EMC設計、実際はどんなことをやってるの?:超入門! ノイズ・EMCを理解しよう(4)(1/3 ページ)
今回は、実際にEMC対策部品を使用して、具体的な対策例を解説します。
電子機器におけるEMC対策・設計ノウハウの具体例
今回は、本連載の第3回「ノイズはコントロールするという考え方が大事」で述べたEMC設計とノイズの基本4要素を基に、EMC対策部品を使用した具体的な対策例を紹介します。なお、本稿は通常かなり複雑で分かりにくい内容をできるだけ簡単にお伝えするために、正確な描写を省略している点が多くあります。まずはイメージしていただくレベルと思って、読み進めていただければ幸いです。
基本4要素で使う基本的なEMC対策部品
さて、前回述べた基本4要素を皆さん覚えているでしょうか? ここでは再度記述するとともに、主にその用途で使われる部品を簡単に追記します。
1. シールド
安定電位で囲うことによって周囲にノイズをまき散らさない、または周囲から影響を与えられないようにする。あるいは電磁吸収シートなど使用したシールドの場合、熱変換して余計なエネルギー(つまりノイズ)を小さくする(EMC対策部品例:金属板、電波吸収シート、ガスケット、導電テープなど)。
2. 反射
反射してノイズを通さないことによって不要な個所にエネルギーを伝えない、または周囲からの余計なエネルギーを内部に入れない(EMC対策部品例:インダクタ、LCフィルタなど)。
3. 吸収
余計なエネルギーを熱変換し吸収することでノイズのレベルを下げる、または周囲からの余計なエネルギーを吸収することで内部を保護する(EMC対策部品例:抵抗、フェライトビーズ、電波吸収シートなど)。
4. バイパス
余計なエネルギーを分離することによって不要な個所にエネルギーを伝えない、または周囲からの余計なエネルギーを分離することで内部に入れない。(EMC対策部品例:コンデンサ、バリスタ、ダイオード、LCフィルタなど)
それでは、その基本4要素を使った具体的な対策事例をご紹介していきます。
(1)シールド
その言葉のように、周りを囲ってしまって周囲への影響や周囲からの影響をシャットアウトしてしまおうというものです。対策内容自体は非常にシンプルで分かりやすいのですが、実際はシンプルにいかないことが多いです。電磁波は周波数が低い場合、大きなすき間がないと漏れていかないですが、周波数が高くなると、小さなすき間からでも漏れてしまいます。
そのすき間を押さえればいいという話なのですが、実際は放熱の問題やコストの問題、ほかの機器との接続インターフェイスの問題があり、完全に押さえることは不可能に近くなります。また、グランドとの接点の取り方1つで、同じシールド部品を使っても効果に大きく差が出る可能性があります。
さらに、最後の手段で覆ってしまえということから、シールドを検討することがあります。そうした場合、ほとんどは理想的なシールドが困難でガスケットや導電テープを駆使して、何とか抑えることが多いです。もともと考慮に入っていなかったコストが大幅に増え、結果的にいったん製品を出すものの、後で設計に立ち戻りコストダウン設計を余儀なくされるケースも多々見受けられます。
(2)反射
電子機器の回路設計とは、つまり必要な信号をいかにロスなく伝達するかに尽きます。反射とは信号の送り手側と受け側の電気的相性の不整合から起きる現象で、受け手側から文字通り反射されて送り手側に戻る現象のことです。これをあえて利用して電気的な通りやすさをコントロールし、余計な信号(つまりノイズ)を反射し、内部から外部へのエネルギーの伝達を、もしくは外部から内部へのエネルギーの伝達を妨ぐことができます。
反射を目的に部品(主にコイル)を使う場合、周波数により必要か不必要かを区分けします。また反射とこの後説明する(3)吸収とを合わせて使うことで、より効果的な活用が可能です。具体的な部品はコイルなど周波数に応じてインピーダンス(電気の通りにくさと考えてください)を高くして、高周波のノイズを通りにくくすることで反射させるものを指します。このコイルとフェライトを併せて吸収の効果も合わせ持ったものが、フェライトビーズになります。
また、周波数では分離できず、ノイズのモードに応じて反射と吸収にて対策するコモンモードフィルタもその1つになります(※今回はコモンモードフィルタの理論は省略します)。
(3)吸収
基本4要素の中でノイズのエネルギーを直接的に減らせる項目が、この吸収になります。抵抗もしくは抵抗に値する成分を持っているもののみ吸収する(厳密にいうと熱エネルギーに変換することでエネルギーを減衰させる)効果を持っています。反射の項で記述したように、フェライトも抵抗成分によって吸収することが可能です。
(2)反射と(3)吸収の具体的な対策事例は併せて記述します。前回、音が広がるのを防ぐためには、スピーカの役割をしてしまう個所へのエネルギー伝達を防ぐと表現しました。そのように電気的にアンテナになってしまう個所へエネルギーを伝達しないよう、その手前に部品を入れることで伝達することを防ぎます。
具体的には、ケーブルが分かりやすいと思います。ケーブルは多くの場合、アンテナを形成し多くのノイズを放射することがあります。そこにエネルギーを伝達させないようにケーブルの基板側にフェライトコアを巻いたり、ケーブルを接続しているコネクタの近くにフェライトビーズや3端子フィルタなどを配置します。この部品に方向性(一部の3端子フィルタは除く)はありませんから、ケーブルにエネルギーを伝えにくくするとともに、ケーブルからのノイズを入りにくくもします。
(4)バイパス
最後にバイパスですが、いろいろな要素で選別して分離します。その要素は周波数や方向、電圧が一般的です。最も多く使われる素子としてコンデンサがありますが、コンデンサは周波数に応じて電気を通したり、通さなかったりする役目を果たします。その周波数によってバイパスを形成することで、余計なところにエネルギーを伝えない役目を果たします。
その際に必要なことは、バイパスされた後に、その余計なエネルギーは消えてなくなるわけではないということです。よく回路図で電源とグランド間にコンデンサを入れた簡単な絵を描くと思います(図3を参照してください)。回路図上ではグランドのマークが接続されてあたかもそこで終わりのような表現をされますが、実際の回路では終わりではなく、回路が形成される元に戻っていくのです。バイパスもまた、バイパスした後のエネルギーをどこにどのように返すのかによって大きく効果が変わってきます。
周波数以外では、方向で分離するものとしてダイオードがあります。ある方向(順方向)の電流は通しますが、その逆向きには電気を流さなくすることでバイパスを形成します。また、その機能に電圧でも分離することを追加したツェナーダイオードがあります。順方向に関しては電圧にかかわらず電流を流しますが、逆向きはある電圧になるまでは電流を流さないで、ある電圧になったとき、水門を開くがごとく電流を流す機能を有します。
そうすることで、例えば静電気などの予期しない電圧が掛かったときにだけバイパスを形成し、余計な個所に電圧が掛からないように働きます。また、同じような機能で向きにかかわらず電圧のみで分離するバリスタ、アレスタなども静電気やサージなどといった過度的な電圧に対してバイパスを形成することで、メインのICの破壊を防いだりするなどの役目を果たします。
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