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電圧リファレンスICを正しく選ぶデータシートでは、ここをチェック!(3/4 ページ)

電圧リファレンスICは、安定した固定電圧を必要とする電子回路を設計する上で必須のデバイスである。本稿では、まず、電圧リファレンスICの基本的な構成について概説する。その上で、ネオン放電管から最新のICに至るまで、電圧リファレンスに用いられる電子部品/ICの歴史をまとめる。さらに、電圧リファレンスICを選択するにあたって考慮すべき各種仕様について説明する。

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まずは初期精度に注目

 適切な電圧リファレンスICを選定し、設計している回路に適用するには、いくつかの仕様について理解しておかなければならない。まず、電圧リファレンスICの内部構造については気にする必要はない。ベンダーがICの内部をどのように設計しているかということよりも、そのICによってどのような仕様が実現されているのかを理解することのほうがはるかに重要である。

 次に、直列リファレンスとシャントリファレンスのうちどちらのタイプの電圧リファレンスICを用いるかを考えることになるだろう。ただし、その前に検討しておくべきことが1つある。それは、設計している回路にツェナーダイオードを利用することができるか否かということだ。とはいえ、ほとんどの場合、アナログICベンダーが提供する専用の電圧リファレンスICを使用するほうがよりよい結果を得られるであろう。また、消費電力を非常に小さくしたい場合には、フローティングゲートを利用したIntersil社の製品のような直列リファレンスを使用するべきである。ほかにも、米Linear Technology社は、動作電流が1μA未満という、バイポーラプロセスを用いた電圧リファレンスIC「LT6656」を供給している。

 その次に検討するのが、初期精度である。初期精度とは、はじめてICに電源を投入するときの、室温における精度のことである。電圧リファレンスICの中には、1個か2個の抵抗を追加することにより、出力電圧やシャント電圧を設定可能なものもある。これらの抵抗の精度とICの初期精度の組み合わせによって、出力電圧の総合的な初期精度が決まる。ただし、基本的には、ICの初期精度によって、どれだけ理想的な出力電圧が得られるかが決まると考えてもよいだろう。一般的には、1.2V〜12Vの間の固定電圧を出力できるようにICと部品を選ぶことになる。

 個別部品のツェナーダイオードやそれよりも古いタイプの電圧リファレンス用の部品を用いる場合、その精度は10%程度にしかならない。そのため、最終的に回路の校正や調整が必要となる。それに対し、Analog Devices社の「AD588」など最新の電圧リファレンスICは、ほぼ0.01%の初期精度を実現している。16ビット、18ビット、さらには20ビットもの分解能を備えるデータ取得システムでは、このような高い精度が必要になる。また、リチウムイオン電池などの2次電池を用いるシステムでも、高い初期精度を持つ電圧リファレンスICが必要となる。電池システムのメーカーは、リチウムイオン電池の充放電電圧を測定する際に、0.5%未満の総合精度を要件として規定していることが多い。従って、この0.5%未満という総合精度を保つには、電圧リファレンスICには0.2%程度の初期精度が求められることになる。

温度ドリフトと長期安定性

 初期精度について見極めたら、続いては出力電圧の温度ドリフトに関する検討を開始する。温度ドリフトとは、周囲温度の変化に伴ってICの出力電圧が変化する比率のことで、一般的に1℃当たりのppmという温度係数で表される。車載や軍事向けに用いられる電子回路のように、システムの動作温度が広範囲にわたる場合には、使用するICについてもその動作温度範囲全体で精度を検討しておかなければならない。

 ドリフトには、温度ドリフト以外に、時間の経過に伴う出力電圧の安定性を示す長期ドリフト(長期安定性)もある。多くのICは、動作開始後最初の6カ月間は出力電圧が完全には安定しない状態が続き、その後は時間の経過に伴って変動が小さくなるという特徴を持つ。システムの動作期間における精度をできるだけ一定に保ちたい場合には、システムのリファレンス電圧を望ましい範囲内に保つことができるような長期安定性を持つICを使用するべきだ。

 なお、複数のICの出力電圧を平均化して使用することにより、長期安定性に関する影響を低減するという手法も存在する*9)。ICの温度ドリフトと長期安定性を測定するための工程を追加するベンダーもあるが、そうした工程により、製造のための時間とコストは増加する。例えば、Analog Devices社は、電圧リファレンスIC「ADR425」について、50ppm/1000時間という長期安定性を保証するための試験を行っている。

