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コラム

「壊れない電子部品」という迷信Wired, Weird(1/3 ページ)

フォトカプラは、初期不良と経年劣化以外の要因で不具合を起こすことがないと信じられている。しかし筆者は、この“壊れるはずがない電子部品”に起因する製品の不具合を何度か体験している。最近になって、その不具合発生プロセスを解明できたので紹介しよう。

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 筆者は、電気/電子機器の設計と不具合解析に長年携わってきた。発生した不具合の原因はほとんど全て究明してきたし、それらの不具合に対する再発防止策についても十分な成果をあげてきたという自負がある。

 しかし、かつて一度だけ遭遇した不具合で、原因を究明できず、もちろん再発防止策を講じることもできなかった事例がある。それは、初期不良と経年劣化以外の要因で不具合を起こすことがないと信じられているフォトカプラを使った製品で発生した。過去の故障事例を調べたところ、この“壊れるはずがない電子部品が壊れる”という不具合を3件見つけることができ、いずれも原因は究明されていなかった。

 今回、別の製品のフォトカプラで同様の不具合が発生したこともあり、ついに“壊れるはずがない電子部品が壊れる”原因を究明することができた。かなり難解ではあるものの、フォトカプラは極めて重要な電子部品なので、詳しく紹介したい。

図1 フォトカプラに不具合が発生した製品の回路図
図1 フォトカプラに不具合が発生した製品の回路図

 図1は、不具合が発生したフォトカプラを搭載していた製品の回路図である。センサーの入力信号を絶縁する一般的なフォトカプラの応用回路だ。以下に、簡単に動作を説明しよう。INコネクタの1-2ピンをオンすると、フォトカプラPC1内のLEDチップに約5mAの電流が流れて点灯する。このLEDチップの光を、同じくPC1内に組み込まれているフォトトランジスタに照射すると、約0.5mAの負荷電流が流れて、OUT出力がローレベルになる。つまり、入力信号を絶縁して出力に伝える回路として動作していたわけだ。

 PC1内のLEDチップには、保護ダイオードD1と電流制限抵抗R1を接続していた。また、PC1の電流変換効率(CTR)の保証値は50%以上600%未満だが、実際にはこれよりもかなり低い10%程度で運用していたので十分な余裕度が確保されている。

 不具合が発生したフォトカプラの故障の原因はLEDチップ側にあった。しかし、INコネクタのセンサーラインでサージ電圧が発生したとしても、PC1のLEDチップに印加される電流の値はR1で制限されているし、電圧はD1とLEDチップが互いに保護し合っているので、外部ノイズによりPC1のLEDチップが破損することは有り得ないはずである。これまでの不具合事例では、残念ながら不良解析を行っておらず、不具合の発生した部品は全て廃棄されてしまっていた。ただし、不具合が発生した時期が、製品を出荷してから3カ月以内という共通点が存在することだけは分かっていた。「経年劣化するまでに何年もかかるフォトカプラが、何故このような短期間で壊れてしまうのか」――この疑問はずっと頭の隅に残っていた。

 最近になって、ある製品に搭載したフォトカプラが短期間で壊れてしまったという不具合案件に遭遇した。多数のフォトカプラを実装した基板が、出荷から1カ月程度で不良品として返却されてきたのである。図1と同じくセンサーの入力回路にフォトカプラを利用しており、フォトカプラのLEDチップに流す電流は約3mA、フォトトランジスタからの出力電流は約0.3mAだった。

 不良を起こしたプリント基板を受け取って、早速マルチメーターのダイオードモードでフォトカプラのLEDチップのVFを測定した。正常品の場合は0.9V程度を示すところ、不良基板のフォトカプラはオープンであった。フォトカプラのLEDチップは定格電力の小さい赤外LEDが使用されており、約10mAの電流を流すとVFは1.1V程度になる。先述した測定では、0.1mAの電流を流してVFを測定していたので、正常品のVFの0.9Vは妥当な値である。不良基板には、同じような回路が50個あったため、全てのフォトカプラを調べたところ、もう1カ所不良が見つかった。しかし、不良が発生したフォトカプラに接続した保護用の抵抗とダイオードはいずれも正常だった。

 フォトカプラのLEDチップの不具合を原因究明するために、基板にフォトカプラを実装したままの状態で、X線基板検査装置でフォトカプラの内部構造を観察した。基板の上面方向からしか観察できなかったものの、正常品と比較すると不良品のLEDチップは少し浮き上がっているように見えた。そこで、不良状態の詳細を確認するために、フォトカプラを基板から外して部品単体をX線基板検査装置で拡大観察したところ、想定外の驚くべきことが判明した。

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