商品化を意識した「無効電力を利用するLED照明」の回路設計:Wired, Weird(2/2 ページ)
「無効電力を利用するLED照明」は、商品化を考慮するとまだ安全面などに問題がある。そこで今回は、安全対策をはじめとする、商品化のために改良した回路設計の結果について報告する。
電源回路における負荷短絡の検証
図3に示したLED照明の電流‐電圧特性からは、負荷が大きくなって出力電流が増えると、出力電圧が徐々に低下してしまうことが分かる。そこで、LED照明の安全面で重要になるであろう負荷短絡について検証してみた。もし、LED照明の電源回路が誤って短絡された場合にどのような現象が発生するのだろうか?
まず、電解コンデンサC2とC3の電圧が上がらなくなるため、FETは整流電圧が低い状態でもオンになる。充電電流は過電流保護回路により約2.5Aに制限されるので、整流電圧が12Vを超えて約60Vに達するまでの間、抵抗R5には2.5Aの電流が流れる。
図2(b)の波形から推測すると、約2.2msの間にこの制限電流が流れる。このとき、抵抗R5にかかる電力は、2.5A×2.5A×4.7Ω×(2.2ms/8ms)=8Wになる。なお、通常動作におけるR5の電力は、図2(a)の電流波形を三角波形と考えると2A×2A×4.7Ω×5.2%×1/2=0.75W程度となる。
R5に、2W程度の電力容量を持つ抵抗を選択しておけば、負荷短絡時には8Wの電力がかかるので、この抵抗がヒューズ代わりに切れることになる。とはいえ、焼損が起こるのは好ましくないので、R5にサーモスタットなどを取り付けて電源を切るか、端子電圧が12V程度になった時点で、サイリスタSCRによって出力電圧を遮断するのがベストである。
2012年7月からは、LED照明にも安全規格が適用される。安全を意識した製品設計と、問題のある製品の流通を阻むような審査制度は必須であろう。
最後に、これまで5回に分けて紹介してきた無効電力を有効利用するLED照明について、筆者の考え方をまとめてみたい(第1回の記事)。
LED照明は力率に関する規格や規定がない。このため、安価で簡易なつくりの製品は、力率を犠牲にしていることが多い。力率が低いLED照明の市場導入が進んでしまうと、数年後にはLED照明から生じる無効電力によって電源環境が悪化しかねない。こういった無効電力を有効利用するという考え方は電源環境の向上に一定の効果が得られるだろう。微小電力や小電力の電子機器の製品設計では、これと同じ心構えを持っていて欲しい。
この考え方を応用すれば、家庭用電源において疑似的な力率改善(PFC)の仕組みを導入できる。例えば、AC電源の電圧を10V/20V/30V/40V/50V/60Vに分ければ、電流を均等に消費させることが可能になる。10Vや20VのAC電源は蓄電池の充電用電源として用い、30〜60VまではLED素子の数に合わせたLED照明の電源に使用するといった利用法が考えられる。
このように、システム的な電源設計の考え方を持ち合わせていなければ、真に環境に優しいLED照明の実現は難しいのではなかろうか。
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