 温度ドリフトと関連する仕様として、ヒステリシスという項目が挙げられる。ヒステリシスは、ICを熱してから元の温度に冷却した場合に、出力が変化する比率を表す。ベンダーは、この特性を、0℃〜50℃〜0℃といった温度変化に対するppm値で規定することが多い。

2つのレギュレーション

 電圧リファレンスICの仕様には、負荷(ロード)レギュレーションとラインレギュレーションというものがある。負荷レギュレーションとは、出力電流の変動に対する出力電圧の変動の比率のことである。一方、ラインレギュレーションとは、入力電圧の変動に対する出力電圧の変動の比率のことだ。負荷レギュレーションに関連するものとして、出力インピーダンスや過渡応答特性について検討を要する場合もある。

 システムに対して、電圧リファレンスICから過大な電流パルスが流れたとしても、出力電圧はある範囲内に保たれている必要がある。最新のA-DコンバータICの中には、負荷からの大きな過渡電流を引き込むことが可能なリファレンス入力を持つものもある。また、容量の大きいフィルタリング用のコンデンサを追加することによって、この問題を修正できる場合もあるが、電圧リファレンスICの出力電圧が不安定にならないように注意を払わなければならない。

 重要だが見落としがちな仕様に、電圧リファレンスICの起動時のセトリング時間がある。ICの出力は、起動した瞬間に、規定されている範囲内の値に落ち着くわけではない。このため、回路の起動後、数μsの間は測定や校正を行ってはならない。多くのIC/電子部品において、電源投入後のセトリング時間として10μs程度待つ必要があると規定されているが、電圧リファレンスICにも同様のことが当てはまるのである。

 ほかには、ノイズに関する仕様も重要である。先述したとおり、直列リファレンスには、オペアンプで出力をバッファリングするタイプのものがある。つまり、その出力電圧のノイズ特性は、オペアンプのノイズ特性に似ていると考えることができる。

 一般的な電子回路は、高周波領域のノイズの影響を強く受ける。しかし、電圧リファレンスICについては、直流出力を使用するものなので、低周波のノイズ成分の影響を受けやすい。そのため、多くのベンダーは、0.1Hz〜10Hzという低周波数範囲におけるピークツーピークの出力ノイズ電圧を、製品の仕様として規定している。

写真2 複数の電圧リファレンス回路を並列に配置したシステム
写真2 複数の電圧リファレンス回路を並列に配置したシステム 米KoepPrecisionStandards社の設立者の1人であるKennethKoep氏(故人)が設計したもの。このシステムでは、4個の電圧リファレンス回路を並列で用いている。電源からの電力供給が停止しても、電池の電力を利用することによりその動作を維持することができる。ツェナーダイオードを用いた電圧リファレンス回路が恒温槽に設置されているとともに、電圧リファレンス回路を4個並列に用いていることから、高精度かつ低ノイズの出力電圧を実現できる。

 出力に付加するコンデンサの容量を大きくすることで、この低周波数におけるノイズを低減することができるかもしれないが、電圧リファレンスIC自身の動作が不安定にならないよう注意する必要がある。すべてのオペアンプ回路がそうであるように、大きな容量性負荷を与えると発振の可能性が生じてしまうのだ。Analog Devices社のMoghimi氏は、「アナログ回路の設計者は、電圧リファレンスICのデータシートを、もっと注意深く読み込むべきだ」と指摘する。続けて、同氏は、「電圧リファレンスICに大容量のコンデンサを接続してもかまわないと考えている顧客がいまだにいる。そのような設計は、仮に安定性の問題を引き起こさなかったとしても、温度ドリフトを悪化させる可能性がある」とも述べている。

 ノイズを低減するためのもう1つの方法は、複数の電圧リファレンスICを並列に配列して、その出力電圧を加算することである。ノイズはランダムに発生する現象であり、各電圧リファレンスICのノイズは、二乗平均平方根(root/mean/square:rms)で表す性質のものとなる。10個の電圧リファレンスICを並列で用いれば、ノイズが平均化されることにより、出力電圧のノイズを3桁以上低減できる可能性がある(写真2)。また、Linear Technology社の「LTC6655」をはじめとする最新の電圧リファレンスICのように、0.1Hz〜10Hzにおけるノイズの値が0.625μVppと非常に小さく抑えられているものもある。


脚注

※9…Pease, Bob, "What's All This Long-Term Stability Stuff, Anyhow?" Electronic Design, July 20, 2010, http://bit.ly/d22cBz.


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