電圧リファレンスICを正しく選ぶ:データシートでは、ここをチェック!(4/4 ページ)
電圧リファレンスICは、安定した固定電圧を必要とする電子回路を設計する上で必須のデバイスである。本稿では、まず、電圧リファレンスICの基本的な構成について概説する。その上で、ネオン放電管から最新のICに至るまで、電圧リファレンスに用いられる電子部品/ICの歴史をまとめる。さらに、電圧リファレンスICを選択するにあたって考慮すべき各種仕様について説明する。
電源電圧変動の除去
ほかのすべてのアナログICと同様に、電圧リファレンスICでもPSRR(Power Supply Rejection Ratio:電源電圧変動除去比)特性が重要な評価指標となっている。PSRRは、アナログICが、ノイズなどの影響による電源電圧の変動を除去できる比率(出力に現れる影響の度合い)を示す値である。現在では、電圧リファレンスICへの電源供給手法として、ノイズ源ともなり得るスイッチングレギュレータを使用することが多い。このため、PSRRは重要な仕様だと言えるだろう。
ベンダーは、PSRRを、直流またはある周波数範囲における電圧比のデシベル値で規定することが多い。一般的に、PSRRは、周波数が大きくなればなるほど小さくなる。そして、周波数が1MHzになるとほとんどの電圧リファレンスICではPSRRが20dB以下になってしまう。電圧リファレンスICの電源として、高い周波数で動作するスイッチングレギュレータを用いる場合には、高周波におけるPSRR性能が低いことを勘案して、電源のリップルやノイズが電圧リファレンスICの出力に影響を与えることがないように注意する必要がある。なお、電圧リファレンスICに対するスイッチング電源の出力に、プリレギュレータとしてリニアレギュレータを配置することにより、このような問題を修正することができる場合が多い。また、RC(Resistance/Capacitance)フィルタ、もしくはRLC(Resistance/Inductance/Capacitance)フィルタを、電圧リファレンスICの入力電圧端子の直前に配置する手法でも対応できる。この手法であれば、電圧リファレンスICの出力に高周波ノイズが生じることを防ぐことも可能だ。
回路設計を行う際に、電圧リファレンス回路のSPICEモデルを使用する技術者もいるが、そうしたモデルの品質はさまざまであることを覚えておくべきだ。例えば、Analog Devices社は、ここまで挙げてきたほぼすべての仕様に関する影響を取り入れたモデルを用意している。一方、電圧リファレンスICのモデル化にまったく対応していないベンダーもある。
もし、SPICEモデルを利用して回路設計を行うのであれば、関係するすべての仕様をモデルに取り入れておくべきだ。また、電圧リファレンスICの精度の上限を見極めるには、モンテカルロ解析を実行する必要があるかもしれない。
システム設計とのトレードオフ
電圧リファレンスICの精度とノイズは、システム設計における各種トレードオフ項目で重要な要素となる。ここでは、ほとんどの液晶ディスプレイテレビで採用されている、D級アンプを用いたオーディオサブシステムを例にとって説明しよう。
D級アンプは、従来型のAB級アンプよりも効率が良いと言われている。その一方で、D級アンプには、スイッチング回路を利用することからPSRRが低いという欠点がある。そのため、より品質の高い高価な電源が必要になったり、電源電圧の変化に起因する誤差を修正するためのフィードバックループを備える、より高価なD級アンプが必要になったりすることもある。
このD級アンプにおけるトレードオフは、電圧リファレンスICの選定にも直接影響を与える。もし、オーディオシステムにおいて、高価な電圧リファレンスICを用いた高品質な電源を利用できるのであれば、D級アンプとしては安価な製品を使用することができる。一方、フィードバックループ付きでPSRRの高いD級アンプICを使用すれば、安価な電圧リファレンスICを用いた電源を利用できるので、システム全体をより低コストで製造できるかもしれない。
このようなトレードオフは、時間の経過による技術の進展や各IC/部品の製造コストの低減、そしてオーディオシステムを搭載する液晶ディスプレイテレビに対する消費電力やコストの要件によって変化していく。ただし、一般的な傾向として、量産製品を製造する場合には、より高価な電圧リファレンスICを使用するほうが、機器内部のサブシステムのコストや、工場における校正/試験のコストを低減できる可能性が高いと言えるだろう。
初期精度の検討はスタート地点
アナログ回路の設計が常に複雑であるのと同様に、電圧リファレンスICの選択も思ったよりも複雑な作業である。端子は2〜3本しかないのにもかかわらず、品質に影響を与える仕様が数多く存在する。表1に、米Cirrus Logic社の「VRE3050J」、Maxim社の「MAX6250AE」、Analog Devices社の「ADR293E」という3種の電圧リファレンスICの仕様を示した。これらのすべての仕様と、その重要性について理解しておく必要がある。懸念があるならば、電圧リファンレスICやデータコンバータICのベンダーのアプリケーションエンジニアリング部門に問い合わせるとよい。彼らは、電圧リファレンスICの利用における複雑な問題が理解できるように、喜んで支援してくれるだろう。
電圧リファレンスICを選択する上で、初期精度に関する検討は単なるスタート地点にすぎない。実際の精度は、時間、温度、電源品質をはじめ、多くの要因に依存して変動する。このことに鑑みて、量産段階に入ってからも機器の動作に問題が生じないよう、電圧リファレンスICの誤差の範囲について検討しておく必要があるだろう。そのような準備を行っておけば、電圧リファレンスICを適切に動作させるためのECO(Engineering Change Order:設計変更命令)を、あわてることなく実施することができるはずだ。
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