重要3大部品の1つ、 コンデンサのルーツと基本機能:よく分かる! コンデンサの仕組みと働き(1)(1/3 ページ)
本連載は、TDKホームページのテクマグ「コンデンサ・ワールド」から抜粋・再構成したものです。電子回路の基本を構成するコンデンサについて、その仕組みと働きを全3回シリーズで解説します。
はじめに
エレクトロニクス社会は多種多様そして膨大な数の電子部品によって支えられています。このうち、抵抗、コンデンサ、コイルを3大受動部品といいます。トランジスタ、IC、LSIなどの能動部品の脇役のような存在ですが、電子回路の基本を構成する重要部品です。
中でも多彩な活躍をしているのはコンデンサです。例えば、携帯電話には200〜300個ものコンデンサが使われています。携帯電話、ノートパソコン、携帯デジタルオーディオプレーヤなど、今日のモバイル時代は受動部品であるコンデンサの小型化が切り開いたといって過言ではありません。また、コンデンサの機能を知ることは、電子回路を理解するうえでの第一歩です。
というわけで、今回より全3回にわたり、電子部品の陰の主役ともいうべきコンデンサについてご紹介します。
コンデンサのルーツは摩擦電気をためる蓄電びん
コンデンサは蓄電器と訳されますが、濃縮牛乳をコンデンスミルクというように、コンデンサはもともと凝縮器という意味を持っています。昔は電気といえば、摩擦電気(静電気)しか知られていませんでした。エレクトリシティ(電気)の語源はこはく(琥珀、虎魄)です。琥珀は松ヤニのような樹木の樹脂が化石化したもので、いわば天然のプラスチックです。
プラスチックが静電気を発生しやすいように、琥珀を摩擦すると静電気が発生してチリや灰を吸い付けます。電気の正体は分からなかったものの、この不思議な作用を西洋ではエレクトリシティと名付けたのです。
従ってエレクトリシティをあえて直訳すれば“琥珀気・琥珀性”ということになります。江戸時代の日本では電気力に“虎魄力・魄力”という訳語が当てられたこともあります。中国でも「琥珀塵(ちり)を吸うも穢(けが)れを吸わず」という格言があります(出展:『三国志・呉志』)。洋の東西を問わず、摩擦電気は古くから知られていた現象だったのです。
電気現象が科学的に探求されるようになったのは17世紀です。ドイツのオットー・フォン・ゲーリッケ(Otto von Guericke、1602〜1686)はイオウの球を摩擦して静電気を発生させる回転式の摩擦起電機を発明しました。18世紀になるとイギリスのスティーブン・グレイ(Stephen Gray、1666〜1736年)が、物質には電気を通す導体と、電気を通さない絶縁体があることを発見し、フランスのシャルル・フランソワ・デュ・フェ(Charles Francois de Cisternay du Fay、1698〜1739)は電気には2種類あることを発見しました(プラス電気とマイナス電気。当初はガラス電気、樹脂電気と呼ばれた)。
こうした知見を基礎として、18世紀半ばにはドイツとオランダで、後に“ライデンびん”と呼ばれる蓄電びんが発明されました。これがコンデンサのルーツです。江戸中期にはオランダより長崎に、ライデンびんを利用して蓄電する摩擦起電機がもたらされました。平賀源内(1728〜1780)が修復・製作したことで有名な“エレキテル(注)”です。
(注)スズ箔と接触させた円筒ガラスをハンドルで回し、摩擦電気を発生させてライデンびんに蓄電する装置
コンデンサという言葉は、イタリアのアレッサンドロ・ボルタ(Alessandro Volta、1745〜1827年)が自ら考案した実験装置に付けた名前です。蓄電びんに大量の電気を溜め込むには、摩擦によって発生させた電気を運ぶための道具が必要です。ボルタは電気盆という道具を考案し、これで蓄電びんに電気を凝縮(コンデンス)したのです。コンデンサは向かい合った2枚の金属の電極板からなります。ボルタの電気盆と蓄電びんの金属円板が、この2枚の電極板に当たります。こうして構造的に現在のコンデンサに近いものが生まれました。
摩擦というのは未解明の謎を残した現象
プラスチックの下敷きをこすって頭の上にかざすと、髪の毛が逆立ちます。小学生のころ誰もが面白がってする理科実験です。プラスチックにマイナスの電気がたまり、頭髪にプラスの電気が誘起されて電気的に引き合うからです。空気が乾燥した冬季などは、ドアノブなどに触るとパチッと静電気の放電が起きることが多くなります。これはカーペットや衣服の摩擦などで人体にたまった静電気が、金属などを通してアース(大地に放電すること)される現象です。
雷雲も上昇気流によって空気中の粒子に摩擦電気が発生することによって生まれます。通常、雷雲の上部はプラス、下部はマイナスに分極するので、ある雲のプラス部と別の雲のマイナス部の間で放電が起きます(雲間放電)。また、雲と大地との間で放電が起きれば落雷となります。18世紀アメリカのブランクリンは、雷雲に向けてたこを揚げ、ライデンびんにたまった電気により、雷は電気現象であることを証明しました。これは極めて危険な実験で、ロシアの学者は同様の実験をして感電死しています。
ちなみに“電”という字は、雲の下から稲光が生じている様子を表したものといわれます。昔の中国では、陰と陽の“気”がぶつかり合って雷が生じると考えました。何でも陰陽に二分する古代中国の陰陽思想によるもので、電気にマイナス(陰電気)とプラス(陽電気)があることを科学的に解明していたわけではありませんが、後に中国ではエレクトリシティに“電気”という訳語を当てたのです。
以上を予備知識として、次ページからは電子部品としてのコンデンサの話に移ります。
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