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2012年期待のエレクトロニクス技術(近未来ガジェット編)EDN/EE Times編集部が展望する(4/4 ページ)

米国EDN/EE Timesの編集部が、2012年の発展を期待するエレクトロニクス技術をピックアップ。第2回は、医療、携帯オーディオ、自動車という3つの機器分野について、各担当編集者の展望をお届けする。

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カーエレは音声認識と電動パワトレに注目

 カーエレクトロニクス分野で筆者が注目しているのが、音声認識機能を備えた車載情報機器と、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)に搭載されている電動パワートレインである。2012年は、音声認識機能が他社ブランドと差異化するための手段としてさらに広く認知され、電動パワートレインはより多くの車種に搭載されるだろう。

 ただし、コスト低減が高い優先度になっている自動車業界の開発現場では、、必ずしも最先端の電子機器が搭載されるわけではないことを覚えておいてほしい。100万台の車両に搭載するECU(電子制御ユニット)のコストをわずか1米ドル節約するだけでも、最終的な収益を高める効果は大きい。そして、車載システムの完成度と成熟度が高まるほど、故障のリスクやそれに伴う高額な賠償金を削減できるのである。

 車線逸脱警報(LDW)やアダプティブクルーズコントロール(ACC)といった新技術は、それらに対する割増価格を支払うことをいとわない(しかも財力がある)人々向けの高級車にまず搭載される。その高級車の生産量の増加に伴って新技術に関連する車載システムのコストは徐々に低下する。そして、一定以下のコストを見込めるようになれば、新技術はより低価格の車種に搭載できるようになる。自動車業界における新技術の浸透は、こういったプロセスを経るのが一般的だ。

 とはいえ数少ない例外もある。Ford Motorは2007年、若年層が初めて購入するような普及価格帯の車種に音声認識機能を取り入れた車載情報機器「SYNC」を導入したのだ。その効果ははっきりと表れており、SYNCを搭載可能な車種の購入者の約80%がSYNCの搭載を希望しているという。

 SYNCの音声認識機能は、FordとNuance Communicationsが共同で開発した。最大の特徴は、ある1つの機能を動作させるのに使える音声コマンドを豊富に用意したことである。これにより、Ford車の購入者は、最小限の“トレーニング”でSYNCを利用できるわけだ。

 米国市場で販売される車両の評価ランキングで知られるConsumer Reports誌の試験担当ディレクターを務めるDavid Champion氏も、SYNCに対して高い評価を与えている。Champion氏は、「シンプルな音声コマンドで複雑な機能を制御できるので、ドライバーのイライラを低減する効果がある」と述べている。

 しかしながら、音声認識に対応しない機能を操作するためにダッシュボードの中央にタッチパネルを組み込んでいる次世代型インタフェース「MyFord Touch」は、厳しい評価を受けた。Fordは、システムを改善することで悪い評価を覆そうと懸命だ。「応答速度、グラフィックス、安定性、使いやすさ、全てが改善されるような、システムソフトウェアのアップグレードに期待している」(同氏)という。

 2011年の米国市場では、EV、HEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)といった電動パワートレインを搭載する車種が複数登場した。2012年は、さらに多くの車種に電動パワートレインが搭載されるようになるだろう。

図4 「Buick LaCrosse」に採用されたハイブリッドシステム「eAssist」
図4 「Buick LaCrosse」に採用されたハイブリッドシステム「eAssist」 リチウムイオン電池パックは、日立ビークルエナジー製の電池セルを32個用いている。

 例えば2011年11月にGeneral Motorsが発売した大型セダン「Buick LaCrosse」は、同社が「eAssist」と呼ぶ電動パワートレインを搭載するHEVモデルがある。eAssistは、容量が0.5kWhのリチウムイオン電池パック(約29kg)と、15kW出力(15馬力)の水冷モーターから成る(図4)。モーターは、7本溝のベルトによりエンジンとトランスミッションに接続されており、走行時の動力アシストだけでなく、ブレーキによるエネルギー回生用の発電機としても機能している。GMの中型セダン「Buick Regal」や「Chevrolet Malibu」の新モデルにも、eAssistが採用される見込みだ。

 Buick LaCrosse のHEVモデルは、eAssistを搭載しないV型6気筒エンジン(V6)モデルと同一の価格(配送料込みで3万,620米ドル)で販売されている。パワートレインの出力はHEVモデルの182馬力と比べてV6モデルが303馬力と圧倒している。その一方で、ガソリン1ガロンで走行できるマイル数(mpg)は、HEVモデルが25mpg(市街地)/36mpg(高速道路)であるのに対して、V6モデルは17mpg(市街地)/27mpg(高速道路)となっている。同社の前輪駆動ハイブリッドシステム開発プログラムで車両性能マネージャを務めるAl Houtman氏は、「eAssistの制御アルゴリズムは、『Chevrolet Volt』のプラグインハイブリッドシステム向けに開発されたものをベースにしている」と説明する。

 これまで、電動パワートレインを搭載する車両は、そのための追加コストや、二次電池のエネルギー密度に依存する走行距離の少なさが不評の原因になっていた。コストについては生産量の増加により減少するだろう。しかし、化学的性質の限界に直面している二次電池のエネルギー密度は、徐々にしか改善しないとみられる。ナノテクノロジーの導入によって、エネルギー密度だけでなく入力/出力密度も大幅に改善されるような展開を期待したい。

 もう一つ、2012年の自動車業界で注目すべきことは、米国で新たに販売されるSUV(スポーツ多目的車)やバン、ピックアップトラックを含めたすべての乗用車に、横滑り防止装置(ESC)の搭載が義務化されることだ。Consumer Reports誌のChampion氏は、「ESCが搭載されていない車両を20才以下の若者に運転させるべきではない」と語っている。おそらく、ESCは3点式シートベルトの登場以降、最も重要な安全システムになると予想される。

 2012年以降になるだろうが、将来的には自律運転機能が実現するだろう。Daimlerの「Mercedes Benz」ブランドは、自律運転機能と深い関わりを持つACCや自動ブレーキなどのシステムを搭載した車種を発表している。自律運転機能は、間もなく定年に達するベビーブーム世代に広く受け入れられるべきだ。なぜなら、自律運転機能により、運転技術が衰えてきたその世代の人々でも自動車を利用できるようになり、彼らが大切にしている自由や独立性を持ち続けられるからだ。

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