過熱するミッドレンジオシロ市場:1GHz〜4GHz帯域品は充実一途(3/3 ページ)
ハイエンドのオシロスコープ市場では、“業界最高”の称号を得るべく、激しいスペック競争が繰り広げられている。しかし、多くのユーザーにとって現在いちばん注目すべきなのは、1GHz〜4GHzの帯域をサポートするミッドレンジ品であろう。実際、計測器メーカーは、このランクの製品についても注力しており、ユーザーには非常に幅広い選択肢が提供されるようになっている。
「使いやすさ」が鍵に
Tektronix社は、ミッドレンジ市場向けのオシロスコープ製品として、「DPO7000シリーズ」(写真4)や「MSO4000シリーズ」などを供給している。同社のLoberg氏は、「ユーザーは、価格、性能、使いやすさ、プローブの種類、ベンダーの専門技術といったすべての要素を吟味せずに、1つの主要な仕様や機能だけに注目してしまうことがよくある」と述べる。確かにすべての要素を検討する必要があるのだが、同氏はその中でも使いやすさを重要なポイントとして挙げる。「ミッドレンジのオシロスコープを選択する際には、使いやすいかどうかが非常に重要な検討項目になる。例えば、このクラスの多くの製品は、シリアルデコード機能を搭載している。この機能を利用すれば、共通のシリアルバスに送信されるトラフィックを、簡単な操作で直ちに把握できる」と同氏は述べる。
横河電機のTing氏もこれと同意見だ。「ユーザーインターフェースは、技術者にとっての生産性の観点からだけでなく、精神衛生上も非常に重要だ。直感的な操作が可能なインターフェース、メニューツリー、各操作用に最適化されたキー入力のすべてが、優れたユーザーエクスペリエンスにつながる」と同氏は述べる。その上で、「使いやすいかどうかは、多くの場合、使い慣れているかどうかに依存する」と同氏は指摘する。ベンダーはそれぞれ、自社の製品に独自のユーザーインターフェースを実装している。例えば横河電機のすべてのオシロスコープには、戻り止めの付いた内側のダイヤルと、バネ付きリングの付いた外側のダイヤルで構成されるジョグシャトルがある。「われわれのインターフェースに慣れているユーザーは、ほかのベンダーの製品に移行したくはないだろう。ほかのベンダーの製品を使用しているユーザーについても同じことが言える」とTing氏は述べる。
Agilent社のWoodward氏は、「Infiniium 9000が使いやすいのは、当社が多くの使用例を基に、基本的なところに大きな変更を加えることなく、継続的に改良を加えているからだ」と考えている。また、顧客に同社製のオシロスコープの使用感について尋ねると、「これからも、ユーザーインターフェースを変更しないでほしい」との答えが返ってくるという。Infiniium 9000から32GHzの最大リアルタイム帯域を誇るモデルに至るまで、Agilent社のオシロスコープは、すべて同一のソフトウエアアーキテクチャを採用している。
LeCroy社のDriver氏も、同社製品の使いやすさについて言及した。同氏は、タッチスクリーン、別個の波形を表示する複数のグリッド、画面上に矩形を描画して波形を拡大表示する機能など、「現在、使われている多くのユーザーインターフェース技術を最初に開発したのはわれわれだ」と主張する。その上で同氏は、「ユーザーインターフェースが期待したとおりに動作するものであれば、ユーザーは操作を覚えるための時間をデバッグに費やすことができる」と付け加える。Agilent社のWoodward氏と同様に、Driver氏も「当社のオシロスコープでは、帯域が400MHzのものでも30GHzのものでも、ユーザーインターフェースは同じだ」として、製品ライン全体を通してアーキテクチャに一貫性があることを強調した。
Tektronix社のLoberg氏も、「変化の激しい今日のテスト環境において、使いやすさと優れたユーザーインターフェースはますます重要になる。技術者は、操作に慣れるまでに時間をかけずに済む機器を必要としている。開発の現場では、ワークステーションベースの環境から計測装置を使用したテスト環境へと直行する場合が多い。技術者は、性能の評価や問題の解決を迅速に行いたいと考えている」と述べている。
