リレーが生み出す危険なサージ:Wired, Weird
ICが普及した現在でも、リレーはノイズが多い環境での入出力用インターフェース部品として活用されている。筆者は、リレーのメーカーが提示している注意事項を十分に確認して回路設計を行っているが、それでも事故が発生してしまったことがある。
リレーはコイルを利用した部品である。電磁石の原理で磁界によって金属を動かすことにより、接点のオン/オフを制御する。ただ、コイルには電流を保持する性質があり、リレーがオフする際には逆起電力が生じる。これをうまく処理しないと、周辺部品が破損し、回路が正常に動作しなくなってしまうのだ。
図1に示したのは、非常停止スイッチSWの信号をリレーRLでラッチするインターフェース回路である。まず電源の投入時には、リセット信号によってトランジスタQ1をオンさせることでリレーが起動する。リレーの接点とノーマリークローズのSWを通して電流が流れ、リレーがオンの状態で保持されるのが通常時の動作である。一方、非常停止時にはSWがオープンになり、電流が遮断されてリレーがオフする(接点が開く)。これにより、非常停止信号をラッチした状態となる。非常停止時には確かに電流は流れなくなるのだが、それまでの各素子の動きを細かく見ると、次のようになる。まず、SWがオープンになったとき、リレーは電流を流し続けようとするので、リレーのコイルLRLの下側に、瞬間的にマイナスのサージ電圧が発生する。このサージ電圧は、一般に電源電圧の20倍から40倍になると言われている。その後、リレーに流れていた電流はサージ吸収用のダイオードD1を通して流れ続ける。そしてリレーが保持していた電力は、リレーの抵抗成分によって熱として消費される。
この回路の設計における要点は、D1を正しく選択することである。それにはD1の逆耐電圧と順方向電流の値が重要であり、これらについては、リレーのメーカーから、選定の目安として以下のような注意事項が示されている。
ダイオードとしては、逆耐電圧が回路の電源電圧の10倍以上で、順方向電流が負荷電流以上のものをご使用ください 。ただし、電源電圧がそれほど高くない電子回路の場合、電源電圧の2〜3倍程度の逆耐電圧のものでも使用可能です
この後半部に書かれている甘い誘惑が設計者をとらえてしまう。回路の電源電圧が24Vである場合、その10倍の耐圧を備えるダイオードは中型で高価なものとなる。逆耐電圧が電源電圧の2〜3倍でよいなら、小型で安価なダイオードが使用できることになる。
図1の回路では、小型のリレーを基板に取り付けて使用するつもりだった。念のためリレーのメーカーに、使いたいリレーの型番や使用条件、電源電圧などを連絡し、ダイオードとしては逆耐電圧が80Vのものでかまわないとの見解をもらった。そこで、逆耐電圧が低いダイオードを使って量産した。しかし、現場では多数の動作不良や部品の破損が発生することとなった。故障モードは、ダイオードD1の短絡または断線で、トランジスタQ1が破損していることもあった。その後、リレーの逆起電力を測定する実験を行ったところ、100Vを大きく超えるサージ電圧が確認された。このサージ電圧によってダイオードのブレークダウンと劣化が生じ、短絡や断線が起きたのだろう。恒久対策として、逆耐電圧が200Vを超える少し大きめのダイオードを使うことにしたところ、同様の問題は発生しなくなった。
リレーの逆起電力を甘く見てはならない。基板に搭載するリレーの場合でも逆耐電圧が回路の電源電圧の10倍以上のダイオードを、それ以外のケースでは20倍以上のダイオードを選択するほうが無難である。
なお、注意事項としてはもう1つ、サージが発生する部品に対して最短の配線でサージ吸収部品を接続することが挙げられる。
【追補】
この記事の掲載後に、複数の読者から記事の内容に誤りがあるのではないかとのご指摘をいただいた。ここでは、該当部分の訂正を行うとともに、不足していた情報も盛り込んで、改めて記事の内容をご説明する。
上記の記事では、「SWがオープンになったとき、リレーは電流を流し続けようとするので、リレーのコイルLRLの下側に、瞬間的にマイナスのサージ電圧が発生する」と記述した。ここでは、これが一般的な現象であるとして記述しているわけだが、通常の条件では、マイナスではなくプラスのサージ電圧が発生する。また、この記事で紹介した現象について、「リレーの逆起電力が原因である」としたが、読者のご指摘を参考にして検討を行った結果、別の原因が存在することもわかった。これらの点に関して、訂正させていただくとともに、読者を混乱させたことに対してお詫びを申し上げる。
ただし、この問題が発生した現場では、マイナスのサージ電圧が観測されたことは事実である。マイナスのサージ電圧が繰り返し発生し、リレーのサージ吸収用ダイオードが劣化して破損に至ったことに間違いはない。
記事には記述していなかったが、この回路では、コネクタCN1から同CN2までの間に10mから50mほどの長い配線が存在していた。そしてこの配線は、非常停止回路と連動して動作する装置/回路への電力供給用の配線(以下、電力線)と同じダクトに配置されていた。長い配線にはループが形成されているところなどがあって大きなインダクタンスが存在するとともに、電力線との間にも容量性の結合が存在したと考えられる。
このような条件下において、非常停止回路が作動すると、それに伴って周辺回路が動作し、それに連動して動作する装置/回路の電力線には大きな電流変化が生じた。その電流変化によって発生した非常に大きなノイズが、容量性/誘導性の結合によって長い配線に飛び込み、非常停止回路のリレーの部分でマイナスのサージ電圧として観測されたのであろう。つまり、マイナスのサージ電圧は、リレーの逆起電力ではなく、このような条件によって発生したのだと推測される。そして、最終的には、マイナスのサージ電圧によってリレーのサージ吸収用ダイオードが破損するという結果につながったのであろう。
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