ESD/イミュニティ試験の基礎をつかむ:デバイスレベルとシステムレベルで異なる(4/4 ページ)
電子機器の動作にさまざまな影響を与えるESD(静電気放電)への対策を講じるには、ESDの試験法について理解しておく必要がある。本稿では、デバイスレベルとシステムレベルに分けてESD試験の手法を説明する。また、産業用機器の開発で利用する機会の多いイミュニティ(耐性)試験も紹介する。
■サージイミュニティ試験
サージイミュニティ試験は、雷試験とも呼ばれ、IEC61000‐4‐5で規格化されている。印加するサージの電流レベルや周期を考慮すると、最も厳しいシステムレベルのイミュニティ試験と言えよう。多くの場合、長さが30m以上の信号ライン及び電源ラインに適用される。サージイミュニティ試験は、落雷の直撃による過渡現象や、落雷の影響によってその周辺で誘起されるサージ電圧/電流、あるいは負荷の急変や短絡を含む電力システムのスイッチング過渡現象などを模擬する。
IEC61000‐4‐5では、開放時(Open Circuit)と短絡時(Short Circuit)で異なる波形のサージを出力するサージ発生器を用いる。短絡時のピーク電流に対する開放時のピーク電圧の比率が、サージ発生機の出力インピーダンスになる。出力インピーダンスが低いことによって得られる大電流と、ESDイミュニティ試験やEFTイミュニティ試験と比べて約1000倍にもなるパルス幅、つまりパルスのエネルギーが高いことがこの試験の特徴である(図12)。
この試験では、5回のサージパルスを1分以内で印加する。サージパルスの印加は正および負の値、両方とも行う。一般的な手順ではパルス間隔が12秒に短縮されるので、全体の試験時間は2分間以下になる(図13)。このような条件では、パルス間隔の時間内に保護回路が十分に復帰できないため、サージの影響が増強される。ただし、試験コストを抑えることが可能だ。
民生用機器はESD、産業用機器はEFT/サージ
なお、ESDイミュニティ試験と、EFTイミュニティ試験/サージイミュニティ試験では、対象とする機器分野が異なる。民生用機器では、ケーブル接続などに用いるコネクタ端子を介して人体が電子機器の内部回路に接触する機会が多いことから、ESDイミュニティ試験の重要度が高い。
一方、産業用機器の場合は、ESDイミュニティ試験よりもEFTイミュニティ試験/サージイミュニティ試験を重視する傾向がある。産業用機器は、モーターや誘導性スイッチング負荷から常時印加されている過渡現象の方が、ESDよりもリスクとして大きいからだ。産業用機器の内部回路に人体が接触する機会は、システムの組み立てや修理調整の時だけ存在している上に、その際にも静電気防止策が講じられているからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ESD対策新時代
携帯電話端末に代表される電子機器の高速化、低消費電力化などに対応するために、新しいデバイス構造を採用した製品の開発が進んでいる。しかし、そうした構造はESDに対し脆弱であることが確認されており、従来の手法では不十分となってきた。本稿では、新たなデバイス構造にも対応可能な最新のESD保護回路設計についてまとめる。 - ESD保護デバイスの性能を見極める
電子機器におけるESD対策は、今も昔も変わりなく、設計者にとっての大きな課題である。今日では、最終製品において、従来よりも高いESD耐性が求められるケースも少なくない。しかし、やみくもにESD保護デバイスを追加してもコストの上昇を招くだけだ。そうならないためには、ESD保護デバイスの性能を正しく評価し、必要十分な保護を適用する必要がある。 - RFノイズの侵入を阻め!
携帯電話は電波をやりとりする代表的なシステムである。これが電磁波ノイズの原因となることは容易に想像がつく。しかし、実際にはインバータ方式の蛍光灯といった機器ですら、ほかの電子機器を誤動作させる電磁波ノイズの発生源となり得る。本稿では、RFノイズによって電子機器にどのような症状が起きるのか、またノイズ耐性(イミュニティ)を高める手法はどのようなものになるのかを解説する。