しかし、使いやすさを売り込むのは容易ではない。「使いやすさは、ほかの機能と同様に重要な要素なのだが、残念ながら主観的なものだ」とDriver氏は説明する。「顧客がミッドレンジのオシロスコープを購入する際には、最初に主要な仕様項目を比較し、次に価格を比較して、最後に使いやすさを評価することが多い」と同氏は語る。横河電機のTing氏も、「使いやすさが選択時の主な要素となる可能性はあるが、それを具体的な価値として定量化するのは難しい」と述べている。
確かに、使いやすさを、帯域やチャンネル数のように具体的な数値で表すことはできない。ただ、Tektronix社のLoberg氏によると、同社は「あるタスク集合の実行という1つの観点に限ったものだが、使いやすさを定量化するための試みを行ったことがある」という。それは、ユーザーにテスト回路を提供し、MSO4000シリーズと競合他社のオシロスコープのそれぞれについて、オシロスコープの設定を行ってグリッチとラントを観測すること、トリガーを設定してラントを取り込むこと、波形を検索してすべてのラントを見つけ出すことの3つの作業を行ってもらうというものだった*2)。この調査からは、MSO4000シリーズを使用すると、他社品を使用する場合と比べて、デバッグ時間が53%短縮したという結果が得られたという。
選択時の注意点
主要な仕様項目についても、誤解が生じていることがある。「よくあるのは、帯域についての勘違いだ。評価/テストの対象とする信号のビットレートと同じ帯域の製品を求めようとする顧客が多い」とLeCroy社のDriver氏は述べる。その上で、「一般的な原則は、基本周波数の5倍以上、つまり5次高調波まで観測できる帯域の製品を選ぶべきだ」と同氏は説明する。
横河電機のTing氏も、このアドバイスに同意する。「5次高調波までの信号を取得できるオシロスコープであれば、通常は十分な精度のパルス信号を再現することができる」(同氏)という。また同氏は、「オシロスコープのサンプリングレート仕様は最大値であるという事実を見落としているユーザーもいる」と指摘する。実際のサンプリングレートは、メモリー深さと観測時間によって制限される。
LeCroy社のDriver氏は、技術者らへのアドバイスとして、「主要な仕様項目をチェックする際には、将来の要件についても検討するように」と述べる。その時点の予算の都合で、帯域の広いオシロスコープを購入できない場合には、アップグレードが可能な製品を購入することを同氏は勧めている。Agilent社のWoodward氏も同様のアドバイスを贈る。同社の1GHz帯域のモデルを購入すれば、将来より広い帯域のものが必要になったときに、2.5GHzまたは4GHzにアップグレードすることができるという。同様に、「デジタルチャンネルの追加も容易に行える」と同氏は語る。
帯域などの仕様が定まったら、データシート上でそれらの値を容易に比較することができる。そのほかの仕様は、定量化は可能であるものの、誤解を招きやすいものでもある。「ユーザーは波形の取得/更新レートが、トリガーで完全に取得することはできない間欠的な異常を検出する能力に直接関係するということに注意すべきだ」と横河電機のTing氏は述べた。
Frost&Sullivan社のBommakanti氏は、「2GHz帯域のオシロスコープの市場は、数%程度の安定した成長を見せる」と予測している。ミッドレンジ品の売上高の増加率は、ハイエンド品の増加率よりも緩やかだが、出荷台数は今後もミッドレンジ品のほうが多くなると考えられる。市場シェアの獲得を目指して、各ベンダーが機能/性能の向上に努めることが期待できよう。
脚注
※2…『進化する組み込み向け計測技術』(Rick Nelson、EDN Japan 2010年10月号、p.32)
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