オーディオ機器の実装技術の勘所 〜電源回路から実装レイアウトまで〜:デジタルオーディオの基礎から応用(最終回)(1/3 ページ)
最終回は、デジタルオーディオ機器の総合的な実装技術について解説する。実装技術と一言に言ってもその適用範囲は広く、「電源回路」、「各主要機能セクションの配置」、「アナログ回路レイアウト」、「使用部品の選択」、「各機能セクションのインタフェース」といったさまざまな観点に気を配る必要がある。
デジタルオーディオ機器は、価格が数千円の廉価モデルから百万円を超えるような高級モデルまで多種多様である。これらのオーディオ機器の「機能」は、最終的にはアナログ・オーディオ信号の再生であり、その「性能」はオーディオ特性および、主観的な要素の入った音質である。性能の優劣は実装技術によって大きく影響されるのが現実である。「デジタルオーディオの基礎から応用」と題した本連載の最終回では、総合的な実装技術について解説する。
実装技術とは?重要ポイントを確認しよう
実装技術と一言に言っても、その適用範囲は広い。オーディオに限らず電子回路の電気設計は、回路図の設計とそれを具体化したレイアウト設計の両者がマッチングしていなければならない。ここでいうマッチングとは、設計回路図の動作が確実に実行できる実装レイアウトを指す。例えば、外来ノイズを混入させてしてしまうレイアウトは、マッチングがとれてないと言える。
また、オーディオ処理の各機能セクションの配置、筐体(きょうたい)デザインを含めた機構設計、電源部、各機能セクションのインタフェース接続、使用部品の選択といったさまざまな観点が総合されてオーディオ機器として最終的に完成する。ここでは、これらの作業を総合して“実装技術”として扱うことにする。
実装技術の重要なポイントには、「電源回路」、「各主要機能セクションの配置」、「アナログ回路レイアウト」、「使用部品の選択」、「各機能セクションのインタフェース」などがある。以下に、それぞれの重要ポイントを設計する際に知っておくべき内容をまとめた。
電源回路 〜デジタルノイズの回り込みを防ごう〜
ほとんどのデジタルオーディオ機器は、大別すればデジタル部とアナログ部で構成されており、それぞれに専用電源を用意することが一般的である。
電源回路の仕様としては定格電圧や定格電流が基本だが、アナログ部に対してはとりわけ負荷変動に対する安定性や、リップル/ノイズ量が電源回路の重要な指標となる。当然、アナログ部に対しては、シリーズレギュレーターを使って安定化電源回路を構成する必要がある。また、オーディオ業界での長年の経験則として、電源容量(特に定格電流)に余裕をもたせるほど高音質化に効果があるとされている。
図1に電源の簡易的な回路ブロックを示そう。電源を構成するときに最も考慮しなければならないのが、プリント基板のパターンレイアウトやワイヤー接続を含めた、グラウンド(GND)処理である。図1に示したアナログ部電源コモン(AGND)と、デジタル部電源コモン(DGND)はそれぞれ専用電源ラインである。しかし、信号インタフェースのコモンレベルを合わせる(同電位)ために、最終的にはAGNDとDGNDを共通に接続し、機器のコモンGNDにワンポイントアースで接続している。
ここで着目すべきは、デジタル回路で発生するデジタルノイズの存在である。このデジタルノイズの主な発生源は、クロックのスイッチングノイズだ。図1に示したノイズリターン路を通って、ノイズエネルギーがGNDを介してアナログ部に回り込むことになる。この影響を最小化するには、GNDインピーダンスを低く抑え、GND電流のルート設計を最適化することが必要だ。
当然のことながら、AGNDとDGNDを共通に接続しなければ、デジタルノイズがアナログ部に直接回り込むことはない。しかし、ほとんどのデジタルオーディオ機器では、D-AコンバータICが存在する。ここで、デジタル入力インタフェース信号のコモン電位(DGND)とD-AコンバータICの動作コモン電位(AGND)が接続されていなければ、両電位はフローティング状態となり、正確にオーディオ信号を処理することができなくなってしまうのだ。
このような問題は、デジタル・アイソレータICを導入することで解決できる。図2にデジタル・アイソレータによるノイズ絶縁の概念を示した。デジタル・アイソレータは、ロジック信号を伝送する一方で、入力部の電源/GNDと出力部の電源/GNDを完全に分離(絶縁)する。絶縁耐圧(VISO)は通常で1000V以上と高く、オーディオ・アプリケーションでは問題無く使用することができる。これを使うことで、GNDやクロック波形に重畳されたデジタルノイズの伝達を回避することが可能だ。実際に、幾つかのデジタルオーディオ機器に採用された実績もある。
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