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商品化を意識した「無効電力を利用するLED照明」の回路設計Wired, Weird(1/2 ページ)

「無効電力を利用するLED照明」は、商品化を考慮するとまだ安全面などに問題がある。そこで今回は、安全対策をはじめとする、商品化のために改良した回路設計の結果について報告する。

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 これまで紹介してきた無効電力を利用するLED照明は、商品化を考慮するとまだいくつかの問題が存在する。今回は、これらの問題を解決する安全対策に代表される、商品化のための取り組みを紹介しよう。

 このLED照明の問題は、電源回路の入力側で、LED電流の数十倍もの充電電流が流れている点にある。LED電流が100mAの場合、AC100Vから2Aもの電流が瞬間的に流れて、電源回路の電解コンデンサを充電するのだ。電流値が大きいため、FETや電解コンデンサは発熱しやすくなる。LED電流がさらに大きいと、最悪の場合FETが過電流で発熱し、この熱でFETのドレインとソース間が短絡破損する。こうなってしまうと、電圧を制御できなくなるので、DC140Vもの電圧がLED素子に印加され、最終的にはプリント基板が焼損してしまう。これではLED照明が火災事故の火元になりかねない。

 実際に、このLED照明のバリエーションを試作したときにこの現象が発生した。具体的には、LED照明を薄型化するために、表面実装(SMT)タイプのFETで評価を行っているときに発生した。その後、インターンシップの研修生によるLED照明製作の実習でも配線ミスによる問題が発生したが、このときは一般的な放熱板付きのFETを用いたのでFETは短絡破損せずLEDとトランジスタが破損するだけで済んだ。

 研修生の失敗からは、プリント基板の焼損という問題を解決するための糸口を見いだすことができた。焼損防止のポイントは、充電回路に電流リミットを設けることにあったのである。

 図1は、無効電力を利用するLED照明を商品化するために改良した回路図(LED素子数は60個に増やした)である。

図1 商品化のために改良した無効電力を利用するLED照明の回路図
図1 商品化のために改良した無効電力を利用するLED照明の回路図

 充電回路に電流リミットを設けるために導入したのが、電解コンデンサの充電電流を監視するトランジスタQ3を中心とする過電流保護回路である。同回路の動作は次のようになっている。AC整流電圧が、電解コンデンサC2の電圧より6V程度高くなると、FETのQ2がオンになって充電抵抗R5を介してコンデンサC3への充電が始まる。充電電流が小さいときは電流を監視するQ3のベース電圧が低いのでQ3はオフになっている。

 一方、充電電流が大きくなってR5の電圧が12Vを越える(このときの充電電流は約2.5A)と、抵抗R6とR7の比によりQ3のベース電圧が0.5V程度になって、Q3のベースに電流が流れ始める。そして、Q3のコレクタ電圧が下がり、Q2のゲート電圧も下がるので、充電電流が制限されることになる。充電電流が制限されると、Q2のオン時間が長くなりコンデンサへの充電時間も長くなる。つまり、充電電流が大きくなると電流リミットがかかって、電解コンデンサへの充電時間が長くなり、LED照明の電源が確保されるという寸法である。

 AC整流電圧がさらに高くなった場合には、トランジスタQ1がオンになって、Q2はゲート電圧が低下しオフ状態になる。これにより、C2とC3への充電も停止する。

 回路の大きな変更点は、C3に接続するR5の位置変更と、電流を監視するトランジスタQ3の追加の2点である。従来の回路では、電解コンデンサの+側にR5を配置していた。このR5に流れる充電電流をQ3が監視しており、充電電流が一定の値を超えると、Q3のコレクタによりQ2のゲート電圧を制御する。

 この回路の電力を確認してみよう。まず、FETが5Vのゲート電圧でオンする場合は、ドレイン‐ソース間電圧はその2倍の10V程度になり、5%程度のデューティ比で3A程度のパルス電流が流れる。このときの電力は、10V×3A×5%=1.5Wと計算できるので、FETには小さな放熱板が必要になる。もしゲート電圧が2.5VでオンするFETであれば、電力は半分の0.75W程度に減少し、FETからの放熱は基板パターンの放熱面積を広げることで対処できるようになる。つまり、FETの発熱を小さくするには、ゲート電圧の低いものを選べばよい。実際に使用したのは、ゲート電圧が比較的低く、電力容量が大きめの、東芝の「TK8AxxDAシリーズ」である。

図2 LED照明回路の電圧波形
図2 LED照明回路の電圧波形 (a)はLED照明の電源電圧をDC42Vにしたとき、(b)はDC52Vにしたときの電圧波形である。それぞれ、抵抗R5にかかる電圧の波形を黄色で、FET Q2のゲート電圧の波形を青色で示している。

 図2では抵抗R5にかかる電圧の波形を黄色で、FET Q2のゲート電圧の波形を青色で示している。図2(a)の黄色で示した波形は、LED照明の電源電圧をDC42Vに設定して点灯させたときの電解コンデンサC3への充電電流に比例している。充電電流は2Aで、デューティ比は5.2%である。

 電解コンデンサC2の電圧よりAC整流電圧が高くなると電解コンデンサC3へ充電を開始し、さらにAC整流電圧が高くなると青色の波形で示すQ2のゲート電圧はトランジスタQ1により0Vに下げられるので、FETはオフ状態になりC3への充電は停止する。

 図2(b)は、電源電圧を52Vまで上げてLED照明の輝度を高めた場合の波形で、充電電流は2.4A、デューティ比は6%になっている。負荷を大きくすると電流は大きくなるが、電流リミットがかかって充電時間が長くなり、LED電圧が確保されるという動作になっている。

 このように充電電流を制限する過電流保護回路を組み込むことにより、多少負荷が変動してもプリント基板の焼損が起こらない、安心して利用できるLED照明を実現できた。

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