技術マーケティング担当シニアマネジャを務めるPhil Simpson氏は、「ローエンドの製品でも、1Gbps〜3Gbpsのリンクを使用している。データレートが高くなると、問題は大きく変化する」と語る。

 Mentor社、図研、Cadence社は、自社のシグナルインテグリティツールを自社の基板設計フローの中で使用できると主張している。しかし、これらのツールは、もともとは別の会社の製品だったものを買収し、自社のフローに統合したものであるケースが多いことを覚えておくべきだ。Altium社の地域別最高経営責任者であるGerry Gaffney氏は、「フロー全体が同じデータベースに基づいたものでなければ、機能は完全に統合されているとは言えない」と指摘している。

 Sigrity社のWillis氏は、「当社は、ExpeditionやAllegroなどの基板ツールと競合するつもりはない。Channel Designerがこれらのツールとうまく連携して動作できるようにしている」と述べている。同氏は、「製品の高度な性能からもわかるように、当社はシグナルインテグリティの問題に集中することができている」と説明している。

 シグナルインテグリティの問題を解消するには、ありとあらゆる手法を利用する必要がある。高速チャンネル用のツールは、2D/3Dフィールド解析に加え、SPICEによる行列演算を行えるものでなければならない。また、シグナルインテグリティツールは、チャンネル内のモジュールのSパラメータを導入し、時間領域の性能を評価して、与えられたジッターやクロストークのシミュレーションからBERを予測するためのデータ解析機能を提供できる必要がある。Altera社のSimpson氏は、「多くの設計者が、シグナルインテグリティに関する教育をまったく受けていない。彼らには、その設計によって正しい動作が得られるかどうかを判定してくれるツールが必要だ」と述べている。その目標を達成するには、できるだけ優れたソフトウエアを入手しなければならない。

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