ESD/イミュニティ試験の基礎をつかむ:デバイスレベルとシステムレベルで異なる(1/4 ページ)
電子機器の動作にさまざまな影響を与えるESD(静電気放電)への対策を講じるには、ESDの試験法について理解しておく必要がある。本稿では、デバイスレベルとシステムレベルに分けてESD試験の手法を説明する。また、産業用機器の開発で利用する機会の多いイミュニティ(耐性)試験も紹介する。
膨大な損失をもたらすESD
ESD(Electrostatic Discharge:静電気放電)は、異なる電位にある2つの物体の間で電流が一時的/瞬間的に流れる現象である。装置の動作不具合やネットワークの断絶を引き起こす大きな要因となっており、その結果として年間数千万米ドルにも及ぶ生産機会の喪失をもたらしている。民生用携帯機器から自動製造システム、プロセス制御システム、軍事/航空宇宙向けといったあらゆる電子機器を製造するメーカーは、機器設計の際に適切なESD対策を要求される。またESDには、市場ごとに異なる要件があり、それらに対応しようと多数の試験規格が策定されている。
ESD試験を行うには、主要な規格の内容やデバイスレベルとシステムレベルの差異を理解しておかなければならない。なお、ESD試験の結果を受けて導入する保護回路には、ステアリングダイオードアレイ、TVS(過渡電圧サプレッサー)ダイオード、あるいはツエナーダイオードなど、使用するダイオードによって方式が異なる。とはいえ、どの保護方式を選定したとしても、最終的にはEMI(Electromagnetic Interference:電磁干渉)試験や保護回路自体の試験を行う必要がある。
3つのデバイスレベル試験
ESD試験には、ICや電子部品など個別のデバイスを対象にしたデバイスレベル試験と、機器そのものを対象にしたシステムレベル試験が存在する。まず、デバイスレベル試験のうち、HBM、MMおよびCDMという3つの代表的な試験法について解説しよう。
■HBM試験
HBM(Human Body Model:人体モデル)に基づくデバイスレベル試験は、人体に蓄積した電荷が人体から電子部品に放電する現象を模擬するもので、最も一般的なESD試験として知られている。この現象は、例えば人が靴下を履いてカーペット上を歩き回って身体に電荷を蓄積した状態で、IC/電子部品に接触した際に起きる。HBMから発生するESDの破壊モードは、接合の破壊、金属(イオン)の侵入、配線層などの金属層の溶融、局部的な絶縁破壊、ゲート酸化膜の破壊などである。
HBM試験では、100pFのコンデンサと1MΩの充電用抵抗に直列に接続した高電圧電源を用いる。コンデンサを満充電の状態にしてからスイッチを使って高電圧電源と1MΩ抵抗から切り離し、1.5kΩの放電用抵抗を介してDUT(Device under Test、試験対象デバイス)に接続する(図1)。高電圧電源の電圧は、試験レベルに応じて0.5〜1.5kVの範囲で設定する。
図2に、HBM試験でDUTに流れる電流の代表的なオシロスコープ波形を示す。コンデンサから放電を開始すると、電流値は最大1.4〜1.5Aまで上昇してから徐々に減衰し、約500ns後に0になる。このような通常のHBM試験でDUTに印加される最大電力は、最大電圧×最大電流から求めることができる。一般的には、1回の試験につき最大電力は22.5kWに達する。
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