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オーディオ機器の実装技術の勘所 〜電源回路から実装レイアウトまで〜デジタルオーディオの基礎から応用(最終回)(2/3 ページ)

最終回は、デジタルオーディオ機器の総合的な実装技術について解説する。実装技術と一言に言ってもその適用範囲は広く、「電源回路」、「各主要機能セクションの配置」、「アナログ回路レイアウト」、「使用部品の選択」、「各機能セクションのインタフェース」といったさまざまな観点に気を配る必要がある。

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アナログ回路レイアウト 〜信号はストレートに出力しよう〜

 デジタルオーディオ機器における最重要セクションの1つが、D-A変換およびアナログ出力回路である。このセクションが、主要オーディオ特性やTHD+N(全高調波歪み率+雑音)特性、ダイナミックレンジ特性、チャンネルセパレーション特性、周波数特性といった電気的特性および音質を決定するからだ。

 回路設計はもちろんであるが、実はプリント基板のレイアウトの設計が大きく特性に影響を与える。D-AコンバータICの品種ごとにレイアウト設計から影響を受ける度合いは異なるとはいえ、D-Aコンバータ、ポストLPF、ライン出力アンプのレイアウトは重要である。

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図3 D-A変換アナログ部レイアウト例 (クリックで拡大します)

 図3にTexas Instrumentsのステレオ差動電流出力型D-AコンバータIC「PCM1792A」の評価ボードのD-A変換アナログ部レイアウト(「シルク図」を抜粋したもの)を示した。図3において着目すべきレイアウト上の重要ポイントは、「D-AコンバータICの電源デカップリングコンデンサの配置」、「D-Aコンバータ出力からライン出力間の回路配置と信号フロー」の2点である。

 1つ目の 電源デカップリングコンデンサ配置については、D-AコンバータICと最短距離で配置・接続していることが大切だ。ここで、アルミ電解コンデンサ、フィルムコンデンサ、積層セラミックコンデンサは、電源ピンに対して最適の効果を上げるように選択されている。

 もう一方の信号フローについて解説しよう。PCM1792Aは差動電流出力なので、1チャンネルに対して必要となるアナログ出力回路は、DIP型オペアンプによるIVC(電流-電圧変換)回路が2回路(+側、−側)と、差動・シングル変換およびポストLPFを兼用した回路である。図2を見ると、これらの信号フローは緑色の破線で示している通り、最終的なライン出力までストレートなフローになっていることが分かる。ストレートなフローとは、信号が通過する能動素子や受動素子が最小限で、物理的にも信号ラインがなるべく直線であることを指す。こうすることで、外部から影響を受ける部分が最小限ると同時に、信号伝送路上のプリント基板パターンの残留インピーダンスも最小化できる効果がある。

 図2の評価ボードでは、2Vrms出力、4.5Vrms出力、バランス出力をジャンパー接続で切り替えられるように工夫しているので若干の遠回りな部分はあるものの、なるべく最短距離で信号が伝送されるように各回路が配置されている。

使用部品の選択 〜主観要素の音質に影響する〜

 音質を高めるには使用する部品にも配慮する必要がある。一般には、機構構造の材料やプリント基板の材料、配線材といった材質をはじめ、「金メッキRCAピン」に代表されるようなコネクタ材質などがある。もちろん、金属皮膜抵抗、オーディオ品質のコンデンサなどの電気部品も重要である。オーディオ品質のコンデンサとは、音質への影響要因である電解液材質やリード線材質、エッチング箔精度、電解紙材料などを適正化した品種である。一般品に比べて音質が優れており、幾つかのコンデンサメ―カからオーディオ専用として数種類販売されている。

 GNDノイズの迷走を抑制するために筐体(きょうたい)材質の真ちゅうに銅メッキを施す処置も音質対策の1つと言える。不思議なことに、確かに材質Aと材質Bの比較試聴や、部品Aと部品Bの比較試聴で「差異」が発生することは事実である。設計者あるいはその企業の何らかの音質マイスターという立場の者にとって、好ましい音質にまとめるのはこうした音質対策を突き詰める作業になる。

図
図4 コンデンサによる音質対策例

 D-A変換およびアナログ回路に特化すれば、音質対策のメインはコンデンサの容量/耐圧とコンデンサ・タイプの選択になる。前述のPCM1792Aの評価ボードにおける音質対策例を図4に示す。10〜30MHz帯のマスタークロックに起因したスイッチングノイズに対するデカップリング効果としては、高周波(RF)帯域のインピーダンス特性で見れば積層セラミックコンデンサが最適である。ただ、音質的には不向きであるので、静電容量を1/10としてRF領域のインピーダンス特性を考慮したオーディオ品質のフィルムコンデンサに置き換えることで、音質の向上が期待できる。

 この他、最終的なアナログ変換部の電源デカップリングは一般的なアルミ電解コンデンサではなく、オーディオ品質のアルミ電解コンデンサを使用している。D-AコンバータICの内部アナログ系に関与する高速スイッチング動作部の電源に対するデカップリングは、特に音質に与える影響が大きい。以上の説明はあくまで一例であり、それぞれの対策の音質への影響と判断は個人の主観ごとに異なるが、差異が存在することは事実である。

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